Web管理の間違い・トップ10

ウェブのデザイン、開発には3つのレベルが関係する。

  • ウェブ管理
  • インタラクションデザイン(ナビゲーションのサポート、ホームページのレイアウト、テンプレート、検索など)
  • コンテンツデザイン(実際のページ執筆。サイトのインタラクションに対して、コンテンツのコミュニケーションに用いられるその他のメディア形式を含む)

ちょうどハンバーガーと同じようなもので、中間層がもっともうまみがあり、最大の関心を引き付ける。私のウェブユーザビリティに関する仕事も、ほとんどここに含まれる。外側の2層も、いろんな意味でより重要だということがわかってきた。ユーザはコンテンツにしか関心がないのだ(言い換えると、メディアはメッセージではない。メッセージがメッセージなのだ)。ウェブサイトのユーザビリティも、どちらかというとデザイナーの良し悪しよりも、コンテンツの管理方法に左右されるものなのだ。

コンテンツについては、もっとたくさん取り上げる予定である。ここに挙げるのは、ウェブサイトのデザインを管理する上での、典型的な間違いである。

1. 理由が明確になっていない

これがナンバーワンの問題だ。サイトで達成すべきことは何かすら聞かされず、単に役員に「やれ」と言われたからというだけの理由で、どれほど多くのウェブサイトが構築されたことか。当然ながら、「他所もやっているから」というのではまったく理由にならない。

確かに昨今では、プロらしく運営されている組織であることを印象付けるだけのためにでもウェブサイトは必要だ(ウェブがないというのはファックス機がないようなもの。夜逃げすらしかねない無責任な組織と思われる)。だから、ちょっとした企業のイメージ作りと、各事業所への道案内、それに年次報告やこれに類する投資家向け情報を載せた「名刺サイト」を立ち上げるのは構わない。しかし、これではウェブを最大限、有効に活用したことにはならない。この手のサイトは、ビジネス上、ウェブには積極的に取り組むつもりがないという明確な意思決定がなされた場合にのみ許されるものだ。

ウェブデザインプロジェクトを開始するにあたっては、まず、顧客にとって本当に価値あるものをサイト上で提供するにはどうしたらいいかを考えることから始めよう。ユーザがサイト上で費やした時間に見合うメリットをベネフィットを与え、取引ができるようにしておけば、お金が流れ込んでくるだろう。

2. 自社の重役に向けたデザインにする

サイトが内部志向だと、結局、ホームページいっぱいに企業理念やCEOの写真や、社史を載せることになってしまう(これらはすべて「当社について」ページにはぴったりだが、ホームページには不要だ)。宇宙はあなたの会社を中心に回っているなどと思っている顧客はいない。サイトのデザインにあたっては、まず顧客のニーズを念頭におくこと。自信満々の誇大な宣伝文句は後回しだ。自社の最高取締役が喜ぶようなサイトを構築してはならない。彼らはターゲット層ではないのだ。

3. 組織図そっくりのサイト構造にしてしまう

ユーザにとって、あなたの会社の組織構造などはどうでもいいことだ。よって、ウェブサイトの構造から組織構造を推察できるようではおかしい。確かに、すでに確立した指揮系統と予算配分にもとづいて、サイトの責任範囲を部門単位に分けてしまうのがもっとも簡単だ。だが、これだと、結果的に、顧客志向ではなく内部志向のサイトができてしまう。

サイト構造は、ユーザがサイト上で行いたいと考えるタスクに則して決定するべきである。その結果、2つのまったく異なった部署からの情報が、ひとつのページに掲載されるということだってあるかもしれない。ある部署からの情報を、サイト内の2つ、あるいはそれ以上のパートに分散する必要に迫られる場合も珍しくない。複数の部署が協力して管理しなくてはならない下部サイトもたくさんあるはずだ。

管理方法を間違ったウェブサイトの典型的な兆候として、その会社の副社長全員の専用ボタンがホームページに設置してある場合がある。思い出して欲しい。副社長のためにデザインしているのではないのだ。「彼ら」のボタンがホームページにある理由を説明できないことも珍しくない。

