モバイルWeb2009 = デスクトップWeb1998
携帯電話ユーザ(ハイエンド機含む)はウェブサイトを利用するのに悪戦苦闘している。この問題を解決するには、モバイル専用のウェブサイトを提供するしかない。
最近、私は多くのユーザビリティテストのセッションを実施して、被験者が自分の携帯電話でウェブサイトを使おうとする様子を観察した。それは冷や汗ものの体験であった ? それはユーザと調査担当者の両方にとって。我々がそこで観察したユーザエクスペリエンス、まるでタイムマシンに乗って 1998年に戻ったようなものであった。その類似点は数えきれない程ある:
- 成功率の悪さ。厳密な数値を公表するのは、ロンドンで予定している次のラウンドのテストの完了を待ちたいと思う。しかし、アメリカで行ったテストでは、携帯電話を使ってウェブサイト上でタスクを行う時、ユーザは成功するよりも失敗することの方が多かった。
- ダウンロード時間がユーザエクスペリエンスを支配する。特に、3G をサポートしない端末では、ほとんどのページの読み込みに極めて長い時間がかかる。しかし、最上位機種であってもそのブラウジングの速さはデスクトップコンピュータに比べるとずっと遅い。結果として、ユーザは引き続きページを追加リクエストする気になれず、簡単にあきらめてしまう。
- スクロールは、ユーザビリティの重大な問題である。1990年代と対照的に、ユーザがスクロールしないのが問題ではない ? 問題は彼らがスクロールをし過ぎるということである。携帯では、彼らはごく頻繁に、極めて小さいのぞき穴を移動させる必要があり、ページ上のどこにいるのか、何がそのページにあるのかの両方を見失ってしまう。よくあるのは、ちょっとスクロールし過ぎてそれに気付かずに通り過ぎてしまうことだ。ユーザが見ることの出来る領域が減った結果生じた問題は、低視力のユーザと行ったテストから得られたユーザビリティの問題を、強く思い起こさせる。携帯を使うと、あなたは身体に障害があるユーザの体験をさせられる。そして、我々は皆、ほとんどのサイトがアクセシビリティを無視していることを承知している。
- 肥大化したページはユーザを苦しめている。今日の拡大した PC モニターで見ると、我々がテストしたサイトのほとんどは膨張しているようには感じられないが、携帯上に描画されるとそれは大きくなり過ぎて、爆発しても不思議ではないように見える。ユーザが見たいと思っているアイテムが、大きな画像や長々としたページに覆い隠され、途方に暮れてしまうことはよくある。
- 見慣れないブラウザのユーザインターフェイスは、ユーザの選択肢を制限する。人々は、その UI を理解していないためデバイスを準最適なレベルで扱っており、完全にはそれを使いこなしていない。デスクトップのブラウザはある程度安定していて、バージョンアップしても大きな変更点はほとんど見られない(過去10年間ではおそらく、タブを使ったブラウジングが唯一の変更点だろう)。対照的に、多くの人は2年毎に新しい携帯端末を手に入れ、また、様々なモデル間においてブラウジングのエクスペリエンスは大いに異なる。このことは、また、ユーザが友達や同僚を観察することによって学習できるチャンスを制限する。なぜなら、彼らは異なる電話を持っているかもしれないからだ。
- JavaScript のクラッシュと、ビデオなど高度なメディアタイプに関連する問題。みなさん、シンプルにいこう ? 特に、あなたがあらゆる種類の電話で何かを動作させたいのであれば。
- 抵抗感がある。携帯上でウェブサイトを使っていろいろなタスク(特に買い物)を行うことに。被験者から分かったことは、サイトが改善され、ユーザの信用を得ない限り、モバイルコマースの未来は暗い。
- 検索の優位性。これは 1998年に比べて、今日、より顕著に現れていることである。しかし、これは以前から見られたことで、モバイル利用においては確かに強く現れている。
- 旧メディア向けのデザイン。1990年代には、多くのサイトデザインは、見栄えの良いプリントの出版物を真似していて、インタラクションのサポートは限られていた。今日サイトは、ウェブサイトとして上手くデザインされている。より具体的に言うと、それらは デスクトップ向けのウェブサイトとしてデザインされていて、それはモバイル利用には合わないメディアである; たとえ最上位機種の電話でもインタラクティブに操作するのは難しく、シンプルなデザインが必須である。
モバイルデバイスカテゴリ別のユーザビリティ
