ユーザビリティの進歩:
速いのか遅いのか?

過去10年の間、ユーザビリティは年率6%で進歩してきた。この数字は他のほとんどの分野よりも高いが、テクノロジーの進歩によって予想されうる速度に比べるとずっと遅い。

よい知らせは何か。ユーザビリティは進歩している。 ウェブサイトやその他のインターフェースは年々、良くなってきているし、何十年ものそうした進化の積み重ねによって、現在のユーザビリティの質はウェブやパーソナルコンピューターの初期の時代に比べると、相当に高いものになっている。

さらによい知らせとしては、ユーザビリティは人類の進歩を示すほとんどの他の形式に比べても進歩が速い。

では、悪い知らせは何か。ユーザビリティはコンピューターに関わる他の分野に比べると、進歩の速度がずっと遅い

さらに悪い知らせとしては、満足できるユーザーエクスペリエンスの質に至るには今から74年かかってしまう。

ユーザビリティの成長率

私は通常、成功率を伝えるのを好んでいる。なぜならば、それがユーザビリティの一番シンプルな指標だし、非常にわかりやすいからだ。つまり、そのデザインを人々が使えるかどうか、だからである。しかしながら、この記事では、単に成功率の裏にある失敗率について考えてみようと思う。

例えば、あるウェブサイトの成功率が70%であるということは、ユーザーがそのサイト上で達成しようと思っていたタスクの70%を完遂できるということである。言うまでもなく、このことが意味するのは、その時、彼らは30%のタスクに失敗しているということであり、それがすなわち失敗率ということになる。

私は最近の分析では失敗を指標として利用している。なぜならば、そうすることで、他分野の品質とより直接的に比較ができるようになるからである。

過去10年間で我々は262のウェブサイトの正式なユーザビリティ指標を収集してきた。2000年にはそこでの平均失敗率は39%だったが、2010年にはそれは22%となった

それこそが私の言うところの、時間による「かなりの進歩」を示している。ちょうど10年間でウェブのユーザビリティの質はほぼ倍になった。この進歩は大局的見地から見た、2つの別の見方にうまく例えられる:

  • ウェブサイトのコンバージョンレートもまた、全部のサイトを通しての平均約1%から約2%へと、およそ2倍となった。(中にはもっとよいものもあるし、もちろん、もっと悪いものもある)。
  • ユーザビリティのROIを調査すると、ユーザビリティに配慮することによって、要求されるビジネス指標を倍にできるのは明らかである。

(2010年に行なった最新の調査では、数値は上記のものよりも若干良かった。しかし、私はそこでの15のサイトを今回の分析から除外している。なぜならば、この調査は「有名な大規模サイト」というプロジェクトのために実施されたものだからである。したがって、このデータセットには、デザインの優れたサイトからユーザビリティのレッスンの中身を引き出せるよう、故意にバイアスがかけられていた。つまり、bbc.co.ukをテストした理由を例に挙げると、BBCのユーザーエクスペリエンスには優れた面があることを知っているから選んだというわけである。このことは17%という失敗率〔悲しいことだが、これはよいスコアである〕によってうまく確認することができた。しかし、BBCの成績がユーザビリティ予算が平均以上のサイトを代表しているというわけではない)。

他にも以下の2つのやり方によって、ウェブのユーザビリティが長期的に見て進歩しているかどうかを分析することは可能である

  • 成長率が年率6%である。これによって私が言いたいのは、失敗率が毎年6%ずつ下がってきているということではなく、むしろ、失敗のレベルが毎年1.06倍ずつ、前年に対して小さくなっているということである。複利計算というマジックを前提とすると、10年間、毎年このレベルで進歩すれば、その成長率は77%にまで積み上がることになる。それは導き出される相対的な失敗率が39%から22%になるということと合致している。
  • ユーザビリティに対するシックスシグマ分析によると、2000年時点の我々のレベルは1.8σ(シグマ)で、それは他のどの分野における品質保証のレベルと比べても酷いものであった。現時点の2010年では、我々のレベルは2.3σに達した。とはいえ、10年間でシグマのレベルが0.5上がっただけというのでは、6というレベルに到達するまでにはまだまだ長い道のりがあるといえる。

このシックスシグマ分析の結果を見れば、工業製品の品質レベルに比べ、いかにユーザビリティの質が悪いかがよくわかる。10年間で0.5σという成長のペースでは、6σの品質に到達するには74年かかることになる。(唯一のよい知らせは、このおかげで、ユーザビリティの専門家の終身雇用が保証されることだろう)。

他分野での進歩

ユーザビリティは年率6%で進歩している。その数字は他分野と比べるとどうだろうか。

It’s Getting Better All the Timeという本の著者であるStephen MooreとJulian L. Simonは、その本の中で、100の異なる分野における20世紀を通した進歩をまとめている。以下は彼らがまとめた統計値(全て米国のもの)のいくつかである:

