親和図法:UX調査の結果やデザインアイデアを協力して分類する
親和図法は、長い間、ビジネスで大量のアイデアを構造化するのに用いられてきた。UXの分野では、この手法は調査結果を構造化したり、アイデア発想ワークショップでデザインアイデアを分類するのに利用される。
利害関係者にデザイン批評会やアイデア発想セッション、調査結果を分析するためのミーティングに参加してもらったのに、つまらなそうにされただけだったという経験はないだろうか。また、そうしたアイデアや調査結果が無視されたり、忘れさられてしまったことはなかっただろうか。UXのワークショップには、数え切れないほど多くの利点がある。人々を教育して、彼らをユーザーに共感させ、利害関係者を自分もプロジェクトの一員で、アイデアや調査結果に対して責任があるという気分にさせる。また、ユーザビリティの課題やデザインの問題を認識させ、関係者全員に共通する土台を構築し、さまざまなバックグラウンドや専門知識を1つにまとめることもできるのである。
しかしながら、そうしたUXのワークショップで、チームになって、多様なアイデアや事実情報に秩序を作り出すのは容易ではない。
そうしたときに、調査結果やアイデア発想セッションで得られたアイデアをチームで協力して分析しやすくする手法の1つが親和図法だ。この親和図法は、UXでもよく利用されているが、KJ法(作者の川喜田二郎博士にちなんで名づけられた)から作られたものである。
定義:親和図法とは、関連のある事実情報を別々の明確に区別できるグループにまとめる手法のことである。
親和図法は、親和性マッピング(affinity mapping)、協調的ソーティング(collaborative sorting)、スノーボール法(snowballing)、あるいは、カードソーティングともいわれる。(しかしながら、UXでの「カードソーティング」は、サイトやアプリケーションのIAについて判断するための非常に限定された調査手法のことだ。そこでは、カテゴリーの名前やコマンドが書かれたインデックスカードをユーザーに分類してもらうことになる)。
UXにおける親和図法
親和図法という手法は、個人でもグループでも利用可能である。しかし、UXでは、以下のような要素をすばやく整理するために、主にチームに利用されている:
- 調査から得られた観察結果やアイデア
- デザインアイデア発想ミーティングで出てきたアイデア
UXの親和図法は以下の2つのステップからなる:
- 付箋の作成。このステップでは、1枚1枚の付箋に事実情報やアイデアをチームメンバーで書き出す。
- ユーザビリティセッション中に、進行役と観察者が、観察結果や所見、アイデアを1枚の付箋に1つずつ書く。
- アイデア発想ワークショップ中に、出席者やワークショップの進行役が、アイデアを1枚の付箋に1つずつ書く。
- 付箋のグルーピング。ユーザーテストやアイデア発想セッションの後、チームでワークショップを開催して、以下のやり方で付箋を分析する:
- 付箋をカテゴリーに分類する。
- 付箋にそれぞれ優先順位をつける。そして、デザインの次のステップや追加の調査について判断する。
ワークショップのリーダー
たくさんの付箋を解釈して、分類するのは疲れるものだ。また、ミーティングが長引くと参加者が飽きてしまうこともあるだろう。そのため、リーダーを定めて、すばやく、生産的に、てきぱきとミーティングを進行していくことが重要だ。こうしたリーダーの仕事は以下である:
- 議題とゴールを伝える。
- ワークショップの各フェイズで参加者がやるべきことを説明する。
- 各ステップの経過時間をチェックし、それを伝える。
- すべての付箋を壁に貼り出す。
- 戸惑っていると思われる人を手助けしたり、暇そうにしている人ととても忙しそうにしている人がいたら両者を組み合わせるなどして、起こりうるあらゆる課題を払拭し、ミーティングを進行する。
UXの親和図法のステップ
親和図法ワークショップの前
- (たとえば、ガラスやホワイトボードなどの)付箋を貼ることができる壁のある部屋を選ぼう。または、壁に大きな紙をテープで貼って、それに付箋をくっつけよう。あるいは、テープがつかない壁の場合はイーゼルを利用しよう。
- ミーティングが始まる直前に、誰かに協力してもらって、すべての付箋を順不同に壁に貼ろう。
- 分類が始めやすいように、カテゴリー名をいくつか考えておこう。たとえば、Webページの場合は、典型的なカテゴリーには、「検索」、「グローバルナビゲーション」、「トップページ」、「視認性」、「フッター」、「ページレイアウト」などがあるだろう。こうしたカテゴリー名は壁の空いているところの高い位置に貼り出すとよい。そうすれば、その下にたくさんの付箋を貼ることができる。
- よくわからない付箋のために、「?」という名前のカテゴリーも作っておこう。
- テーブルに、ペンまたはフェルトペンと、何も書いていない付箋を置いておこう。
ミーティングの開始時:全部のステップと時間についてのガイドラインを示す
リーダーは今回のプロセスにはどういうステップがあり、ワークショップにはどのくらい時間がかかる予定であるかを告げるべきである:
- 我々が取り組むことになる一般的なステップは以下である:
- トップレベルのカテゴリーに分類する。
