Web読者のアイトラッキング調査
2000年5月、Poynter Instituteは、ウェブ上のニュースがどのように読まれているのかについて、主として新聞社のサイトを中心にアイトラッキング調査した結果を発表した。彼らの得た結果は、ユーザがどのようにウェブを読んでいるかについて1994年、および1997年に私が調査してわかったことを再確認するものだ。異なった方法論を用い、異なったユーザと異なったサイトを対象に、異なった目的の元に、さらに言えば、ウェブの成長過程でのまったく異なった時点で調査された結果であるにも関わらず、である。
Poynterの調査には、補足記事に書いたように方法論的に弱いところがある。このため、細かい部分で2、3疑わしい面があるものの、彼らの結論は、大筋では非常にしっかりとした信頼に足るものである。毎年毎年、違った人がまったく同じ結果を得ているとしたら、その結論はそろそろまじめに受け取られるべきだ。そして、希望的観測ではなく、データに基づいたウェブデザインを行うべきだ。
ウェブコンテンツは、知的な意味で破綻している。オンラインでユーザがどのように振舞うかを考慮してデザインされたことなどめったにない。ほとんどありとあらゆるウェブサイトが、印刷物と何ら変わりないコンテンツを掲載している。オンライン専門のウェブマガジンでさえ、リニアな記事を、テキストのブロックを中心にした伝統的なレイアウトで掲載している。ハイパーリンクもなければ、流し読みにも適さない。オンラインに最適化された新しい形のコンテンツには、めったにお目にかかれない。だから、ウェブに適した書き方の見本を示してほしい、と言われても、私が挙げられるのは、相変わらず以下の4つだけだ。すなわち、Tomalak’s Realm、AnchorDesk、Feed Dailyミニコラム、それにYahoo Full Coverageの4つである。
おもな調査結果
ユーザを引き付けるのはグラフィックよりまずテキスト
初めて訪れたページでは、ユーザは画像よりもテキストを凝視しているの方が2倍近く長い。一般的に、ユーザの目をまず引き付けるのは見出しであり、記事の要約であり、キャプションであった。中には、2回目、3回目に訪れるまで、画像には一目もくれなかった人がいた。
見出しは簡潔、直截に
1997年の私たちの調査結果を裏付ける結果となったのだが、このたびの調査でも、妙にこった見出しよりも、ズバリそのものの見出しの方がユーザの評価は高かった。印刷物の新聞紙の見出しより、ウェブの見出しの方がよくできていると評価するユーザもいるということが新たにわかった。どうやら、以前の調査結果をよく肝に銘じて、オンライン用に見出しをリライトするニュースサイトがちらほら現れてきたようだ。
流し読みと部分的熟読
要約部分しか読まないことにしているというユーザは、記事全体を読むユーザの3倍以上もいる。『完全版』記事を読む場合でも、ユーザが読んでいるのは、テキストの中のたった75%だ。
言い換えると、もっとも共通して見られる行動とは情報ハントであって、無情にも、細かいことにはこだわっていない。しかし、いったん探し物が見つかると、ユーザはより深い情報を求めることがある。このようにウェブコンテンツは情報アクセスの両面をサポートする必要がある。すなわち、探し物と消費だ。テキストは流し読みできるようにしておく必要があるが、ユーザが求める回答も提供する必要がある。
あちこちブラウジング
Poynterの調査では、ユーザはしばしば複数のサイトを行ったり来たりしていた。
- あるウィンドウで何か読んでいる
- 次に、別のウィンドウに切り替えて違うサイトを訪問する
- やがて、最初のウィンドウに戻って最初のサイトの続きをもう少し読む。そのセッション中に、再度2番目のウィンドウに切り替える可能性もある
1994年という早期の時点で、私はこの行動を観察していた。ユーザは、何枚かのウィンドウを使って、ブラウジングセッションを複数交互に行うのだ。このような方法は、複数のフルページのウィンドウを開けるくらいモニターが大きいと特にやりやすいが、小さなスクリーンでも可能である。同時並行のセッションが8つ以下なら、Windowsのタスクバーは、セッション内の切り替えブラウジングを楽にしてくれる。