  • 幼児死亡率: 1915年には1000人中100人だったが、1998年には9人にまで下がった。成長率は年率3%
  • 虫歯のない子ども: 1971年には26%だったが、1998年には55%にまで増加した。成長率は年率5%
  • 冬の間、毎日、シャワーを浴びるか、風呂に入る人: 1950年には29%だったが、1999年には75%にまで増加した。成長率は年率2%
  • 鶏1羽を買うのに必要な(平均的な労働者の賃金をベースにしての)労働時間: 1920年には2時間だったが、1999年には15分にまで短縮された。成長率は年率3%
  • S&P(スタンダード・アンド・プアーズ)の株価指数: 1900年には6だったが、1999年には1400にまで上昇した。成長率は年率6%。(今にしてみると、1999年はバブルな年で、その後、S&P指数は落ち込んだが、長期的な分析という目的のために、その本のデータが20世紀のものであることにこだわりたいと思う)。
  • 玩具の販売: 1921年には(1998年のドルに換算して)20億ドルだったが、1998年には450億ドルにまで成長した。成長率は年率4%
  • 農業生産性、1エーカーあたりのタマネギの収穫量(袋): 1950年には200袋だったが、1999年には800袋にまで増加した。成長率は年率3%
  • シカゴでの猛暑による死者数: 1901年には1万人だったが、1995年には300人にまで減少した。成長率は年率4%
  • 飛行機のスピード: 1905年には時速37マイル(Wright兄弟のFlyer III)だったが、1965年には時速2,070マイル(Lockheed YF-12A)にまで向上した。成長率は年率7%

まだ例を挙げ続けることはできると思うが(その本には100種類のデータが載っている)、結論ははっきりしている。つまり、色々な分野の2〜7%という成長率を平均すると、人類は年率4%で進歩している。

そうなると、突如、ユーザビリティの成長率が6%というのはそう悪くないと思えてくる。我々は他の多くの分野よりもよくやっているというわけである。

では、なぜユーザビリティの成長率はもっと(さらに)良くなるはずだと考えるのか。理由は2つある:

  • ユーザビリティの欠点というのは非常に具体的である。良くないインターフェースの例を見つけるたびに、デザイナー(あるいは彼らのマネージャー)が十分に裏付けのあるユーザビリティのガイドラインに従ってさえいれば、状況は改善されていただろうに、と我々は思う。それは研究を新たに必要とする、今より速度の出る飛行機を開発しなければならない、といったようなこととは異なるからだ。ユーザビリティを向上させようと思えば、ほとんどの場合、企業は既に知られているものを実装しさえすればよい。だからこそ、彼らがそうしないとなおさらイライラするわけだが。
  • ユーザビリティはインターフェースにかかわる全て、エレベーターの制御から家庭用電化製品リモコンに至るまでの全てのものに適用される。とはいえ、ウェブサイトやアプリケーションソフトウェアが最も適用の多い分野であることは明らかである。それらはコンピューター上で作動するため、そこでのユーザビリティはコンピューターテクノロジーの進歩と比較の対象になりうる。そして、こうした分野における進歩は非常に速いものなのである:

当たり前のように年率50〜60%で成長するビジネスに関わっていると思うと、ユーザビリティの成長率が6%というのは実際のところ、物足りないように感じる。

では、なぜユーザビリティはテクノロジー等の人間が進歩させてきた他の分野よりも進歩のスピードが遅いのか。それはユーザビリティの目的は人間であり、コンピューターではないからである。我々がデザインしているのは人の心理という一定の制約の周辺であり、組織の硬直という制約の中でウェブサイトや製品を改善しなければならない。デザイナーがユーザビリティのセミナーに出席して、ウェブサイトをより利用しやすくするためのガイドラインを学ぶだけでは不十分なのである。デザイナーはマーケティング担当の副社長を説得することもしなければならず、それには何年もかかる可能性もありうる。(1つの会社がユーザビリティの活動を立ち上げて、そのプロセスを正しく運用できるようになるまでには約20年かかる)。

では、グラスの中身は半分も入っているというべきか、半分しか入っていないというべきか。半分も入っている、と私は言いたい。なぜならばユーザビリティは実際に進歩しているし、その進歩のスピードはたいていの分野より速いからである。とはいえ、いくつかの分野で人類は我々よりも速いスピードで進歩しており、我々は現在の自分達の栄光に満足してはならない。ユーザー中心のデザインの力を伝える我々の能力を向上させれば、ユーザビリティの進歩のスピードは容易にもっと速くすることが可能であり、例えば、年率7%で成長するということもありうるだろう。