5種類のUXワークショップと実施のタイミング:早見表

UXワークショップは、機能横断的な当事者意識や合意が必要な際に、問題を解決するためにデザインプロセス全体を通して実施される。この記事では、よくおこなわれる5種類のUXワークショップと、デザインプロセスにおけるその利用の仕方を紹介する。

UXワークショップとは

UXワークショップとは、問題を解決し、特定の課題の進捗を可能にするために、デザインのタイムラインを通して実施される集中的なコラボレーションセッションのことである。ワークショップを実施することで、参加者が一堂に会して、アイデアを出し合い、実行可能な目標を達成するための体験活動を集中的におこなうことができる。

ワークショップは以下の点で従来のミーティングと区別される:

  • 目的:ミーティングがチームメンバー間で情報を共有したり交換したりする方法であるのに対し、ワークショップは問題を解決したり、計画を立てたり、結論を出すための方法である。
  • 範囲:ミーティングでは一般に多数の課題が浅く扱われる。その一方で、ワークショップは1つの課題を集中してじっくり扱うのに最適である。
  • 時間:ミーティングは通常、1回が30分か1時間であるのに対し(うまくいけば!)、ワークショップは半日または1日単位で実施される。
  • 構造:多くの場合、ミーティングは本質的に受動的なものである(すなわち、出席者は話を聞いて理解する)。その一方で、ワークショップではスケッチやブレインストーミング親和図法、中間生成物の作成などの活動への積極的な参加が奨励される。こうした活動は、グループの進捗を構造化し、把握するためのものである。
  • 準備:ワークショップの準備にはミーティングよりもはるかに長い時間がかかる。ワークショップ自体の時間が長いこと、その扱う題材・ツールが必要なこと、アクティビティを用意しておかなければならないこと、周りからの賛同が必要なことがその理由である。

UXワークショップが自分たちの状況に適しているかどうかを判断する際には、以下のガイドラインを思い出すとよい。ミーティングは、プロジェクトの最新情報を共有したり、メンバーの認識を高める論議のためにおこなう。それに対して、多様なグループから、より多くのインプットや合意が必要だったり、強い当事者意識を共有することが役に立ちそうな状況では、ワークショップのような、皆で協力して取り組む実践的な形式が求められる。

UXワークショップの種類

この記事では、よくおこなわれる5種類のUXワークショップについて説明する:

  • 発見ワークショップ:現状を伝え、プロジェクトのマイルストーンや計画に関する合意を形成する。
  • 共感ワークショップ:ソリューションをデザインする前に、規模の大きなチームやさまざまな利害関係者間で、ユーザーのニーズを理解し、優先順位づけをおこなうのを支援する。
  • デザインワークショップ:多様な参加者によって、幅広いアイデアを迅速に生み出し、議論する。
  • 優先順位づけワークショップ:顧客(または他の利害関係者)が重視する機能についての合意を形成し、その優先順位を付ける。
  • 批評ワークショップ:デザイン上の決定とユーザーニーズを確実に整合させる。

UXワークショップを立案し、構成する方法はいろいろとある。したがって、このリストには含まれていない種類のUXワークショップも多数存在する。しかしながら、この5種類のUXワークショップは非常に一般的で、プロセスに関する合意を形成したり、多様な利害関係者と協力して取り組む必要があるUX実践者にとって有用なものである。

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よくおこなわれる5種類のUXワークショップとその用途

発見ワークショップ

発見ワークショップとは

発見ワークショップの目的は、プロジェクトのマイルストーンや計画に関する合意を形成することである。発見ワークショップは、以下の点でUX実践者を支援する有用なツールとなる:

  • 取り組みの開始時にビジネス要件を理解する。
  • クライアントや利害関係者のチームから既存の知識を収集する。
  • プロジェクトの計画と優先順位についての合意を形成する。

発見ワークショップの一般的なシナリオ

発見ワークショップは、通常、プロジェクトの開始時、またはプロジェクトの重要な下位フェーズの開始時に、以下のことをおこなう必要がある場合に実施される:

  • プロジェクト期間中に追加の調査計画を決定するために、既存の調査について理解し、既存の知識を収集する。
  • 利害関係者の期待を理解する。
  • プロジェクト全体の方向性や鍵となるマイルストーン、チーム全体のビジョンを理解し、共有する。
  • プロジェクトに影響を与える可能性のある幅広いコンテキスト(文化、並行した取り組みなど)にふれる。

発見ワークショップを開催するタイミング

高度なデザインのプロセスにおいて、発見ワークショップがおこなわれることの多いタイミングを以下のタイムラインに示す:

  • プロジェクト開始後すぐ。全体的な目標に関して協力体制をとるために。また、コアチームが利害関係者やクライアントから既存の情報を収集するために。
  • 下位フェーズの小規模なキックオフなど、プロジェクトの鍵となるマイルストーンで。そのタイミングなら、コアチームがその下位フェーズに密接に関与するサブチームと一緒に的を絞った情報収集ができる。
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高度なデザインのタイムラインにおいて発見ワークショップがよくおこなわれるタイミング

発見ワークショップの計画

発見ワークショップを計画する際には、プロジェクトのコアチームのリーダーに加えて、プロジェクトのスポンサーや擁護者にも参加してもらおう。体系化された議論のためにきちんとした環境(たとえば、大きなホワイトボードのある会議室)を用意し、現状を把握するための議論の「発散」と、プロジェクトへの取り組みを形作る計画・人員・プロセスに関する決定を下すための「収束」の両方の方法を組み合わせて用いるとよい。そして、最後に、現状についての理解と、前進するための行動計画を文書化しよう。

共感ワークショップ

共感ワークショップとは

共感ワークショップの目的は、ソリューションをデザインする前に、チームや利害関係者がユーザーのニーズを理解して、その優先順位づけを支援することである。共感ワークショップの用途は以下である:

  • 関連する顧客やユーザーが誰であるかを理解する。
  • ユーザーのニーズや動機、行動を明確にして、それに関して合意する。
  • ユーザーへの共感を育む。

共感ワークショップの一般的なシナリオ

共感ワークショップは、通常、プロジェクトの開始時、またはユーザー調査の完了後に以下のことをおこなうために実施される:

  • 利害関係者の視点を、機能第一主義からユーザー第一主義という考え方に変える。
  • プロジェクトを加速させるために、利害関係者にユーザー中心の考え方を教える。
  • デザインの将来の方向性に影響を与える可能性のある、説得力のあるユーザー調査の知見を共有する。

共感ワークショップを開催するタイミング

高度なデザインのプロセスにおいて、共感ワークショップがおこなわれることの多いタイミングは以下である:

  • プロジェクトのキックオフ後すぐ。その結果、ユーザーについての既存の知見を利害関係者と共有できるようになり、利害関係者がプロジェクトの最初からユーザー中心の考え方になるように彼らを導くことができる。
  • 新しい調査の実施後。そうすれば、調査結果を共有して、プロジェクトのデザインの新たな方向性の案を定めることができる。
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高度なデザインのタイムラインにおいて共感ワークショップがよくおこなわれるタイミング

共感ワークショップの計画

可能かつそうしたほうが適切な場合は、コアチームのメンバーや主要な利害関係者、ユーザーの参加を求めよう。ユーザー調査から得られた重要な知見に詳しい人なら誰でも、共感ワークショップの参加者として有望である。堅苦しくない環境で、(たとえば、共感マップや簡易的なカスタマージャーニーマップを作成して)ユーザー視点のブレインストーミングを促し、ユーザーニーズについての理解を共有して、文書化しよう。

デザインワークショップ

デザインワークショップとは

デザインワークショップ(デザインスタジオワークショップと呼ばれることもある)の目的は、幅広いアイデアを迅速に生み出し、議論することである。デザインワークショップの用途は以下である:

  • スケッチのようなアイデア生成活動を活用して、議論を促す。
  • 領域横断的な視点を取り入れる。
  • プロジェクトの成功のために、共創活動に参加してもらうことで当事者意識を共有する。