- トップレベルの各カテゴリーをサブカテゴリーに分類する。
- カテゴリーについて要約する。
- 優先順位を(たとえば、投票などで)決定する。
- 必要に応じて、次のデザインミーティングの計画を立てる。
分類中はおしゃべり抜きでお願いしたい。気が散って、さらに時間がかかるようになるからだ。このミーティングは3時間(通常は2時間)以上かけてはならない。そのためには、全員がせっせとすばやく作業する必要がある。
付箋をトップレベルのカテゴリーに分類する
リーダーはプロセスについて説明し、このステップにかける時間を示すべきである:
- 付箋を1枚ずつ壁から剥がして、それを読もう。
- その付箋を入れるとつじつまが合うカテゴリーを探そう。
- 付箋をそのカテゴリーに貼りつけよう。
- 同じことをいっている付箋がすでにある場合は、その上に重ねて貼り、最もうまく説明できている付箋だけが見えるようにする。
- 付箋がどのカテゴリーにも当てはまらない場合は、新しいカテゴリーを考えよう。フェルトペンと何も書いていない付箋を使い、新しいカテゴリーを書き留めよう。
- 壁の空いている箇所にその付箋を貼りつけながら、新しいカテゴリーの名前を大きな声で叫ぼう。そうすれば、新しいカテゴリーが作成されたと皆がわかる。
- 理解できない付箋がある場合は、「?」カテゴリーに移動させよう。そして、この付箋の意味は皆で最後に考えることにしよう。
- 30分以内に(あるいは、かかるだろうと思う時間以内に)この分類が終わるように作業しよう。
- あとどのくらい時間が残っているかを私は定期的に叫ぶことにしている。
- 質問はある? では次にいこう!
各トップレベルカテゴリー内の付箋を、サブカテゴリーに分類する
このステップに関する説明は以下である:
- それぞれ1つのカテゴリーを全員が選ぼう。
- 付箋の多いカテゴリーの場合は分類に2人必要かもしれない。中には作業の速い人もいるが、そういう人は複数のカテゴリーの分類が可能だろう。
- 関連のあるテーマを見つけて、そのカテゴリーにある付箋をサブカテゴリーに分類しよう。
- サブカテゴリーの名前を付箋に書こう。
- 1つのカテゴリーの分類が終わったら、分類を必要としている別のカテゴリーや、手伝ってほしそうな人を探そう。怠けてはならない。
- 質問はある? では次にいこう!
カテゴリーごとにプレゼンする
- カテゴリーの分類をした人なら、誰から始めてもよい。そのカテゴリーのそばに立ち、調査結果の付箋をそれぞれ読み上げてから、カテゴリーについての要約をしよう。
- ここで残りの参加者は関連するポイントについて指摘したり、質問をしてもよい。(しかし、こうしたコメントのせいでミーティングの時間は延びることになる。そのため、この指示についてはとばしてもよい)。
- 自分の担当したカテゴリーのそばに立ち、1人ずつプレゼンしよう。すべてのカテゴリーが終了するまで、部屋の中で時計回りにプレゼンするとよい。複数の人で分類した場合は、一緒にプレゼンしてもいいし、代表者を選んでもよい。
- 質問はある? では、次に行こう!
優先順位を決める
ワークショップの目的が、ユーザビリティテストの調査結果の分析なのか、新しいアイデアの構造化なのかによって、利用する手法は少し変わってくる。
A. ユーザビリティテストの調査結果の場合
ユーザビリティテストから見つかった課題のどれが最も重要であるかを決めるのによく使われる方法には、次の2つがある。すべての調査結果の付箋を1枚ずつ検討して、その重大度(高、中、低)について皆に投票してもらうやり方、あるいは、皆に一定のポイントを与えて、重要かつ改善する必要があると思う項目にそうしたポイントを割り振ってもらうやり方である。後者の手法のほうが前者よりも効果的で、すぐに行動を起こしやすいことが多いだろう(前者は「高重要度」と評価される問題が多くなってしまう恐れがある)。
重大度方式
- ミーティングリーダーは調査結果の付箋をそれぞれもう一度読み上げ、その重要性が高、中、低のどれであるかを皆に挙手で投票してもらう。最も票の多かった評価がその問題につけられた重大度となる。
- 各付箋に重大度(高か中か低)を書きこもう。
あるいは、
ポイント方式
- 各参加者に重要度に関して一定のポイントを与え(通常は3ポイント)、対応が必要と思う項目に割り当ててもらう。
- 次に皆で歩き回って、自分が投票したい項目にポイント分のシールを貼る(または色つきのフェルトペンで塗りつぶした丸を描き込む)。
- 投票のルールはチームや地域ごとの嗜好によって変わってくる。しかし、その課題が極めて重大といえるものだと思えば、それ単体に複数の重要度ポイントを(自分に割り当てられた最大ポイントまで)割り当ててもよいことが多い。たとえば、3票分のポイントをもっている参加者なら、ある課題に2票、別の課題に1票を投票することができる。
B. デザインアイデアの発想の場合
アイデア発想ワークショップから得られたデザインアイデアについても投票したり、何か他の方法で点数を割り当てることは可能だ。100ドルテスト(One-Hundred-Dollar Test)とNUFテストの2つの手段がここではよく使われる。
100ドルテスト