我々のテストの結果、モバイルユーザエクスペリエンスは以下の 3つのクラスに区別出来ることが分かった。主に画面サイズにより区別される:
- 一般的な携帯電話、小さな画面のもの。一般的にフィーチャーフォンと呼ばれ、これらのデバイスが市場の大部分を占めている(少なくともある統計においては 85%)。この種のデバイスのユーザビリティは非常に悪く、ウェブサイトの最小限のインタラクションしかサポートしない。
- スマートフォン、様々な形状のもの。一般的には中くらいの画面で、フルアルファベットのキーパッドをもつ。これらのデバイスは、時に 3G インターネット接続機能、おそらく WiFi でさえもサポートすることがある。スマートフォンのユーザビリティは悪く、ウェブサイト上でユーザがタスクを完了するには悪戦苦闘することになる。
- フルスクリーンの携帯 (主に iPhone)、デバイス自体のサイズと同じ大きさのタッチスクリーンをもち、ダイレクトマニュピュレーションとタッチによって操作する完全な GUI を実現しているもの。これらのデバイスは、3G インターネット接続機能を持ち、WiFi で接続すると、より一層速いスピードが得られる。これらのデバイスもまた貧弱なユーザビリティを提供する; 単純なタスクに限っては、それなりに簡単に出来る ? 更に、モバイル用に最適化され、上手くデザインされたウェブサイトにおいてのみ、それは可能である。
原則として、3つめのカテゴリに iPhone 以外のモデルも含むべきだ。我々は、何人かのユーザが他のフルスクリーンデバイスを普通に使いこなしているのを観察した。しかし、現実には、我々がテストしたその他のフルスクリーンデバイスのほとんどは非常に貧弱なユーザビリティで、普通のスマートフォンでウェブサイトをブラウザするのと対して変わらない程度であった。Apple 以外のベンダーは、iPhone のハードウェアの特徴(大きなタッチスクリーン)をコピーすればそれで十分というわけではない。彼らはまた、ユーザビリティの優れた GUI を備えたソフトウェアを提供しなければならない。
モバイル専用サイトが最適
最高のユーザパフォーマンスを実現するには、各モバイルデバイスのクラスに合わせて複数のウェブサイトをデザインするべきだ ? 画面が小さければ小さい程、機能の数を制限し、デザイン要素を削る。一番よい方法は、ブラウジングにとどまらず、最も熱心なユーザを対象にしたダウンロード可能なモバイルアプリケーションを提供することである。しかしながら、現実には、サイトの規模が最も大きく予算のあるところだけが、デスクトップ用に最適化したウェブサイトに加えて、こうした追加の作業を行うことが出来るのである。
ある程度予算があるサイトであれば、2つのモバイルデザインを構築するべきである: 1つは低機能の携帯電話向けに、もう1つはスマートフォンや画面の大きな電話用にである。この戦略は、ありとあらゆるフィーチャーフォンを持つ様々な消費者を広くターゲットにしているのであれば特に良い。小さなデバイスでのエクスペリエンスは大いに異なるので、専用の、規模をずっと縮小したデザインが必要である。一方、大きなデバイスを持つ人達は、モバイルフレンドリーなデザイン、かといって最低限ではないデザインによるメリットを受ける。フィーチャーフォンでのブラウジングは基本的に直線的なエクスペリエンスである。一方、スマートフォンやフルスクリーンのブラウジングは、GUI エクスペリエンスをより一層提供する ? 限られた表示領域ではあるけれども。
しかしながら、多くのサイトにとっては、現実的な唯一のオプションは、普通の電話を上手くサポートしないメインのサイトを1つのモバイルサイトで補うことである。これは、多くの場合において、納得がいく戦略である。結局のところ、ほとんどのローエンドモバイルユーザは、ウェブサイトへ行こうとしても悲惨な目にあうために、最も切実なタスク以外を行うことはないし、結局のところあなたのサイトを使うことはないかもしれないのだ。だから、唯一のモバイルサイトを作るのであれば、誰もが嫌がるであろう WAP みたいなものを作るのとは反対に、中くらいからハイエンドデバイスを使うユーザをターゲットにするとよいだろう。
最後に、全てのサイトがモバイルバージョンを必要とするわけではない。我々が 6つの国々に渡るユーザと行ったダイアリー調査によると、人々が電話を使って行う事柄というのはある程度限られていることが分かった。従って、主流のウェブサイトの多くは、たくさんのモバイルユーザを持つことはないだろうから、それらのサイトは、わずかな数のモバイルユーザが最悪の落とし穴にはまることを避けるための、基本的なデザインだけを適用すべきである。
