ユーザはサイトやジャンルの垣根を越えて飛び回る
仕事上の問題解決に精を出すユーザは、様々なサービス分野を行き来しながら、数々のウェブサイトを飛び回る。単独で十分なユーザ・エクスペリエンスを提供できるウェブサイトは一つとしてない。
全体像を知るために、細部を調べ倒さなければならないことは往々にしてある。最近の調査で、ユーザの行動にある重要な変化がみられるようになってきていることがわかった。しかし、際だった結論を羅列することで、ビジネスへの真の影響をかえって見えなくしてしまう恐れがある。この変化が個々のウェブサイトにとってどのような意味を持つのかをしっかりと見据えるには、ユーザがそれぞれのビジネスとどう向き合っているのかを見なければならない。
我々が最近実施したB2Bのユーザビリティ調査から、あるユーザの行動を取り上げて見てみることにしよう。上司がプレゼンテーションに使うための携帯型プロジェクターについて調査をしているユーザの事例である。B2Bでは、プロジェクターは低価格帯の製品に分類され、一台$1,500程度と見込まれる。低価格帯の製品探索を事例に選んだのは、探索行動が幾分か単純化されるため、B2Cで高価格帯の製品を探索する際のユーザ行動まで視野に入れられる好例になると考えたからだ。(B2B調査では、高度に専門特化した人材が、数万ドル、数十万ドルにも及ぶ高額の製品やサービスを探す様子を目にすることも多い。しかし、そういった例は、B2Bとは無縁の読者にはさほど有益なものとはならない。)
補足記事には、プロジェクターを探す中でユーザがアクセスしたウェブサイトの詳細と遷移の様子が順を追って記録されており、一読に値する。ほんの一握りの有効な情報を入手するために、ユーザがどれほどの回り道を強いられたのかがはっきりと分かるはずだ。
要した時間と訪れたサイト
44分25秒をかけて、ユーザは15のウェブサイトに、ページ数で言うと93ページにアクセスした。平均をとると、1ページにつき29秒である。25のウェブサイトを使ってユーザの行動観察調査を実施して得られたページあたりの平均滞留時間に近い数字である。
セッションの終わりまでに、ユーザは3機種のプロジェクターをリストアップし、その中の1つ、Mitsubishi XD480Uの購入を上司に薦めるという結論に達した。他の2機種よりも高額ではあるが、ランプ交換のコストが嵩むことを勘案し、ランプ寿命の長い Mitsubishi の製品が最適の選択と判断した。
この結論に達するまでに、ユーザは13回の検索 — 検索エンジンを使って10回、サイト内検索を使って3回 — を実行した。アクセスした15のウェブサイトのうち、6つはURLを直接入力して遷移しようとしたものである(そのうち2つはURLが間違っていたが、最終的には検索を使ってアクセスすることができた。残りの4つはURLを直接入力してアクセスした)。アクセスしたウェブサイトの中にあったリンクを辿って行き着いたサイトが1つあり、残りの8サイトには検索結果からアクセスした(オーガニックリンクからが6サイト、スポンサードリンクからが2サイトだった)。
検索を多用するのは、様々な調査でよく目にする光景である。今回ご紹介しているユーザは、B2B調査ではよくあることだが、大変豊富な知識を持った方だった。これまでにも、据え置きタイプではあったものの多数のプロジェクターを購入していた。過去の経験を生かしてURLを直接入力すること(そして、行きたいサイトへ直接アクセスすること)が可能であったし、通常よりもその割合が高くなっている。