- 同じ問題に対して、いくつかのデザインアイデアが出てきた場合、生み出されたアイデア全体にグループとして100ドル(どの通貨でもよい)を割り当て、グループの合計値が100ドルになるように、各アイデアに分配してもらおう。この手法では、皆が各デザインの価値に関して考えざるをえない。そのため、通常、どのデザインが他のデザインよりも価値があるかがはっきりする。
NUF
- NUFとは、「New」(新しい)、「Useful」(有益な)、「Feasible」(実現可能な)の略だ。デザインアイデアをそれぞれ、次の3つの属性に関して7段階尺度で評価する。1) チームは過去にそのデザインを利用したことがあるか(通常は、新しいデザインのほうが良いとみなされる)、2) そのアイデアは有益であり、問題を解決できるのか、3) チームがそのアイデアを実装できる可能性はどのくらいか。そして、評点を合計し、その総合スコアによってアイデアの順位づけをする。
記録する
結果として得られたグループと、決定した優先順位が、親和図法の最終的な生成物だ。これを記録するには:
- 重要なポイントは皆にわかるように紙に書いておこう。
- 壁の写真を撮ろう。この頃には付箋が取れ始めてきていることが多いが、これはミーティングの終わりを知らせる合図といえる。
ミーティングを終了する
- フォローアップ用のタスクを与えよう(または、そうしたタスクがいつ与えられることになるかを告げよう)。
- レポートや映像記録が利用できるようになることをアナウンスしよう。
- 親和図法ミーティングの結果を基にデザインする、デザインワークショップが予定されていることを、必要に応じてアナウンスしよう。
各ステップの時間割
親和図法の各ステップの時間割は以下の要素によって変わってくる:
- 付箋の数
- ミーティング出席者の人数
- 出席者のユーザー調査や親和図法に対する経験
付箋が山ほどある場合でも、ミーティングの時間は約3時間以内に収めること、そして、10分間の休憩を予定しておくことを我々は勧める。また、たとえば、皆でカテゴリーをサブカテゴリーに分けている最中などの重要な時間帯におやつを出すのも効果的である。
たいていの場合、我々はミーティングは90分から2時間の間に収めたいと考えている。以下が各ステップの時間割についての一般的なガイドラインである:
親和図法のプロセスのバリエーション
- アイデア発想ワークショップでは、アイデアを生み出した後、その同じワークショップ内でアイデアの分類をおこなうチームも多い。
- 調査結果を親和図法にする場合、1人ずつテストセッションが終わるたびに付箋を分類した上で、もう一度、すべての(4~8つの)セッション終了後に分類することを好むチームもある。このバリエーションの良い点と悪い点は以下のとおりである:
利点
セッションが終わるたびに分類をおこなうことの利点は:
- ユーザーのセッションが終わるたびにチームがそのユーザーについての理解を共有できる。
- 記憶が新しいうちに、見た内容をチームメンバーが思い出すことができる。そのため、さらに深く議論できるようになるし、その後のテストセッションの観察にも役立つ。
- チームメンバーがメモをたくさん取るタイプの場合は、最終的には時間の短縮になる可能性がある。
- たとえば、初期段階のデザインで反復をおこなうラピッドプロトタイプのテストなど、ユーザーテストごとにデザインを変更していく予定の場合、結果をすばやく要約することができる。
欠点
- 時間がかなりかかる。また、テスト後に毎回、簡単な議論をするだけで、同じ利点が得られる可能性もある。
- 全テスト終了後の親和図法の最終ミーティングに利害関係者が来なくなるかもしれない。
付箋を分類すべき人
親和図法ミーティングに来られる人なら誰でもよい。その中でも特に:
- ユーザビリティテストのセッションやデザインワークショップの全部または一部に参加した人
- テストの対象となったデザインやそのデザインに加えられることになる変更に関心がある人
結論
私はかつて、ユーザーリサーチャーとしての自分の仕事は、ユーザーについて収集した情報を自分のチームのためにできるだけ理解しやすく、わかりやすいものにすることだと考えていた。そして、デザイナーとしては、最適なデザインソリューションを考え出さなければいけないと思っていた。その気持ちに今も変わりはない。しかし、その一方で、出だしの失敗やデザインのアイデア、詳細な情報、テストのときに取った汚いメモから利害関係者を隔離することは、彼らへのひどい仕打ちであるとも学んできた。周りのチームメンバーを教育して、彼らをデザインのプロセスに巻き込み、合意を形成して、ユーザビリティの課題に対して敏感になってもらうために、彼らにもメモを取ることやそれを分類すること、議論することに参加してもらい、こうしたプロセスから彼らを遠ざけないようにしよう。
参考文献
Karl Ulrich, 2003. KJ Diagrams. The Wharton School, University of Pennsylvania, Philadelphia, PA
Raymond Scupin, 1997. The KJ Method: A Technique for Analyzing Data Derived from Japanese Ethnology. The Society for Applied Anthropology