デザインワークショップの一般的なシナリオ

デザインワークショップは、以下のことをおこなう必要がある場合に、デザインサイクルのどの「発散」フェーズでも実施可能である:

  • 明確に定義されたデザイン課題に対する幅広いアイデアを迅速に生み出す。
  • 異なるチームのメンバーに参加してもらい、視野を広げる。
  • デザインプロセスの後半で、コンセプト候補案やソリューション候補案を深く掘り下げて洗練させる。
  • 製品やUXのビジョンに関する当事者意識を共有する。

デザインワークショップを開催するタイミング

高度なデザインのプロセスにおいて、デザインワークショップがおこなわれることの多いタイミングは以下である:

  • プロジェクトのキックオフ時。デザインプロセスやアイデアに対する当事者意識と合意を形成するため。
  • ユーザー調査フェーズの後。調査の知見を有用な機能やソリューションを生成するためのインプットとして活用する。
  • 最初のデザインフェーズの後。デザインの方向性を絞り込み、(機能のアイデアではなく)ユーザーフローやカスタマージャーニーを深いレベルで探るため。
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高度なデザインのタイムラインにおいてデザインワークショップがよくおこなわれるタイミング

デザインワークショップの計画

デザインワークショップがもたらす力というのは、多様な視点から生まれる。そのため、さまざまな役割の人に参加してもらおう。ワークショップの環境は、堅苦しくないものである必要があり、スケッチ用のマーカーや無地の紙、スケッチを壁に貼って議論するためのテープや粘着剤、アイデアに投票するための緑と赤の丸いシールなど、創造性を発揮できるツールを用いるとよい。時間を区切って何回かおこなう短時間のスケッチ、プレゼンテーション、批評を、連続して体系的におこなうように計画し、ドット投票のような優先順位づけのための方法を1つ利用しよう。チームが多くのアイデアを発散して探求したところで、デザインの方向性は合意をみるべきだが、この方向性はワークショップを離れたところで、UXチームのリーダーたちによってその後も継続的に検討されなければならない。

優先順位づけワークショップ

優先順位づけワークショップとは

優先順位づけワークショップの目的は、顧客(または他の利害関係者)が重視する機能についての合意を形成し、その優先順位を付けることである。優先順位づけワークショップの用途は以下である:

  • 機能やアイデアを絞り込み、ランクづけする。
  • 焦点を絞る。
  • どの目標やアイデア、ユーザーグループを優先させるかについての合意を形成する。

優先順位づけワークショップの一般的なシナリオ

優先順位づけワークショップは、以下のような状況で、チームが重大な決定をおこなわなければならなかったり、アクションプランについて合意する必要がある場合、常に有益である:

  • 競合する優先順位が多すぎる。
  • 利害関係者が多くを求めすぎていて、スコープクリープ(:プロジェクトの開始後、当初の目的を越えてプロジェクトが肥大化すること)が起こったり、機能が多くなりすぎている。
  • ロードマップを作成するために、計画されている機能リリースの価値を相互に比較検討する必要がある。
  • スポンサー契約をしているユーザーをプロセスに参加させ、最も重視する機能やアイテムについて意見を述べてもらいたい。

優先順位づけワークショップを開催するタイミング

高度なデザインのプロセスにおいて、優先順位づけワークショップがおこなわれることの多いタイミングは以下である:

  • プロジェクトの開始時に、競合する社内の取り組みが多数あり、タイムラインやリソースの優先順位のづけ方を知る必要がある場合。
  • ユーザー調査中に、機能開発の優先順位づけに影響を与えるためにユーザーを集めることができる場合。
  • プロセス後半にデザインがすでに進んでいるところで、スコープクリープが発生し、何を本当に優先するのかを調整する必要がある場合。
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高度なデザインのタイムラインにおいて優先順位づけワークショップがよくおこなわれるタイミング