スポンサードリンクのクリックに関しては、広告主の目から見るととても残念なものであった。ユーザは、そのサイトでの製品購入をまったく考えていなかった。単に、そこで提供される情報が欲しかっただけである。具体的に言うと、候補をいくつかの機種にまで絞り込んだ後、次にユーザが知りたかったのは、ランプの交換にかかる費用を加えた総所有コストだった。製造元のサイトでこの情報を呈示しているところはなかったため、交換ランプの価格で検索をかけ、ランプ販売を専門とするeコマースサイトにある広告をクリックした。おかげで、ユーザは総所有コストを把握できたわけだが、実際にそこでランプを購入する確率は極めて低い。プロジェクターを購入し、数年間、使用した後でなければランプの交換は必要とならないからだ。数年後、このサイトのことを覚えているとは考えにくい。今回のクリックに対して料金を支払っても、それが売り上げにつながることはなかったということになる。
ジャンルを横断
以下の円グラフは、ユーザがアクセスした15のウェブサイトと、それぞれでユーザが滞留した時間の分布を示したものである。
どのセッションも、ユーザがアクセスしたウェブサイトのユーザビリティに関する所見が盛り沢山に得られるものだった。複数のセッションを観察して得られた知見をまとめ、B2Bの製造元サイト、eコマースサイト、レビューサイトなどにご参考いただける総括的なデザインガイドラインの構築を目指している。未だ分析途中だが、今年後半に予定しているカンファレンスの中で完成したガイドラインをご紹介するつもりだ。
ここでは、2つの大きなポイントに焦点を絞りたい。B2Bのみならず、B2Cを考える際にも重要となるポイントであり、他の調査でもその重要性は確認されてきている。
- ユーザは、ウェブサイト間を飛び回る。複数の競合するウェブサイトから掻き集めた断片的な情報を元に、ユーザは直面している問題に対する十分な理解を構築しようと努める。
- ユーザは、様々なジャンルのウェブサイトを行き来する。検索エンジンを拠点として、製造元や小売店のサイト、レビューサイトなどをユーザは行き交うのである。
ご紹介した事例では、オフラインの情報源も活用されていた。たとえば、プロジェクターを使ってプレゼンテーションをするときの聴衆規模を考えたときに、明るさは何ルーメンが最適となるかを教えてくれるサイトは結局見つからなかった。幸いにも、このユーザは過去にもプロジェクターを購入しており、欲しい情報の載った書籍を持っていた。また、各サイトで得られた情報を記録し、記憶するために、手書きのメモを活用するユーザでもあった。
重要な責務を果たそうと努めるユーザを相手に、ユーザエクスペリエンスの包括的なデザインを実現しようとすることは途方もない挑戦であり、達成の見込みは低い。B2Bユーザはほぼ例外なく — 多くのB2Cユーザの場合も– 複数のウェブサイトを飛び回って、エクスペリエンスを重ねている。サイトオーナーが行き着く結論は、以下の2点だろう。
- Jakobの法則 — “ユーザは多くの時間を 他の ウェブサイトで過ごす” — は、今、こう書き換えられる:ユーザは多くの時間を他のウェブサイトで過ごす。たとえ、わずか1つのタスクを達成しようとするときでさえも。上に挙げた例で、ユーザの滞留時間がもっとも長かった3つのサイト(CNet, Google, Dellの3サイト)でさえ、それぞれは全体の17%を占めるに過ぎなかった。ユーザビリティのガイドラインやデザインの慣習に従うことの重要性が改めて強調された。そうなっていれば、ほんの少し立ち寄ったという時間の中で、サイトの見方が分からずに苦労したり、目新しい機能の学習に時間を費やしたりするのではなく、そこで提供される製品やサービスをしっかりと知ってもらうことができる。
- ユーザが必要とする情報をすべて提供しよう。そうしないと、みすみすユーザが立ち去るのを見逃すことになる。そうでなくても、どうせすぐにユーザは立ち去ってしまうのだが。特に、価格は忘れずに呈示すべきである(そうしなければ、2002年ウェブデザインの間違いトップ10で見事1位の座を獲得した誤りを犯すことになる)。質問に対する答えを得るために他のウェブサイトを見なければならないとしたら、最終的な結論もやはり他で見つけられることになるだろう。あなたのサイトを丹念に探索してくれると思ってはならない。出来の悪そうな、情報も少ない印象を与えるウェブサイトは、いとも簡単に見限られてしまうことだろう。
