インターネットサービスの品質調整

インターネット上では、ほとんどのサービスは3段階の品質に分けて提供しなくてはならないはずだ。

  1. 高度な機能を利用するための理想的インターフェイスを備えた専用アプリケーション
  2. 標準にきっちり準拠し、2年前のブラウザでも動作する伝統的なウェブページ。プラグインの使用は、ゼロか、最低限で、HTMLとわずかな画像のみで構成されるページ。
  3. 高度に専用化された小型デバイス。画面が小さいとか、帯域幅が低い(この先数年は、モバイルでのインターネットアクセスが通常28.8kbpsを超えることはないだろう)せいで、すべての機能はサポートできない。

1993年、グラフィカルなウェブブラウザの登場とともに、専用のインターネットアプリケーションの開発は一時的にストップした。大きな例外は電子メールだ。非常に重要なものなので、ブラウザが提供するお粗末な電子メール機能では、ユーザのほとんどは我慢ができなかったのだ。電子メールは、専用アプリケーションと、そのお粗末な焼き直しであるウェブアプリケーションのせめぎ合いの一例でもあった。ブラウザを通じて電子メールにアクセスできる場合も多い。それ自体は楽しい経験とはいえないが、いろんな所からアクセスできるメリットは、時にデメリットを上回る場合もある。当然ながら、専用のクライアントであれ、ブラウザであれ、電子メールそのものには変わりない。メッセージも同じだし、基本機能(消去、返信、新規送信)にも変わりはない。

専用インターネットアプリケーション復興の兆しが、わずかながら出てきている。例えば、Carmen’s Headline Viewer(XML配信を行っている膨大なサイト群から見出しだけを集め、ひとつのユーザーインターフェイス上で閲覧できる)や、Auction Browser(多数の進行中オークションをリアルタイムにモニターできる)、あるいはGuruNet(ポップアップウィンドウを通じて、辞書の定義やその他のデータをインターネットから集めてくる。どんなアプリケーションからでも使える)がそうだ。United Airlinesでは専用のUnited Connectionソフトを用意し、インターネットを通じてチケットの注文を受けている。無様な出来ではあるが、同じバックエンドを利用するなら、いくつかの点でウェブベースのインターフェイスより優れている。私は、2000年には、このような専用アプリケーションがもっとたくさん出てくると予想している。

最先端のアプリケーションは、ブラウザのインターフェイスではうまくいかない。ブラウザは、記事を読むために最適化されているからだ。もちろん、ブラウザにも改善の余地はある。だが、オンライン情報の閲覧とナビゲーションという本来の使命からかけ離れてしまうと、ウェブのユーザビリティは損なわれてしまう。情報空間とアプリケーション空間では、普通、異なったナビゲーションが必要になる。このため、両者の最良のインターフェイスは異なったものになるはずだ。ひとつのインターフェイスが、あらゆるものに最適なはずはない。

複数のインターフェイスを提供する場合は、たとえそれらのデザインは違っても、あくまでもひとつのシステムのバリエーションであると理解できるようにしておくことが重要だ。

  • すべての情報があらゆるバージョンで表示されるわけではないにしても、複数のインターフェイスを通じて、システムデータは一貫しているべきだ。例えば、価格は統一されているべきだ。だが、小さな画面では、製品リストにベストセラーアイテムだけを掲載し、残りは引き続きの「他の製品」ページに掲載するということが考えられる。
  • ユーザ情報は、異なったインターフェイスでも維持しておかなくてはならない。もし私が今日、あるアクセス方法を使い、明日は別のを使うとしよう。この場合、一方のインターフェイスで行った変更は、他方でも反映されているべきだ。
  • ログイン、ユーザ認証、ユーザプロファイル(すべての設定があらゆるインターフェイスに適用できるわけではないが、可能な限りの設定は尊重すべきだ。そうすれば、いちいち手動で設定をやり直す必要はない)
  • コマンドには同じ機能、同じ副作用を割り当てること。あるバージョンでは、特別な機能やバリエーションが割愛されることがあるかもしれない。例えば、航空会社の予約システムでは、フライトの選択とチケットの購入は別のステップになっているかもしれない。この分け方は、他のバージョンでも一貫しているべきだ。選択と購入を1ステップにまとめた簡略版を作ってはいけない。上位バージョンに、簡略版にない追加機能(好みの座席指定など)を設けることには問題ない。こういった機能がないということはトレードオフであり、このおかげで、限定された様々な環境下でシステムを利用できるというメリットが享受できるわけだ。

すべてのアクセス手段で、同じ機能を提供する必要はない。例えば、ローエンドバージョンでは写真を省いたり、あるいは白黒にするということがありうる。同様に、小さな画面ではテキストは省略してもいい。もちろん、標準的なコマンドを用いて全文を引き出せるようにはしておくべきだが。

どのバージョンには、どの機能を残すべきかを決めるのは、非常に大きなデザイン上の難問である。うまくグレードダウンして、本当にユーザが望む機能が、いつでも利用できるようになることを願っている。このゴールを達成するためには、タスク分析を行い、ユーザが、機能的に制限のある環境でどれくらい通常と異なった行動をとるかを知る必要がある。

WAP: ポータビリティに対する誤ったアプローチ

ヨーロッパを旅してわかったのだが、スカンジナビアではWAPに対して大きな興味をもっているのに対し、他の国々は、かなり疑いの目でもって見ている。

WAPは1インチ四方のウィンドウを通じて携帯電話でインターネットにアクセスする方法である。このおかげで、ユーザーインターフェイスは粗末なものになるだろう。

  • 小さな画面では文脈を表現できない。メニューや選択肢の表示も無理である
  • 高度な機能を使いこなすには、電話のプッシュボタンは向いていない – その証拠に、あなた自身、携帯電話で使う機能がいかに数少ないか、思い起こしてみて欲しい。

モバイルでのインターネットへのアクセスは、(電子メールとウェブブラウザに次ぐ)第3のキラーアプリになるだろう。だから、本当の情報家電が登場するまでの間、WAPも一時的な成功を収めるはずだ。長期的には、インターネットの利用を促進するには、携帯電話の小さなウィンドウではなく、もっと大きな画面が必要になる。

私は画面サイズに非常なこだわりを持っている。様々なプラットフォーム上でユーザインターフェイスを経験した結果、小さな画面よりも、大きな画面の方がユーザビリティが高まるということがわかったからだ。同様にグラフィカルユーザーインターフェイスにすることで、さらにユーザビリティが高まる。当然ながら、モバイルであるためには、デスクトップと同じ大きさの画面を搭載するわけにはいかない。モバイルであることと、十分な画面サイズの両立という点では、Palm Pilotあたりがひとつの妥協点かもしれない。

手のひらサイズの機器は、小型のハンドセットを利用することで、電話としての役割を併せ持つことができる。例えば、Bluetoothを使ったワイヤレス接続が考えられる。現在のような形態の携帯電話は、いずれ絶滅するはずだ

1999年10月31日