印刷物を擁護する
私はオンライン出版の信者なはずのに、ハイパーテキストやインターネットについて印刷物の本を出しているといってからかわれることがある。だが、印刷物で出版することについて後ろめたさを感じることはない。なぜなら、ある種の文書、特に書籍のような長い作品では、あいかわらず紙が最適のメディアだからだ。
残念ながら、現在のコンピュータ画面では、紙に比べて読書スピードが約25%低下してしまうという事実がある。もっといい画面がすでに発明されているので、コンピュータで読むのが紙で読むのと変わらないくらいになるのも、時間の問題だ。だが、当面は、世界中で実際に利用されている画面に合わせて情報をデザインするしかない。
読むスピードが遅くなった分は、ハイパーテキストデザインをうまくやることで挽回できる。ユーザが読む情報量を減らし、すばやく見つけられるようにするのだ。典型的な例として、オンラインヘルプとドキュメントが挙げられる。ハードコピーのマニュアルを探す手間が省けるし、検索ツールや関連情報へのハイパーテキストリンクのおかげで、ユーザは問題の解答を含んだセクションに直接移動できる。まとめると、Nielsenのコンピュータドキュメントの第1法則はこうなる。ユーザは読まない。第2法則は、もし読むとしたら、よほど深刻なトラブルに巻き込まれていて、特定の問題への解答を求めているから、ということだ。よって、マニュアルを読むという人も、本当に最初から最後までは読んではいない。オンラインでのプレゼンテーションに意義があるというのは、こういうわけだ。
その他のタイプの情報では、ユーザが大量のテキストを読む必要がある。典型的な例としては、新しいプログラミング言語を学習するプログラマ向けの教材がこれにあたるだろう。ユーザはかなりの時間をかけて長いテキストを読みたいと思うはずだが、画面の前に座ったままそんなことをやりたがる人はいない。よって、読書スピードの問題が解決しても、あいかわらず長いテキストは画面上で読むのではなく、プリントアウトして読むことになりそうだ。
いずれにしろ、ユーザは、長い文書はプリントアウトの形で入手できるようになっていることを好む傾向にあることが、私たちの調査で繰り返し明らかになっている。オンライン出版システムにすら印刷機能が欠かせないというのは、こういった理由がある。ウェブデザインについて言うなら、長い文書には印刷用バージョンを用意しておくことだ。ウェブブラウザにも、遅まきながら、かなりの印刷機能が装備されるようになってきた。だが、ブラウザ会社の主たる関心領域はオンライン情報にあるので、彼らに高品質なプリントアウトを期待するわけにはいかない。例えば、NetscapeとInternet Explorerの両方ともが、オンライン閲覧用と印刷用に同じ書体とフォントサイズを用いている。この2つのメディアには別々のフォントが必要だということくらい、タイポグラフィの専門家なら誰もが知っている。
長いウェブ文書には2つのバージョンを作成しておくようお薦めしたい。ひとつはオンライン閲覧に最適化したもの(適切なまとまりごとに多数のファイルに分割し、多数のハイパーリンクを設けておく)、もうひとつは印刷向けに最適化したもの(きちんとレイアウトし、1文書にまとめてあるもの)だ。印刷用ファイルは、例えばPostScriptやPDFといったフォーマットにしておくといいだろう。こういったファイルが印刷専用であることを明記しておくことは、非常に重要だ。また、オンライン閲覧用に同じ内容のHTML版へのリンクも欠かせない。文書のごく一部だけを参照したり検索したりしたいユーザがいるからだ。
PostScriptやAcrobatのファイルは、絶対にオンラインでは読めない。PostScriptビューアは、印刷するかどうか決めるために、文書の構造を確認するのには適しているが、長時間かけてオンラインで閲覧するなどというひどい体験をユーザに押し付けるべきではない。この教訓は、あるプロジェクトでの実体験から学んだものだ。現在リリースされているSunのAnswerBook文書ビューアは、印刷マニュアルで使っているのと同一の、ページ単位のPostScriptウィンドウを表示するようになっている。この製品の次期バージョンでは、SGMLベースのコンテンツ構造を利用して、より見やすく情報を表示、検索できるようになる。リリース前のバージョンをユーザテストしたところ、新しい製品の方が、ユーザのパフォーマンス、および満足度がはるかに向上していることがわかった。あなたがSunの顧客なら、ぜひ楽しみにしていただきたい。
1996年2月