もしあなたのサービスが、モバイルで使うのが当然というようなものであれば、少なくとも1つ、モバイル用に最適化したデザインを提供するように。携帯のフルブラウザにメインのウェブサイトを表示する力があることをあてにしないように。それを期待すると、数えきれないユーザビリティの問題が生じるかもしれない。仮にあなたのサイトがモバイルデザインとデスクトップデザインの両方を持つのであれば、そのモバイルバージョンは全てのモバイルユーザに対応出来るように ? つまりフルページブラウジングをサポートするデバイスを持つユーザ達にも。(モバイルデザインには含まれないが、ごく稀に使われる機能を必要とする人達には、簡単にフルサイトに切り替えられる方法を提供するように。)
進化スピードは半分、しかし未来に望みが
我々の前回のモバイルユーザビリティの調査は 2000 年に実施されたが、我々の結論は 2000 年のモバイルウェブ = 1994 年のデスクトップウェブというものであった。現在、モバイル上でウェブサイトにアクセスするユーザを観察していると、1998 年に有線でウェブにアクセスしていたユーザ達のことが思い起こされる。言い換えると、この 9 年の間に、我々はモバイルエクスペリエンスに関して 4 年分に相当する進歩を見ているということだ。大まかに言えば、モバイルユーザビリティは有線のアクセスに比べて半分のペースでエクスペリエンスが進歩しているということである。
だとしたら、なぜ私は、モバイルウェブサイトやオンラインサービスに対して楽観的なのか?
第一に、90 年代後半に主要なウェブサイトが見せた進歩の半分のペースというのは必ずしも悲惨なものではない。あの時期というのは、爆発的な進歩を見せていた頃である。
第二に、モバイルは 2008 年度アプリケーションデザインにおいて重要なトレンドである。トレンド見込みが誤っている可能性もある一方で、たくさんの興味深い出来事が起こっているのである。
第三に、我々はモバイルウェブユーザビリティのコーナーを曲がりつつあるということだ。25 年前に Apple の Macintosh がパーソナルコンピュータのユーザビリティのブレイクスルーの到来を告げたように、その iPhone が、今日のモバイルユーザビリティで同様に、ブレイクスルーの先駆けとなっている。
確かに iPhone は完璧ではないし、競合他社が簡単に、より優れたモバイルデバイスを作る可能性もある。「簡単に」と言ったが、私は週末の間にとかを意味しているのではない。私は単に、ユーザーエクスペリエンスとユーザー中心設計に十分力を注げば、それが可能であると言っているのである; iPhone は改良の余地をたくさん残している。しかしながら、これまでのところ iPhone の競合達は、ユーザー中心設計のアプローチで作っておらず、がっかりさせ続けている。
Alan Kay が Mac は「批評、批判する価値がある最初のコンピュータ」と言ったのは有名だ。同様に、iPhone は、批評、批判する価値のある最初のモバイルインターネットデバイスと言える。これは、モバイルオンラインサービスの出発点で、終点ではない。
デバイスは進化していくだろうが、大きな進歩はウェブサイトから来るに違いない。サイト(イントラネットを含む)はモバイルユーザエクスペリエンスに最適化した特別なデザインを開発しなければならない。今日、モバイルバージョンのサイトを持つウェブサイトはほとんどないし、モバイル向けに存在するものは、モバイルユーザビリティの特別なガイドラインの知識がないために、たいていの場合非常に粗末にデザインされている。
より多くのウェブサイト、イントラネット、エンタープライズソフトウェアのデザイナー達が、モバイルバージョンをデザインし、現在のデザインをユーザビリティ向上のために改良するに従い、モバイルユーザビリティには、非常に大きな進歩の可能性がある。メインストリームのウェブの状況では、実際、1998 年に、ある見込みを感じさせる前例が見られた: その 1年後の1999年に、ウェブユーザビリティへの興味が爆発し始めた。役立つデザインよりも「見栄えのよい」ものを追求することが、いかにビジネス上悪い結果を生むか、ということをインターネットマネージャたちが理解し始めたのだ。
モバイルウェブにおいても、歴史が繰り返されることを祈ろう。
2009 年 2 月 17 日