4. 複数の代理店への外注

新しいウェブプロジェクトが起こるたびに新しい代理店に発注していると、最後には、抗議デモの参加者全員から集めたハギレから作ったキルト細工のようなサイトになってしまう。複数の代理店を使う上での問題は、彼らのいずれもがサイト上で独自色を出そうとする点にある。会社によってデザイン哲学は違うし、作ったものを作品実績として利用したいとも考えているからである。サイト全ページの見た目が同じだと、「こことここのページをデザインしました」といっても自慢にはならない。

サイト内でページ移動するたびに、デザインがころころ変わるのではユーザもたまったものではない。使えるインタラクションデザインには一貫性がカギとなる。インターフェイス要素のすべてが同じ見た目、同じ機能になっていれば、ユーザはもっと自信を持ってサイトを利用できるだろう。ある下部サイトで身に付けたことが、次にも応用できるからだ。新しいページが現われるたびに、一から学び直す必要はない。

一貫性を保つ上で最良の方法は、サイト全体のデザインに責任を持つ部門をひとつ決めておくことだ。これが無理なら、少なくとも、中央のグループに全体のデザインワークを監督させ、単一のスタイルガイドを守らせる上で必要な権限を与えておこう。中央グループが実際のページデザインに携わっていなくても、かなりの程度、一貫性が確保できるだろう。様々な部署が、デザイン上のアドバイスをひとつの情報源から受けるようにできればいい。もっといいのは、中央のデザイングループにテンプレートを管理させ、更新されたり、改訂されたりしたグラフィックを、必要に応じてここから配布させることだ。

5. メンテナンス費を予算に入れ忘れる

ウェブサイトの年間メンテナンス予算として、サイト構築の初期費用と同額くらいと見ておくのが定石だ。最低でも50%はかかるだろう。もちろんニュースサイトその他の、毎日、あるいはリアルタイムの更新が頼りのプロジェクトでは、維持費はもっと高くつく。更新のことを忘れて、豪華なサイトを構築するのにお金を使ってしまうと、あっという間に投資が無駄になってしまうだろう。

現在、ウェブは猛然と変化しているので、最低でも年1回は大幅な再デザインを行おう。見た目に完璧な時代遅れになるのを避け、移ろいやすいユーザの期待に応えるだけのためにもこれは必要だ。これ以外にも、新しいコンテンツを掲載したり、古いページを整理し直したり改訂したり、リンク切れを防止したりするために、年中メンテナンスは必要だ。

間違い4で指摘したように、一貫性を保つためにデザインスタイルガイドとページテンプレートを整備してあるなら、こういったデザイン資源の維持費も予算組みしておくこと。スタイルガイドやテンプレートをニーズに即応して進化させていかなければ、デザインエントロピーはみるみるうちに増大し、サイトは崩壊してしまうだろう。もっともありふれた例を挙げれば、株式グラフィック、ヘッダバー、ナビゲーションボタン、アイコンといったものが更新の対象になる。この種の要望に応えるアートディレクターをスタンバイさせておかないと、新しいグラフィックが必要になるたびにページ開発者がこれを外注して、サイトのルック&フィールはバラバラになってしまうだろう。

6. ウェブを二次的なメディアとして扱う

昨日の残り物が材料では、なかなか高級料理は作れない。同様に、それがいかに価値あるものであっても、ウェブ以外のコンテンツを再利用したのでは、少しましな程度のウェブサイトしか作れない。ウェブは新しいメディアなのだ。それはテレビとも違うし、印刷した新聞とも違うし、派手なパンフレットとも違う。だから、こういった古いメディアのために最適化されたコンテンツを元にして、いいウェブサイトを作ることはできないのだ。昔からの喩え話はここでも有効だ。劇場の特等席に置いたカメラで芝居を撮影しただけでは、映画にはならない。