優先順位づけワークショップの計画

優先順位づけワークショップには、コアチームのメンバーと主要な意思決定者に参加してもらおう。投票用の番号つきインデックスカード、強制的な順位づけのときにあちこち動かせる付箋ドット投票のための丸いシールなどの、アイデアの優先順位づけのためのアクティビティを活用しよう。一連の機能やアイデア、取り組みをどのように進めていくかの合意が得られるようにワークショップを構成し、チームメンバーのそれぞれに最終的なアクションプランに貢献する機会を与えよう。

批評ワークショップ

批評ワークショップとは

批評ワークショップの目的は、デザインの決定とユーザーニーズを整合させる場をデザインプロセスに提供することである。批評ワークショップは、以下の点でチームを支援する有用なツールとなりうる:

  • ユーザーニーズをレンズとして既存のコンテンツやデザインを評価する。
  • 最適化のための応急措置を迅速に特定する。
  • 必要な長期的な進化や最適化を指摘する。

批評ワークショップの一般的なシナリオ

新しいデザインプロジェクトが始まる前のチェックポイントとして、または断続的に発生するデザインレビューで、以下のことをおこなう必要がある場合に、批評ワークショップの実施を検討するとよい:

  • デザインがユーザビリティヒューリスティックやチームで定めたデザイン原則をどの程度サポートできているかを把握する。
  • 特定のユーザーグループまたはペルソナのレンズを通して各画面またはフローを検討することで、デザインを通してユーザーフローについて議論する。
  • 異なる専門分野の人の意見や異なる職務のチームメイトのフィードバックを聞く。
  • 自分たちが達成したい要素や品質を備えた競合製品やエクスペリエンスのデザインを探る。

批評ワークショップを開催するタイミング

高度なデザインのプロセスのタイムラインにおいて、批評ワークショップは以下のタイミングでおこなわれることが多いだろう:

  • プロジェクトの開始時。新しいデザインを形作るために、既知の目標やヒューリスティック、原則に照らして、チームで既存のデザインをレビューする。
  • 反復的なデザインサイクルの一環として。定期的に迅速な批評をおこなうことでデザインを正しい方向に進める。
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高度なデザインのタイムラインにおいてデザイン批評ワークショップがよくおこなわれるタイミング

批評ワークショップの計画

批評ワークショップは、幅広い専門分野出身の、デザインプロセスに不可欠なメンバーからなる小さなグループでうまく機能することが多い。堅苦しくない環境を用意し、知識の共有とオープンな議論を奨励しよう。そこでは、皆が見ることのできるスペースやホワイトボードに、問題になっているデザインについての資料や写真を貼り出し、新しいアイデアをとらえられるようにするとよい。このワークショップは、ファシリテーターが進行する議論と、既存の何らかの客観的基準に照らし合わせて参加者がデザイン評価をするアクティビティによって構成されている必要がある。そして、新しいデザイン(またはデザインの次の段階)の方向性への同意で終わらなければならない。

これらのUXワークショップの規模を調整し、組み合わせ、適応させよう

この記事では、わかりやすくするために各ワークショップを個別に紹介している。しかし、これらのワークショップは、規模を調整したり、組み合わせたり、適応させたりすることで、特定のUXの課題に対してより効果的だったり、適切なものにすることができる。たとえば、発見ワークショップを開催したときに、優先順位づけの課題を用いることで合意を形成することもできるだろうし、デザインワークショップの進行に批評の要素を取り入れれば、アイデア出しの後もそうしたアイデアを改善しつづけることができるかもしれない。

各ワークショップの長さは、プロジェクトのニーズや範囲、利害関係者の参加都合によって変わってくる。極端な例として、私は3日間続く発見ワークショップを開催したことがある。そのプロジェクトでは、クライアントの同意と協力が非常に重要だったからだ。一方、アジャイルチームの場合は、1週間のスプリント内の午前中1回で終わる縮小版発見ワークショップが適切かもしれない。多様な役割を越えて、協力して取り組んだり、同意や当事者意識を形成したりする必要がある場合にワークショップを利用し、すべての参加者の時間を有効活用できるようにワークショップをデザインする限り、これらのワークショップを活用して優れたUXの実践者になる機会は無限にあるだろう。

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