パンくずナビゲーションの有用性が上昇中
パンくずとは、いま表示されているページがどの階層にあたるのかを1行のテキストで教えてくれるナビゲーションである。補助的なものであるにもかかわらず、その有用性は次第に高まってきた。
デザインに関する意思決定のすべてが、ウェブサイトの生死を分けるわけではない。もちろん、肝心なところを正すことは重要で、さもなければユーザにそっぽを向かれることになるだろう。一方、ちょっとしたところの修正は、ユーザビリティの向上とユーザの満足につながる。パンくずリストは、まさにその好例だ。
パンくずがユーザの疑問に答え、絶望的に分かりにくいインフォメーション・アーキテクチャを修復してくれるわけではない。パンくずがユーザにしてあげられるのは、サイトの中を動き回りやすくすることだけである。1行という限られたデザインの中でできることとしては十分と言えるだろう。
パンくずはいつでも二次的なナビゲーションという役割にある。その謙虚な立ち位置はサイトマップと共通だ。サイトを訪れたユーザが主に利用するナビゲーションはメインメニューと検索ボックスで、ユーザビリティを考えるときには当然それらの方が重要になる。しかし、折に触れてユーザはサイトマップやパンくずに目を向ける。特にメインメニューが思うように機能してくれないときに。
二次的な役割の機能であるにもかかわらず、1995年以来ずっとパンくずの利用を推奨してきたことにはいくつかの単純な理由がある。
- パンくずは、現在地が上位コンセプトとどんな関係にあるのかを示し、サイトの中の他のページとの位置関係に対する理解を支援してくれる。
- パンくずを使えば、サイトの上位階層へクリックひとつでアクセスすることができる。検索やディープリンク(訳注:ウェブサイトのトップページ以外、たとえばニュースサイトの個別記事などがリンク先になっているハイパーリンクのこと)を使って、思いもよらないページに降り立ってしまったユーザには大きな助け舟となる。
- パンくずがユーザテストで問題を引き起こしたことはない。小さなデザイン要素なので見逃されてしまっただけかもしれないが、パンくずリストを誤って解釈したり、操作に困ったりするユーザがみられたことはない。
- パンくずを表示するのに必要なスペースは、ごくわずかに限られている。
このとおり、もたらされるメリットは大きいとは言えないが、総合的に費用対効果を分析してみるとパンくずに極めて有利な結果となる。マイナス面が驚くほどに小さいのだ。場所を喰うと言っても、たかが知れている。分子がそれなりの数になっても分母が小さければ、割り算の結果は十分に大きな数字になるのだ。
議論のやり玉にあがるのは、多くのユーザがパンくずを見逃してしまう点だ。少数のユーザのためにしかならないところを気にかける必要がどうしてあるのだろう?
これまでも主張してきたとおり、あまり使われることのないデザイン要素の中でもパンくずは特別なのだ。理由は単純で、その存在に気づくことのないユーザに害を及ぼすことがないところにある。
利用者は増加中
パンくずに反対する向きはなくなりつつある。私たちが実施する調査の中で、パンくずを利用するユーザの数は年々増えてきている。パンくずが主な調査対象となることはないので、それを利用するユーザの割合を数値ではっきりと示すことはできないが、徐々に増えてきていることは間違いない。
たとえば先月実施したeコマースサイトのユーザテストで、あるユーザがこんな不満を口にした。“前のページに戻るための機能がない。”
ブラウザの戻るボタンを欲しているとしか思えないこの発話には困惑した。ブラウザには常に戻るボタンが表示されていたし、テストの前半でこのユーザが戻るボタンをクリックするところも観察されていた。また、6年前から定着しつつあるガイドラインのひとつで、ブラウザの機能をウェブページの中に重複して持たせることは避けることが推奨されている。
しかし、事態はすぐにはっきりした。ユーザは戻るボタンを求めていたわけではなかったのだ。彼女の不満をよくよく聞いてみると、パンくずが表示されることの多い辺りを指さして、上位の階層へ遷移するためのリンクがそこに並んでいて欲しいと言うではないか。
つまり、パンくずの表示を求めていたのだ。以前に見たことはあったが、それがなんと呼ばれているのかを知らなかった彼女は、文字通りに受け取られたら簡単に誤解を招いてしまいそうな言い表し方しかできなかったのである。
ユーザの言葉を鵜呑みにしてはいけない、という得難い教訓を示す好例である。ユーザの言葉ではなく、行動にこそ注目していかなければならないのだ。
一貫性が親しみを生む
人間の行動は、何年経ってもそう変わるものではない。近著では、1990年代に示したウェブデザインのガイドラインを変更した事例をいくつか示したが、十数年のときを経てもユーザビリティのガイドラインはほとんど変わっていないのである。
パンくずのないサイトでは何か物足りなさを感じてしまうほどに、ユーザがパンくずを使うようになったのはどうしてだろう?
