Webにまつわる大騒ぎは見当違い

マスコミで過熱する話題やブームは、ウェブサイトの運営にはさほど重要ではない。顧客に奉仕するには、巷の大騒ぎを気にするよりも、質の向上と、簡単で使いやすいウェブサイトの実現に力を注ぐことの方がずっと重要である。

Web Bubble 2.0時代の渦中にいる。Bubble1.0時代に書いたコラムを掘り起こして、現状に即して一新してみようと思い立った。

1997年に“典型的でないウェブ事例からくる勘違い”と題するAlertboxを書いた。その中で、代表的とは言えない際だった少数事例への過度の注目を批判した。大規模で、知名度の高いこれらの事例を模倣することに対して注意も呼びかけた。

補足記事“Stories From 1997 Revisited”では、最近のWeb開発事情を踏まえて、1997年当時マスコミを騒がせていた事例を振り返っている。多くのウェブサイトは、議論の的となったウェブサイトとはまったく違う方針をとってこなければならなかったようだ。当時のデザイナーは、Bubble 1.0の騒ぎに耳を傾けるよりも、自らの置かれた状況を見据えてこそ評価されることになった。

果たして今はどうだろう? 歴史は繰り返す。業界紙や大手マスコミはもちろん、インターネット業界の専門サイトさえもが、典型的とは言えない少数事例を絶えず取り上げている。繰り返しておこう。あなたのウェブサイトは騒ぎの渦中にあるウェブサイトとは違うということを忘れてはならない。単純で分かりやすく、しっかりと情報を伝えられるウェブサイトを作るための基本に目を向けることだ。地味な活動が注目を集めることはない。しかし、平均的なウェブサイトであれば、その方が確実に事業価値の向上につながるはずだ。

AOLはGoogleやMicrosoftと手を組むのか?(お騒がせ度: Blue)

この話題、随分と落ち着いてはきたが、まだ騒ぎになることがある。AOLが検索エンジン大手と手を組むかどうかという話は、その取引の外にいる人間にはまったく関係がない。来月になって、どこかの大手企業が検索エンジンとの提携を考えているという話がまたうるさく騒がれたとしても、やはり関係のない話だ。

AOLがどんな意思決定を下そうとも関係ない。なぜなら、あなたのSEM(Search engine marketing)戦略には何の影響も及ぼさないからだ。

検索を利用する人は、それぞれが独自のニーズを持っている。Joe Schmoeが、“vacation Mexico”というクエリーを入力したとしよう。もしあなたが、メキシコで休暇を過ごそうとする人たち向けに何か商売をしているのだとしたら、広告やオーガニックリスティングを通じてあなたのウェブサイトがJoeの目に入るようにした方が良い。

一つの検索エンジンに手の込んだ広告を載せても、Joeが別の検索エンジンを使っていれば、あなたのウェブサイトでJoeがお金を使うことはない。ということは、あらゆる検索エンジンに広告を載せる必要があるということになる。あるいは、テキスト広告やキーワードリストを他のキャンペーンから使い回すにしても、その準備に割いた工数分を取り戻せるくらいには十分な市場シェアを占めている検索エンジンには少なくとも広告を載せた方が良いだろう。

ある検索エンジンの市場シェアがほんの数パーセント上がったからといってすぐに、SEM戦略を変更すべきではない。確かに、あなたの広告をクリックするユーザの数が増えるのだから、その分多く支払いをすることにはなるだろう。しかし、一回のクリックに対していくら払うかを決めるのが戦略であり、そのためにはROI(投資収益率)を算出することが求められる。そこまでいけば、クリック数の実績に基づいて、予算も見えてくるだろう。

この話、実はもう少し複雑だ。検索エンジンに対する好みは、ユーザのタイプによって違ってくる。そのため、検索エンジンが違えば、ROIも違ってきてしまうのだ。つまり、サイトの中身に応じて、入札額も別に検討しなければならないのだ。

AOLのユーザは、低リテラシー層が多い。B2BサイトやハイエンドのB2Cサイトにとっては、AOLでのクリックは価値が低いということになる。しかし、たとえばダイエット薬の販売をしているサイトなら、AOLでのクリックが売り上げに繋がる可能性は高くなる。入札額を下げた方が良いウェブサイトもあれば、もっと払っても回収の見込めるウェブサイトもある。AOLが今月どこと手を組むかという話が実用的意義を持ってくるのは、これを考えるときだけである。

Wikipedia vs. Encyclopedia Britannica (お騒がせ度: Yellow)

Wikipediaにみられる誤記述の数は、Encyclopedia Britannicaよりもわずかに多いに過ぎないという調査報告が発表された。Encyclopedia Britannicaの経営層にとっては耳の痛いニュースだろう。しかし、誤解しないようにしたい。

