インターネット帯域幅に関するNielsenの法則

インターネット帯域幅に関するNielsenの法則は、こう提唱している。

  • ハイエンドユーザの接続スピードは、毎年50%増大する
  • 増大した帯域幅を利用してウェブページのサイズを大きくできるのは2003年以降の話である

図に示した座標は、1984年、初期の300bpsのアコースティックモデムから、今日のISDN回線に至るまでの、私が経験してきたネット接続のスピードである。Nielsenの法則が唱える年間50%という成長曲線に、経験的データは驚くほど当てはまっている。(y軸は対数でとってある。よって、この図で直線になっているところは、毎年、一定割合での対数的な成長を示している)
Bandwidth growth for a high-end user since 1984

Nielsenの法則は、より定評あるMooreの法則に似ている。残念なことに、この2つの法則を並べてみると、帯域幅の成長はコンピュータパワーの成長に追いつけないということがわかる。Mooreの法則では、コンピュータの性能は18ヶ月ごとに倍になる。これを年あたりの成長率に換算すると60%となる。表に示したとおり、インターネットメディアの経験的な利用品質を決定する上で、帯域幅がこの先もネックになるだろう。

年間成長率 10年間の
成長分合計
Nielsenの法則:
インターネット帯域幅
50% 57倍
Mooreの法則:
コンピュータパワー
60% 100倍

平均帯域幅の伸びが鈍いのには、3つの理由がある。

  • 電話会社が保守的。彼らは道路をほじくり返したり、何10万ものセンターオフィスに機器を設置したりしなくてはならない。何10億ドルもの投資が必要になるので、二の足(三の足)を踏んでしまう。投資が済んでもそれでおしまいにはならない。拡大を続ける物理的プラントをアップデートしていくのには、時間がかかる。
  • ユーザは、帯域幅のために大金を支払うつもりがない。2倍高速なコンピュータを買えば、ソフトは2倍高速に動作する。2倍の大きさのハードディスクを買えば、2倍の数のファイルを収納できる。だが、2倍高速なモデムを買ったからといって、ウェブページのダウンロードが2倍速くなるわけではない。インターネットのスピードは、個人ユーザの接続様態とインフラとの相関関係である。帯域幅をアップグレードしても、すぐにその恩恵をフルに受けられるわけではない。 — インターネットとホストサーバの成長にともなって、徐々に向上していくものなのだ。
  • 主流派のユーザがオンラインに参加するにしたがって、常にユーザ層は拡大している。これらの新規ユーザは、ハイエンドユーザというよりも、ローエンドユーザである確率が高い(オタクはみんな、何年も前から接続済み)。このため、平均値はなおさら低下する。

もちろん、より高速な帯域幅を提供する技術もたくさん存在する。Bell研究所では、すでに光ファイバーで下りで秒あたりテラビットの性能を実証している。残念ながら、今すぐに、こういった技術が大衆の帯域幅を大幅に向上させてくれるわけではない。ADSLや、その他の技術は、個人ユーザにT-1回線か、またはそれ以上のスピードを提供してくれるだろう。だが、こういった動きが顕著になるのは、恐らく2003年以降の話だろう。

年50%の帯域幅成長率がデザインに与える影響

いつの時代にも数少ないながらスーパーユーザという人たちがいて、彼らは、信じられないくらい高速な最先端の機材を取り揃えているものだ。Nielsenの法則が対象にしているのは、もっと普通のハイエンドユーザ、割増料金を払うのにはやぶさかでないが、実績のない機材には興味がなく、普通のショップで売っているものを購入するユーザだ。今で言えば、ISDN回線を使っているようなユーザである。

ユーザの大半はローエンド、すなわちハイエンドユーザに2~3年遅れをとっている人たちである。最近のコンピュータ界でもっとも重要な要素は2つあって、帯域幅はそのひとつ(もう一方は画面クオリティ)である。なぜなら、技術的なタスクをのぞいて、計算スピードが不足することはもうほとんどないからである。残念ながら、気の済むまで言わせてもらおう。ユーザはまだ帯域幅には出し渋っている。サービスがいくらよくても月30ドルのISPより月20ドルの所を選択する人がほとんどなのだ。

ウェブデザインは、マスに訴える必要がある。最先端の10%のユーザだけを相手にしてうまくいったというサイトは、ごくまれにしかない。たとえ今日のハイエンドユーザがISDNを利用していても、ウェブデザインは28.8kbpsモデムで最適のユーザビリティを目指さなくてはならない。国際ユーザの接続状況はさらに低い。しかも、この先数年間は、海をまたいだレスポンス時間はさらに悪化するだろう

この先5年間は、接続のかなり遅いユーザが支配的となるはずだ。このせいで、どんなにまともなウェブページであっても、人間工学的調査で示された反応時間の上限をはるかに上回ってしまうだろう。よって、いかなるウェブプロジェクトにおいても、2003年までの間は、デザイン評価の基準として、何よりもまずダウンロード速度を重視しなくてははならない。ミニマリスト的デザインが支配する

2003年ごろから、ハイエンドユーザは個人用T-1回線に匹敵するくらいのスピードを手にするようになるだろう。これならページのダウンロードには1秒もかからない。つまり、ユーザはウェブを自由にナビゲーションできるようになるわけだ。反応時間が1秒以下になれば、ユーザ体験の満足度は画期的に向上するだろう。

もちろん、2003年でもローエンドのユーザはISDNを利用しているはずだから、ハイエンドユーザがメガビット級のアクセスが可能になったからといって、デザインを肥大化させていいことにはならない。さらに、その先を見てみよう。Nielsenの法則によれば、10年後のインターネットは57倍高速になっていると予測される。この時点では、ローエンドユーザでも、マルチメディアデザインにアクセスできるようになっているだろう。ハイエンドユーザは、かなり進んだサイトを利用できるようになっているはずだ。ウェブの未来には、もっとずっと豊かなデザインが約束されている。単に現在のウェブがあまりにも低速なだけであって、反応時間が許容範囲になるまでには、まだ5年はかかるだろう。2003年以降になって初めて、ウェブデザインは方向性を変え、広帯域をターゲットにできるのである

1998年4月5日