優れたウェブコンテンツを手に入れるには、始めからウェブのためにコンテンツを作るようスタッフに命じるしかない。これと並行して印刷物も必要なら、テキストと画像をDTPソフトに読み込んで、印刷にふさわしいものになるよう手を加えるのだ。もちろん、このやり方だと印刷物が犠牲になるだろうから、もしウェブコンテンツと印刷物の双方とも最良を求めるなら、2組のチームを設けて2組のコンテンツを制作するしかない。

コンテンツ制作者は、従来メディアのためにリニアなコンテンツを作る訓練を受けてきた。そのキャリアのほぼすべてをこれに注ぎ込んできたのだ。彼らは、コンテンツに対するいつものアプローチを意識的に変えなくてはいけないわけで、特にウェブに向けた素材作りを心がけるようコンテンツ制作者に働きかけておかないと、ウェブコンテンツは水準以下になってしまうだろう。

7. リンクの機会を逃す

ウェブはリンクするメディアだ。ハイパーテキストリンクでの結びつきによって、ユーザは新しい有用なサイトを発見できるのである。ほとんどの企業はこの現象を理解していて、ありとあらゆる広告、テレビCM、プレスリリース、時には製品そのもの(下着を買ったらURLが縫い込んであったという人もいるのでは?)にさえURLを熱心に入れるまでになっている。残念ながら、こういったURLのほとんどは一般的過ぎて、ユーザがそのURLにたどり着いた文脈に関連した見返りはまったく得られない。広告でホームページにリンクするのはやめよう。新製品や特別提供に関心を示した見込み客にホームページからサイトをナビゲートさせ、その製品のページを捜させるような真似をしてはならない。そうではなくて、広告からダイレクトに製品ページへリンクするのだ。また、プレスリリースにも、伝えたいメッセージを補強するような特定のURLをちりばめておこう。レポーターが、よりくわしい情報を求めてこれらのリンクをたどってくれるかもしれないし、オンライン出版物なら、一般的なリンクの代わりにこの特定のリンクを使ってくれるかもしれない。その方がユーザにも役に立つ。

あるテーマでキャンペーンをやっているなら、そのテーマをフォローするページへのURLを入れておこう。結果的に表示されるページが、広告そのままのコピーではだめだ(顧客はウェブを見る前にすでに広告は読んでいる)。とはいえ、広告のオンライン版へのリンクも入れておけば、広告を見ずに直接ページにやってきたユーザには役立つかもしれない。各メディアが得意とするところを活用するのだ。例えば、ゲーム会社はTVコマーシャルを利用して、みんなにそのゲームは良さそうだと思わせ、ウェブを活用してゲームの簡略版で遊べるようにしておけばよい。

8. インターネットとイントラネットの区別をつけない

内部的なイントラネットサイトには、公開のインターネットサイトとはかなり異なった管理が必要になる。一番の違いは、イントラネットは1社にひとつであることから、一貫性と予測可能性に関して、はるかに高度な管理を行うことができるという点だ。これは、野蛮なウェブの世界では、長年の間、望むべくして行い得なかったことだ。また、従業員は企業の生産活動のためにイントラネットを活用する。ということは、ユーザの時間のロスが、企業収益にダイレクトに影響するということだ。機材費を捻出するために、サイトに広告を載せるイントラネット管理者がいると聞いた時は、仰天してしまった。例えば、かりに平均的な従業員の時間価値が1分1ドルになるとしよう。広告のせいで1ページにつき3秒よけいに時間がかかるとすると、企業は、広告ひとつについて従業員の生産性を5セント失うことになる。MIS部門が広告ひとつにつき2セント(典型的なCPMである20ドルを想定)取ったとしても、その企業は正味で3セント損することになるのだ。

9. 市場調査とユーザビリティ工学を混同する

幸い、多くのサイトは、デザインに関する顧客データの価値に気が付いている。だが、残念ながら、そのほとんどは、フォーカスグループを始めとした従来の市場調査のみに頼っている。こういった手法のほとんどは、製品への欲望を掻き立て、売るためにはどうしたらいいかということに関するもので、その製品がどのように使われているかという点について、詳細な情報を与えてくれるものではない。ウェブデザインはインタラクティブな製品である。よって、ユーザがそのサイトを操作しているときにどんなことが起こっているかを調べるには、ユーザビリティ工学的な手法が必要となる。