1994年、切り替えブラウジングに初めてお目にかかったときは私も驚いた。それは認めよう。それ以前の調査では、この行動に注目したものはなかったので、特定のサイトを閲覧している時は、もう十分と思うまでの間は、そのナビゲーション機能の範疇にとどまるものと思い込んでいたからだ。思い起こしてみれば、その昔、切り替え行動がみられなかった理由ははっきりしている。当時の調査対象は、十分満足の行くハイパースペースとはいえなかったのだ。
サイトデザイナーへの教訓はこうだ。ユーザはひとつのサイトに集中しているわけではない。サイトを「訪問」するということすら疑わしい。ユーザがサイトに「訪問中」であっても、彼または彼女は、同時に競争相手のサイトもチェックしているのだ。ウェブ全体が本当にひとつとなってユーザエクスペリエンスを形成しているわけだ。
サイトデザインは、しょっちゅう出たり入ったりする人たちに合わせなくてはならない。
- ユーザが自分ひとりで再学習できるようにせよ
- 簡潔でシンプルな見出しがあれば、ユーザはひとめでそのページが何のページなのか理解できる
- 目立ったキーワードから始まるシンプルなページタイトルは、最小化してWindowsのタスクバーに収納されたタイトル群から選び出すとき役に立つ
- ユーザがその閲覧セッションで何をやったかすべて覚えているとは期待しないこと
- 階層履歴(breadcrumbs)、その他の位置情報表示ツールを提供すること
- 標準のリンクカラーを変更してはならない。ユーザがどのページを見たか、わかりにくくなる。
- 標準的な用語を用いよう。文脈を切り替えたり、あなた独自の名称に合わせて頭を切り替えたりする時間を最小限に。
- テストの最中に、ユーザが自分からサイトを移りそうになかったら、 ユーザを数分間さえぎってみよう(サイトに戻ってこられるかどうかのユーザ能力テスト)
新聞社以外のサイトとの関連
新聞サイトに特化したことが、Poynter調査の本当の弱みではない。狭いジャンルで調査することも、十分フェアなことだ。だが、ウェブサイトのほとんどは新聞サイトではないから、この調査結果を、企業サイト、eコマースサイト、イントラネットのような他のタイプのサイトにそのまま応用するには限界があるということは指摘しておきたい。
- 新聞社は通常かなり誠実なので、信頼が問題になることは少ない。他のサイトは、信頼を勝ち取るために戦わなければならないし、売り込みを減らし、スローガンやその他の要素を減らして、不信感を抱かせないようにしなくてはならない。
- 他のサイトでは、ユーザの滞在時間はずっと短いようだ。たいていのサイトでは10分もいてくれたら長い方である。
- 新聞サイトに比較すると、ユーザは他のサイトでは少ししか読まない。一貫した編集方針とジャーナリスティックな客観性があるために、人々はすすんでたくさんの記事を読む。ニュースを読むというタスクは、より多くの言葉を処理しようという意思の表明でもある。平均的なウェブ上でのタスクは、特定の情報やソリューションを探し出すことに注力している。
今回のアイトラッキング調査は、ほとんどあらゆるタイプのウェブサイトに適用できる。Poynterの調査結果のほとんどは、これ以前に数多くのタイプのサイトを対象に行われた調査結果を補強する結果となっている。ゆえに、これはウェブ上での読み方の基本的な特徴について述べたものであって、特に新聞に限ったものではない。
通常と異なった読書行動についての証拠リストに、新たな調査が加わった。これをきっかけに、ウェブには独特の文章作法が必要であり、オンラインコンテンツを熟知した専門のウェブ編集者を雇うべきなのだということを、より多くのインターネットのエグゼクティブたちに理解してもらいたい。
くわしくはこちら
- Poynter Institute: プロジェクト報告サイト (メインサイト) – 残念なことに、このサイトはフレームを使っている。おかげで特定の調査結果にリンクを張るのがむずかしい。
- WIRED News: Online News All About Text
2000年5月14日