まず、誤記述の数を数えるのは簡単だが、出版物の品質を測る方法としては不十分である。限られた時間の中で参照する読者が、細部にこだわって理解に苦しむことがないように、もっとも重要なポイントに的を絞って記述することも重要だ。視点の持ち方はもちろん、文体や明瞭さも大切である。これらはすべて編集上の判断であり、誤記述数のように簡単に得点化されるものではない。

幸いにも、コンテンツのユーザビリティを測る手法がある。そこで提供されている情報を使って、何かタスクをやってもらい、それらの情報がどの程度役に立つかをみれば良い。タスクは、休暇で訪れる国の歴史を事前に調べてエッセイにまとめるといった高校の宿題程度で良いだろう。いずれにしても、重要なのは読者の存在とそのニーズを考慮してコンテンツが評価されるべき点だ。つまり、ユーザビリティの問題であり、調査結果に基づいて語られなければならないのだ。

驚いたことに、Wikipediaは無料で書いてくれる大勢の協力者を獲得してきた。しかし、このモデルを一般化して企業のウェブサイトを作ろうとしても無理である。サポートページであれば、ユーザ参加型のコンテンツを作ることもできるかもしれないし、検討に値する。しかし、製品紹介やニュース記事を無料で書いてくれる外部の人間はそうは見つけられないだろう。

Wikiの価値は、Wikipediaのような自由参加型の場には収まりきらない。たとえば、イントラネットで活用されているWikiは、もっとずっと興味深いものである。最近発表した“イントラネット・ベスト10”に名を連ねた企業には、手軽にコンテンツ管理を実現するためにWikiを採用しているところがいくつかみられた。企業内部のソリューションなので、あまり外には聞こえてこないが、こういった実用本位のWikiの活用は、巷で騒がれている話よりも遙かに重要である。イントラネットでのWikiの活用は、協調活動を簡便化し、非官僚的なワークグループを支援しようとする傾向を示す一例であり、将来の私たちの働き方を変える可能性を秘めている。

Wikipediaが有するもっとも面白い側面は、それが、リンクの張り巡らされたハイパーテキストである点にある。一つの項目が見たくてアクセスしたはずなのに、いつのまにか5項目も読んでしまっていたという経験はないだろうか。ふんだんに用意されたリンクが、知りたいと思っているつもりもなかった情報へと次々に誘ってくれるからだ。残念なことに、Webはハイパーテキストとしての礎をすっかり忘れてしまっている。多くのサイトが、ユーザを逃がすまいとサイト内のナビゲーションを厳重に管理している。関連する別のサイトへと飛ばしてくれることはほとんどなく、サイトの中での閉じたナビゲーションに終始してしまっていることが多い。Wikipediaは、ハイパーテキストとしてのウェブサイトへ立ち戻ることの利点を示してくれているのだ。

もし、Wikiというソリューションに優れたユーザビリティを加えることを実現できれば、それを使って、平均的なユーザがハイパーテキストを書くこともできるようになるだろう。とすれば、ものすごい騒ぎになることも間違いない。Microsoft Officeを負かす方法は、二つ前のヴァージョンから機能を持ってきて、違うプログラミング言語を使って実装し直すことではない。下手なコピーは必要としていない。リニアなドキュメントとは対照的に、ハイパースペースを協同で執筆することが求められているのだ。

“市井のジャーナリスト”ブロッガーはMSMを一掃するか? (お騒がせ度: Orange)

もし、大手マスコミ(MSM)にお勤めなら、この疑問は当然とても重要なものであり、随所で溢れんばかりに書き立てられているのも無理はない。しかし、新聞社の幹部が心配しているのは、どうやら三行広告の行く末のようである。

三行広告は、Web上で機能している2種類の広告形態のうちの一つである(もう一つは、検索連動型広告)。1997年に述べたように、三行広告は、紙媒体よりもコンピュータ上の方が機能しやすい。新聞は、かつて最大の収入源として不動の地位にあった、また費用のかかる取材のスポンサーとして重要な役割を果たしていた三行広告を、結局は失うことになるだろう。対応の早い新聞社のオーナーなら、自分の持ち株会社用にとオンラインの三行広告枠をすでに抑えているかもしれない。しかし、そこで見込める収入は独立したものとして、ニュース担当の部署とは無関係なものとして扱われる。Webのユーザは、まったく独立したタスクとして三行広告をクリックするのであって、ニュースがもたらす副作用ではないのだ。三行広告が、ニュースのスポンサーをつとめることは、将来的にはあり得ない話となる。

個人的に運営されているウェブサイト、つまりブログの類に載っているビジネス絡みの記事を読者が読むかどうかは、ごく小さな問題である。取材の結果、書かれる記事は先入れ先出しの原則が基本なのだから、大手マスコミもブログに似た独自のサブサイトを運営すれば良い(すでに先例もある)。

