他のほとんどの業界は収穫が逓減するのに、ソフトウェア業界では収穫が逓増するとよく言われる。ウェブはソフトウェアと現実世界の入り交じったところにある。はたして、収益は逓増するのだろうか、それとも逓減するのだろうか?

ウェブの利用はZipf分布になっていると思われる証拠がある。この結論が、この先もずっと有効であるかどうか定かではないが、Zipf分布に従って、2000年末のウェブ利用状況を予想してみるのも一興だろう。この図は、ある想定(現在のままの成長率が続き、サイト数は1億、ユーザ数は5億、ユーザの1日あたりのページビューは20に達する)の下に、2000年末でのウェブサイト人気度の分布を示したものである。

Double-logarithmic scales: website popularity by end of Year 2000
2000年のウェブサイト利用数予測。
X軸は、サイトの人気度ランク(#1が、もっとも頻繁に利用されるサイト)
Y軸は、各サイトごとの年間ページビュー
両軸とも対数スケールになっている点に注意

大規模ウェブサイトは小規模ウェブサイトよりもはるかに大きいことが、すぐにわかるだろう。実際、このモデルの予想では、最大のウェブサイトは、2000年末には、年間2000億ページビューという規模での運営が見込まれる。Yahooがすでに年間110億ページビューを達成し、年400%で成長し続けていることを考えれば、現実的な数字だ。

最大のサイトは、どうしてこれほど大きくなったのだろう?ひとつには、ハイパーテキストを利用することで、すでにトラフィックのあるサイトにさらにトラフィックが集まるということがある。例えば、雑誌Slateで最新のニュース記事に言及する場合、同じニュースでも、CNNのサイトではなくMSNBCの記事にリンクすることができる。同様に、Expediaで、ある観光地にまつわる良い映画を紹介したいと思ったら、Cinemaniaにあるその映画の解説にリンクすることが可能だ。また、もちろんのこと、これら4つのサービスすべてに、背景知識としてEncartaへのリンクを入れておくこともできる。こうして、Slate、MSNBC、Expedia、Cinemania、あるいはEncartaのいずれかを訪れた新規ユーザが、他のサービスにも立ち寄る見込みが高くなる。もうひとつ例をあげよう。Yahooで株式相場を見たユーザが、Yahooの関連プレスリリース一覧へのリンクをたどり、さらにはMotley Foolにまでたどり着く可能性は高い。

言い換えると、ハイパーテキストによって最大手のサイトに不均衡なくらい莫大なトラフィックが集まり、このため収穫逓増モデルが成立する傾向があるのだ。また、ウェブサイト運営のコストは、ほとんどの場合ユーザ数とは関係がない。管理人付きの会議室などを運営するには利用頻度に応じてコストが高くつくが、事前のコンテンツ制作にかかる経費は、従来からのコンテンツの利用とは無関係に必要な先行投資である。サーバやISPのコストは利用度に応じて高くなるが、それでもユーザ数を上回るほどのペースで上がることは通常ない。運営規模が拡大すれば、スケールメリットが生まれてくるからだ。これらすべてが、大規模サイトに有利に働く。

しかしながら、私は、小規模サイトの将来には楽観的だ。小規模で、フォーカスの絞られたサイトほど、付加価値が高くなる可能性があるからである。大規模サイトではどうしても一般的にならざるをえない。カスタマイズ機能を使って、ユーザごとにコンテンツ内容を部分的に調整できるとしても、これは避けられない。よって、大規模サイトで見るページは価値が低く、大部分がマスメディア型の広告から派生したものになりがちだ。長期的には、ウェブでのマス広告は、ページビューあたりで、恐らく1セントくらいを生むことになるだろうと予想している。

対照的に、小さなサイトでは、特殊な幅の狭いユーザグループにとっては価値の高い専門的なコンテンツを提供できる。類例として、出版業界を考えてみよう。確かにベストセラーというのもあるが、それ以外にも毎年非常に数多くの本が出版されている。なぜなら、読者によって目的が違えば、求める本も違うからである。ハイパーテキストを利用すれば、小さなサイトでも、大規模サイトにリンクすることでレベルの高いサービスを提供できる。サービス提供の見返りとして、大規模サイトにはリンク経由のトラフィックが生まれる。例えば、私のサイトは自前の通販システムを持つほどの規模ではないが、Amazon.comから最新のウェブ戦略書が買えるようになっている。

ナローキャストコンテンツを提供することで、小さなサイトではページビューあたりの価値を高めることができる。役に立つ情報が得られるなら、少額取引の代金くらい、ユーザは喜んで支払うはずだ。下の表は、中~大規模サイトがページビューあたり3セントを、小規模サイトがページビューあたり10セントを課金したらどうなるかを示したものである。また、小規模サイトがページビューあたり1ドルを課金したらどうなるかも、合わせて示しておいた。ユーザがページあたり1ドル払うようになるとは思えない。だが、ウェブを戦略的に利用すれば、製品販売に利用したり、ビジネス慣習をリエンジニアリングしたりして、ページあたり1ドルか、それ以上の価値を生み出すのは難しくないはずだ。

ウェブサイト集団
(2000年時点のもの)
ページビュー
あたりの価値
この集団に属する
サイトの合計年間収入
トップ10000サイト 1セント 190億ドル
続く100万サイト 3セント 270億ドル
続く1000万サイト
(トップから数えて200万~1100万番)
10セント 2340億ドル
続く1000万サイト
(トップから数えて1200万~2100万番)
1ドル 1兆ドル
残りの790万サイト 0 0

この表からも明らかなとおり、大きいほどいいというのは、最大規模のサイトが最大の収入を得るという意味でいいのであって、ウェブ経済全体としては、小規模サイトが支配することになるだろう。もちろんこれは、小規模サイトが、首尾よく専門的な価値を提供できるようになればの話だ。上記の表では、大多数を占めるローエンドサイトの収入をゼロとしている。そのほとんどが、個人ホームページや学校のサイトだからだ。こういった小さなサイトのオーナーは、サイトから収入を得ることはできないだろう。しかし、だからといって、サイトの価値がゼロということにはならない。例えば、私なら間違いなく、インターンを雇う前に、その学生のホームページをチェックするだろう。したがって、もし、そのサイトがその人の求職活動に役立ったのなら、その価値は十分あったということになる。これは、非公式かつ個人的な価値であり、なかなか数字で表すのは難しい。だが、知識経済という新分野を志す研究者の課題としては興味深いものだ。

1997年4月15日