パンくずが質素に控えていてくれることに、ユーザが慣れてきてしまったからだろう。パンくずのデザインをしくじるということはそうそうあるものではない。テキストを一列に並べてリンクを張るだけで、キレイに飾る必要はない。
パンくずは、ほとんどいつも同じ形式で実装される。横一列にテキストを並べて…
- 最上位の階層から下の階層へ、一階層ずつの遷移を示す
- 始まりはホームページ、終わりは現在表示されているページになる
- テキストが各階層へのリンクになっている(表示中のページは除く。クリックしても状況に変化をもたらすことのないリンクはあるべきではない)
- 単純な記号ひとつ(“>”が使われる場合が多い)で階層と階層とを区切る
この一貫性のおかげで、ユーザは見ればすぐにパンくずリストと理解し、使い方まで分かってしまう。一貫性が親しみを生み、予測をしやすくしてくれる。結果として、ユーザビリティが育まれるのだ。ただし、パンくずをデザインするときには、慣習に従わなければならない という意味でもある。
パンくずは、イントラネットでも有用で、今年トップ10にランクインしたイントラネットのうち実に80%がパンくずを採用していた。
階層構造か履歴か
パンくずを採用するときは、ヘンゼルとグレーテルというおとぎ話にもっと忠実に倣うべきではないかと質問を受けることがある。お話の中で子供たちは、うっそうと生い茂る森の中を歩き回ることになる。そのとき、帰り道の目印になるようにとパンくずを落としていくのだ。
ユーザインターフェイスのデザインにメタファーを極端に用いてしまうことは危険な場合が多く、パンくずはここでもその好例になる。ヘンゼルとグレーテルがしたように履歴のリストをユーザに提示しても、基本的には何の役にも立たない。ウェブで2番目によく使われる機能、つまりブラウザの戻るボタンが提供する機能とまったく同じものになってしまうからだ。
履歴のリストは、ユーザをかえって混乱させることにもなりかねない。同じところをグルグル回ったり、間違えて別のセクションに入ってしまったりすることはユーザにはよくあることだ。表示されているページを先頭に、迷いに迷ったそこまでの経過をいちいち表示したところで何の役にも立たない。
また、奥の階層にあるページに直接アクセスしてしまったユーザにとっても履歴リストはまったく役に立たない。こんなときパンくずは、ユーザビリティ上の大きな役割を果たすことになる。正しく実装されていれば、つまり現在表示されているページがサイトのインフォメーション・アーキテクチャの中のどこに位置しているのかが見えるようになっていればの話だが。
- パンくずは、履歴ではなく、サイトの階層構造を示すべきである。
階層構造をとっていないウェブサイトでも、現在表示されているページがもっと大きな枠組みで、あるいはもっと一般的なコンセプトの中でどんな位置関係にあるのかをパンくずで示すことができれば、ユーザの役に立つことだろう。たとえば、膨大な量を誇る商品のデータベースの中からユーザが属性を特定して商品を選別できる機能(もちろん、ユーザ視点で選択のしやすい属性にまとめておくこと)を提供するとしよう。パンくずリストを使って、選択されてきた属性を並べてあげることができる。おもちゃ屋さんのウェブサイトなら、「ホーム > 女の子 > 5 – 6才 > 屋外用のおもちゃ」のようなパンくずリストを作ることができる。(下線だけではなく、リンクテキストは色を変えて表示すること。ここではダミーのリンクによる混乱を防ぐために色を変えていない。)
今後、ユーザはますますパンくずを利用するようになるだろう。Windows Vistaではこれが重要なナビゲーションツールになっているからだ。OS、アプリケーション、コンテンツやウェブサイトをしっかり区別できているユーザは多くない。Vistaのインタラクションテクニックを解したユーザは、その理解をウェブサイトにも転用することになるだろう。
まだパンくずを使っていないのなら、検討を始めてみてはどうだろうか。まずはほんの少しユーザビリティを高めよう。そしてユーザの高まる期待に応えていけるよう備えるのだ。パンくずを搭載したところでユーザに害を及ぼす心配はないのだから。
2007 年 4 月 10 日