新聞社以外のビジネスを考えてみると、“ブロッガーvs.MSM”という巷の騒ぎは、まったく重要ではなくなる。相当数の人が読んでいるブログで、分野も非常に似通っているとしたら、同等規模の出版物のように丁重に接するべきなのは当然だ。相手がそんなブロッガーなら、インタビューしてみたり、新製品を試してもらったり、PRに繋がることならなんだって考慮するに違いない。逆に、規模の小さなブログ(つまり、大部分のブログということになる)に対する接し方は、ビジネス上の関わりの薄い町で配られているコミュニティぺーパー相手くらいのものになるのが当たり前だ。丁寧に接するという点では変わらないが、CEOの時間を1時間確保して、独占インタビューを、というわけにはいかない。

ビジネス上の観点からは、読者数がすべて。メディアの種類や、運営元が企業なのか、家でパジャマを着てパソコンに向かっている個人なのかは問題にならない。

オンライン・メディアの特性がもたらすビジネス機会は、以下に挙げる二つだ。

  • 自社のウェブサイトをPRに使うことができるため、社内にスタッフを抱えている主要な新聞や雑誌に比べると、より幅の広い書き手を獲得することが可能である。規模の小さいブログの管理者にいちいち会っていては費用効果が悪い。PR情報をウェブに載せておけば、それを見てもらうだけで事足りる。
  • 相手がオンラインのメディア(ブログか大手マスコミのウェブサイトかによらず)で、取扱分野も似通っているならば、あなたのウェブサイトへリンクを張ってもらえば良い。検索結果で上位に表示される可能性も上がる。紙のメディアに記事を載せるよりも、オンラインで記事を提供する方が、同じ読者を相手にした場合でも価値が高くなる。記事を紙面で見た後にあなたのウェブサイトまで来てくれる読者もいるだろう。しかし、ハイパーリンクを辿ってもらう方がその可能性は高くなる。狙っている読者層が同じなら、100,000人の読者を持つブログは、200,000人以上の読者を持つ新聞に匹敵すると考えられるのである。

Googleの株価(お騒がせ度: Red)

この話題は、次々と飛び火して大騒ぎとなっており、今回取り上げる中ではもっとも行き過ぎた状態にある。Googleの株価に左右されるのは、以下にあげる二つの理由で見当違いだ。

  • インターネット業界でのお仕事を専門にされているなら、そもそもGoogleの株を買うべきではない。多様性こそが、投資の最大のルールだ。自分の専門領域と直接関係するところにお金を注ぎ込むべきではない。仕事にありつけない月があったとしたら、同じ月にGoogleの株価も25%ほど下落する可能性がある。不景気の波が、次にインターネット業界を襲うようなことがあれば、必ずそうなる。2000年の1月にDoubleClickに勤めながら、Exciteに投資していたという人のことを考えてみれば分かるはずだ。金の卵とはならなかった。
  • 勢いで変動する株価は、裏に潜む事実と連動していない場合が多い。第4四半期の収益が過去最高を記録したと発表した直後、すでに知らない人はないと思うが、“成長には限界がある。大きくなった企業ほど、その成長率は小さくなる。”というCFOの発言を受けて、Googleの株価は急落し、時価総額100億ドルの損失を出した。

こんな例を考えてみよう。タイヤ会社に勤めていたら、毎日Chevronの株価を気にするだろうか? そんなことはない。もしChevronが事業に失敗したとしても、別のガソリンスタンドで満タンにすれば良いだけだ。ドライバーは、それで同じ距離を走れるし、タイヤの走行距離も同じように伸びる。

いずれにしても、Googleのことを気にする必要はない。Googleが検索エンジンを動かしているのは、それが“金のなる木”だからだ。検索以外のプロジェクトを止めるだけで、Googleは求める収益レベルを簡単に実現することができる。Googleの検索エンジンは、株価の上下には関係なく、消滅することはない。もしそうなったとしても、他のウェブサイトに及ぼされる影響は、GYM(Google, Yahoo!, and Microsoft)を、まだあまり耳慣れないが、YMA(Yahoo!, Microsoft, and AOL)に置き換える必要が生じるくらいのことだ。どう転んでも、ユーザは検索をしたい。ユーザは、その年、もっとも良い仕事をした、スピードの速い検索エンジンを選んで使うだけだろう。インターネットをどう活用していくか、戦略を立てるのに知っている必要があるのはこれだけだ。

騒がれていない実用本位のウェブサイト(お騒がせ度: Green)

もっとも重要なのは、これらのサイトが世間を騒がせることがほとんどないという点だ。顧客のニーズにあったシンプルなウェブサイトで、相当の事業価値を産んでいるものがどんどん増えてきている。何も目立ったことをしていないサイトこそが、最良のサイトだ。巷の流行を追いかけるよりも、正しいことを実行することに注力することこそが重要なのである。

2006 年 4 月 3 日