インターネットデスクトップ

警告: 今月は抽象的な議論である

ネットワークこそコンピュータだ、と言われる。だが、どうやったらユーザはそんなものを操作できるのだろうか?今のところ、高度にネットワーク化されたコンピュータのユーザ体験は、パーソナルコンピュータのそれとほとんど変わるところがない。だが、2、3年のうちに、接続性に最適化した新しいユーザインターフェイスの登場を見ることになるだろう。これをインターネットデスクトップという。

インターネットデスクトップでキーとなる要素は、独立したアプリケーションカテゴリーとしてのウェブブラウザの排除だろう。2、3年のうちに、あなたもシステム上からウェブブラウザを排除したくなるはずだ。理由は2つある。

  1. まず、特定の場所に保管されているというだけの理由で、ある情報オブジェクトのために専用のブラウザを用意するのは馬鹿げている。自分のハードディスクではなく、インターネットから来たというだけで、その情報を特別扱いする理由は何もない。フロッピーディスク(転送用プロトコルには「スニーカーネット」を使用)とハードディスクのいずれに保存されているかによって、情報の扱いを変えないといけないとしたら、どうなるだろうか?ファイルを読もうとすると、こんなエラーメッセージが出る。「恐れ入ります。このファイルはフロッピーディスクに保存されています。中を見るには、まずフロッピーブラウザを起動してください!
  2. ウェブブラウザは2種類の機能セットをごちゃ混ぜにしてしているが、これは切り分けた方がすっきりする。ウェブブラウザは、情報オブジェクトのプレゼンテーション、情報オブジェクト間のナビゲーションの両方を扱っているのだ。実際に、以前のコラムでも取り上げたように、現在のウェブブラウザはナビゲーションのサポートという点では実にひどい出来だが、努力はしているようだ。

インターネットデスクトップは、すべての情報オブジェクトを統一的に扱う。どこにあるかは問題ではない。ローカルのハードディスクでも、ローカルエリアネットワーク上でも、企業のイントラネットでも、インターネットでも、ユーザインターフェイスはすべて同じ。ユーザは、各種の保存場所をシームレスに移動できる。インターネットデスクトップは、プレゼンテーションアプレットのフレームワークにもなる。これは、ユーザがアクセスしたデータのタイプに最適化されたものだ。言うまでもなく、HTMLはこの種のデータ型のひとつであり、HTMLビューアも当然用意されるだろう。インターネットデスクトップは、プレゼンテーションアプレットを使い分ける普遍的なサポート機構としてのナビゲーションを提供する。例えば、デスクトップの履歴機構によって、ユーザは以前目にした情報オブジェクトに戻ることができる。どんなプレゼンテーションアプレットで表示していたか、といったことにはまったく気を使う必要がない。履歴リスト、ブックマークリストなどでは、インターネットオブジェクト、電子メールのメッセージ、企業文書が、各ユーザの情報アクセス行動に従って渾然一体となっている(各人の持つ意識は単一だからユーザ体験はリニアになる。これが情報利用の履歴を形作るのだ)。ある種の全体検索機能も必要だろう。これでユーザは、コンテンツからもオブジェクトを見つけられるようになる。ただし、ローカルデータからインターネットデータへ検索範囲を広げる方法については、今のところはっきりしたことはいえない(可能性としては、対象を絞った検索が主体になり、何10億というオブジェクトを対象にした検索は例外的なケースということになりそうだ)。

私は、あえて情報オブジェクトを表示するプレゼンテーションアプレットというような言葉を使っている。今までのようなファイルをアプリケーションで開くといった言い回しは使っていない。私は、従来の「ファイル」という概念は、すぐにでもユーザ体験から取り除くべきだと信じている。あまりにも柔軟性がないからだ(くわしくは、私の論文The Death of File Systemsを参照のこと)。単純な例として、情報オブジェクトをプレゼンテーションアプレットに受け渡すことを考えてみよう。これは、保存してある方の情報オブジェクトのバージョンと、まったく同一にはならないだろう。第一に、当然ながら、重要度の大小に関わらずあらゆる情報は保存時、移動時に暗号化され、インターネットデスクトップ上で複号化される。プレゼンテーションアプレットに受け渡されるのは、その後の話だ。第二に、プレゼンテーション用のオブジェクトは、表示操作をした時の状況次第で、これに合った形に改変される。例えば、もし画像オブジェクトをモノクロ画面のPDAユーザに送信するのなら、それがサーバから送られるに、24ビットカラーから白黒に変換されるだろう(高価なワイヤレス接続をしているユーザが相手なら、画像がかなり劣化するくらいの圧縮をかけるだろう)。ある情報オブジェクトに関する単一の、規範的な表示方法はなくなる。WYSIWYGよ、さらば。順応性のあるデータよ、こんにちは。

1996年3月