ユーザはデザイナーではない。どんなにフォーカスグループを開催しても、ナビゲーションをどうデザインすべきか、などという話は彼らからは出てこない。フォーカスグループはユーザの現在の関心事や、助けを必要としている領域を洗い出すにはうってつけだ。だが、彼らから、あなたのビジネスを作り変えるような根本的な手法を聞き出せることはめったにない。顧客の言うことに注意深く耳を傾けていれば、どこに不満があるかがわかり、改善点が見えてくることも多い。だが、いったん改善点がわかったら、プロトタイプデザインを作って、ユーザビリティテストでユーザに試してもらって、本当に役立つものになっているか調べてみなければならない。

枚挙に暇のない話だが、フォーカスグループで、顧客がある機能を欲しがるので実現してみたところ、まったく使ってもらえなかったという話をよく聞く。あまりにも面倒だったり、高価だったり、実際の利用ニーズに応えられなかったりするからだ。重要なのは、市場調査は出発点にはなるけれども、使ってみて役に立つデザインにしたいと思うなら、ユーザビリティ工学でこれを補わなくてはならないということだ。

従来の市場調査会社に依頼して、あなたのウェブサイトと競争相手のウェブサイトのどちらが好きか、何1000人もの顧客に質問してもいいだろう。その結果、あなたのサイトの得点が例えば5.6で、一番の競争相手の得点が5.9だったとすれば、改善が必要なことは明らかである。だが、どうやればいいのかはわからないはずだ。紛らわしかったり、ユーザの足を引っ張ったり、ユーザのやり方にマッチしていなかったりして、変更が必要な細かいサイトデザインやパーツについての洞察は、現実的なタスクを達成するためにあなたのサイトを実際に使っているユーザを4、5人観察すれば得られる。ユーザビリティラボで1日か2日費やすだけで、デザイン向上のための変更点が山ほどリストアップされるだろう。

めったにないことだが、ユーザテスティングだけやって、市場調査をまったくやらないサイトというのもあって、これもやはり間違いである。

10. ウェブの戦略的影響力を過小評価する

ウェブをオンライン版のパンフレット扱いして、マーケティング部門に任せっきりにするのは、非常に大きな間違いだ。ウェブは、将来のビジネス手法を決定付けるもっとも重要な要因のひとつと考えるべきだからだ。

あなたの会社のCTOやマーケティング部長に「金融機関離れ」とか「バーチャルプロジェクトチーム」とか、「少額取引」といった言葉について、どんな戦略的思考を持っているか聞いてみるといい。もし彼らに何の考えもないのなら、から考え始めるべきだ。手遅れにならないうちに。ウェブによって、まったく新しいビジネス手法が可能になった。真のグローバル化(例えば時計回り労働、すなわち地球の自転に合わせてチーム間でプロジェクトを受け渡す)などはその一例だ。こういった新しいビジネスチャンスをつかめなければ、数年で取り返しのつかない事態に陥るだろう。

未来の技術的変化を予想する上で古典的といえる間違いが2つある。ひとつは短期的影響を過大評価することであり、もうひとつは長期的影響を過小評価することである。ウェブは評判になりすぎて、来年とか再来年の範囲で何ができるかという点では過大評価される傾向がある。ほとんどのウェブサイトは、そうすぐに利益を出せるようにはならないだろう。だが、誰でも、どこでも接続可能という目標が達成されたあかつきには、どんなことが起こるか、過小評価しないでほしい。ネットワークの影響力は、少なくとも接続数の2乗の規模で拡大する。真のウェブの価値は、ビジネスプロセスの徹底的なリエンジニアリングが終わって、初めて見えてくるはずだ。

1997年6月15日