2Dは3Dより優れている

…なぜなら、人間はカエルではないのだから。

もし私たちがカエルだったとしたら、目玉が頭の側面についているわけで、そうなると話は違ってくる。だが、人間は顔の前面に目玉がくっついている。まっすぐ外界を見ているのだ。

ホモサピエンスは、サバンナをさまよい歩くのに適した形に進化した。平地を動き回るのであって、木から木へと飛び移るのではない。今日、クルマを運転する人と、ヘリコプターのパイロットとどちらが多いか、その比率を見てみれば、進化上のバイアスがかかっていることは明らかだ。これは、2Dのナビゲーション(地上) vs. 3Dナビゲーション(空中)の比率でもあるのだ。

コンピュータ上で3Dを利用するにあたっては、一連の問題がついて回る。

  • 画面もマウスも2Dのデバイスだ。妙ちきりんなヘッドギアを装着したり、高価なコウモリ(つまり空中用のマウスということだね)を購入しない限り、本物の3Dには到達できないということになる。
  • 現在、一般的に利用されているインタラクション技術では、3D空間をコントロールするのは難しい。これらは、2D(ドラッグ、スクロールなど)で操作するようにデザインされたものだからだ。
  • ユーザは、基調となるモデルにおけるナビゲーションに加えて、3Dビューのナビゲーションにも注意しなくてはいけなくなる。飛んだり、ズームしたりといった、余計な制御が必要になるのだ。これらは、ユーザのメインタスクの邪魔になる。
  • 画面解像度が低いと十分なディテールを表現できないので、遠くにあるオブジェクトは見分けられなくなる。背景にあるテキストは、まったく読解不可能だ。
  • 3Dの実現に必要なソフトは、たいていが標準化されておらず、クラッシュもしやすい。余計なダウンロードも必要になる(ユーザは待つのが嫌いだ)。

3Dのまずい使い方

ほとんどの抽象的情報空間は、3Dではうまくいかない。物理的な実体を持たないからだ。もし可能だとしても、少なくとも100次元は必要になるだろう。そうすると、情報空間を3Dで視覚化するということは、すなわち98次元を捨てるかわりに、97次元を捨てるということでしかないのだ。インターフェイスがぐっと複雑化することを考えると、これを正当化できるほどの大きな進歩とはいえない。

特に(例えば、ウェブサイトのような)ハイパースペースでのナビゲーションは、3Dにすると非常に混乱したものになることが多い。ユーザはしょっちゅう道に迷ってしまう。デモを見ている限りでは、3Dナビゲーションはとてもクールだ。だが、それは、ハイパースペースを飛びまわっているのが自分じゃないから言えることだ。だからこそ、自分の背後に何があるか記憶している必要はないし、遠くにあるオブジェクトの影にどんなオブジェクトが隠れているか心配する必要もない。デモをやっている人間は、あらゆるものがどこにあるかを知り尽くしているのだ(デモの第一法則:そのシステムを実際に何かに使ってみようなんて考えちゃいけない。クラッシュしそうなものには触らないように組み立てた台本にのっとって、よくリハーサルし、そのとおりの道順を進むことだ)。

物理的世界を真似たヴァーチャルリアリティなんていうイカサマ(例えば、ヴァーチャルショッピングモールとか)には引っかからないようにしよう。ウェブデザインは、現実世界よりもよいものを目指している。ユーザに「モールを歩き回ってください」と言うことは、インターフェイスでもって彼らの目的を妨げることになるのだ。物理的世界では、店舗と店舗の間は、重い足取りで歩いて回るしかない。ウェブならサイバースペースをテレポートできる。ユーザのニーズに合ったナビゲーション形態を使って、目的地に直行できるのだ(もちろん、情報アーキテクチャがよくできているとしての話だが)。

3Dを使うべき時

固体という形態で理解する必要のある物理的オブジェクトを視覚化する場合がこれにあたる。例としては以下のような場合が考えられる。

  • 患者の切開個所を検討する外科医。身体は3Dであり、腫瘍の患部も3D上の位置である。これは2DのX線より、3Dモデルの方がわかりやすい。
  • 部品を設計している機械技術者。ガジェットの中に部品をきちんと収める必要がある。
  • 分子の形状を把握しようとする化学者
  • トレードショーのブース配置を計画する場合

物理的なオブジェクトであっても2Dの方がうまくいく場合もある。コンピュータの筐体に収められたハードディスクの換装方法をヘルプシステムで説明するとしたら、正確な位置を立体的にハイライトするより、概略図にした方がうまくいくだろう。あるいは、修理技術者が古いディスクを新しいものに交換している様子を撮影したビデオを使うという手もある。画像という点で見ればビデオは2Dであるが、何が起こっているのかを理解する手助けとして音声を使うことができる(例えば、ディスクがきっちりはまったらパチッという音を聞かせる)。音声によって次元がひとつ広がる。それでいて、ナビゲーションへの負担は一切ない。ビデオとシンクロしているからだ。

きっちり3つの属性を持った抽象的データ群なら、3Dで視覚化したほうがわかりやすくなる場合もある。だが、まずは問題を単純化して、2Dで表現できないか試行錯誤してみよう。マンガのコマ割りのようなレイアウトを使って、複数のチャートを並べるという方法もある。これはTufteがThe Visual Display of Quantitative Informationの中で特に愛用した手法だ。

最後にエンタテイメント用のアプリケーション、および教育用のインターフェイスは、3Dのもつ楽しさ、魅力をうまく利用できるだろう。このことは、数知れぬほどたくさんのシューティングゲームで証明済みである。ゲームで3Dがうまくいっているのは、ユーザが楽しむという以上の何ものもそこに求めていないからだ、という点に注意しておこう。できるだけ短時間で悪者を倒すことが目的だとしたら、DOOMよりマシなインターフェイスを作るのは簡単なはずだ。そのエリアの2Dマップに、敵兵を示したアイコンを書き入れる。このアイコンをクリックするだけで、爆弾が投げつけられるようにしておけばいいのだ。あっという間にゲーム終了、正しい者が常に勝利を収める。ペンタゴンならこういうデザインにするだろうが、ゲームとしては退屈そのものだ。

1998年11月15日