人々がウェブ(個々のウェブサイトではなく、ウェブ全体)を使っているのを見て驚かされるのは、価値のない情報に埋もれた中を苦労して読み進めなければならない現状である。製品を“new & exciting”と称して販売促進しようと盛り込まれている大量の広告やバナーのおかげで無駄に時間のかかるサイトを、ユーザは公然と無視する。仕事でウェブを活用するユーザのユーザエクスペリエンスを向上させるためには、以下に挙げる3つの単純なデザインガイドラインに従うことが重要である。
- 製品情報に焦点をあてること。製品情報をホームページに記載し、各製品の詳細情報へと素早く遷移できるようにしてあげることだ。一番に欲しい情報を見つけるのに時間がかかればかかるほど、そのサイトで情報を探そうすることはなくなるだろう。他のサイトが、いつでもユーザを手招きしているのだから。
- 多面的なナビゲーションを採用すること。類似製品ではあるが、見方によっては少しターゲットの異なる製品同士にもリンクを張るのだ。たとえば、光度は同じだが、重量の異なるプロジェクター2機種を相互にリンクで結ぶ。それだけで、取り扱い品目をもっと見てみようとユーザをその気にさせられる。
- 他のサイトにもリンクを張ることを積極的に推進しよう。ユーザは結局、他のサイトへ移っていくのだ。であれば、自身にとっても有用な場所へ道案内したほうがよさそうだ。そうしなければ、次の検索結果に流されて、ユーザはどこかへ行ってしまうことになる。
ウェブ全体の向上が求められる
ウェブは、以下の2点においてユーザを失望させている。
- 複数のウェブサイトを行き交うときの支援がない。関連すると考えられるウェブサイトをまとめて表示するといった検索エンジンによるサービスや、レビューサイトや製造元がeコマースサイトの製品ページへ直リンクを張るケースなどが多少見られる程度に過ぎない。事例に登場したユーザは、製造元のサイト、レビューサイト、プロジェクターを販売するeコマースサイト、交換用ランプを販売するeコマースサイトら4つのサイトから集めた情報を総合して、理解を構築することを繰り返さなければならなかった。ウェブを利用するユーザの、総合的なユーザエクスペリエンスを向上させるためには、複数のサイトを横断するのに役立つツールが求められる。
- 質の高い関係者以外によるレビューを見つけられない製品もあった。これには、主に2つの理由が考えられる。まず1つ目は、ウェブ全体のビジネスモデルが、現在上手く機能していないことがある。いくらコンテンツを提供しても、儲けのほとんどを検索エンジンが吸い取る仕組みになっているため、独自のコンテンツを提供することに十分な動機付けがない。それでも、製造元のサイトは、ユーザにとって有益なレビューを提供する外部のサイトにリンクを張らずにいることで、相当のビジネス機会を失っていることになる。(これは、eコマースの長期的なユーザビリティガイドラインにあたるが、B2Bの製造元サイトにとっても、たとえウェブサイト上で製品を販売することがないとしても、同様に適応されるガイドラインである。) 第2に、現状の検索ツールは、ユーザのニーズとウェブサイトのコンテンツとを関連づけて表示することができないため、的確なレビューを選んで表示することができないという問題がある。キーワードの出現回数やリンク数などで計られる品質評価によってコンテンツを“解読”しようとする現在の仕組みは、ユーザニーズを支援するのに十分とは言えないのである。
多くのユーザが、一つの統合された情報リソースとしてウェブを捉え、タスクに応じてウェブサイトを様々に活用していることは動かぬ事実である。ブラウザにも、ウェブサイトにも、ユーザの行動に見られる変化を十分に捉えているものは見あたらない。今後数年間のうちに、必要に迫られてくることになるだろう。
2006 年 2 月 6 日