親和図法で陥りやすい3つの落とし穴の回避

親和図法ワークショップにおけるファシリテーションの経験が浅いと、チームの目標にそぐわない、または、根本的な問題を誤って伝えるようなグループ分けにつながる恐れがある。

親和図法(親和性マッピング、KJ法ともいう)は、大量のデータを構造化してまとめあげるのに有効な手法である。

大まかに言うと、親和図法のワークショップでは、まず、機能のアイデアやユーザー調査の結果などの項目をそれぞれ別の付箋に書きだしてから、そのすべての付箋を壁に貼る。それから、チームで、関連する付箋を集めてグループにしていき、最後にグループを説明する名前をつける。その結果、複数のグループが出来上がることになる。

そして、UXの現場では、親和図法を行った後、どのグループに最初に取り組むべきかを決める優先順位づけが行われることが多い。

親和図法はかなりシンプルで簡単なように見えるが、往々にして間違ったやり方で行われている。現実には、親和図法のワークショップは、進行するにも参加するにも時間とスキルが必要だ。また、結果の妥当性に影響を及ぼす落とし穴もいくつか存在している。

明確な目標や、焦点を絞った課題がない

私は親和図法のセッションのファシリテーターを始めたばかりのころ、分類のプロセスをどう進めていくかについての説明をし、時間を取って質問がないかをチームに確認もしていた。しかし、ほとんどの場合、質問は出なかった。分類の仕組み自体は、比較的シンプルに思えるからだろう。そこで、タイマーを鳴らし、参加者に自由に壁際で作業してもらうのだが、慌ただしく分類を始めるかわりに、彼らは無表情で壁を見つめ、何から始めたらいいのかわからなくなっていることがよくあった。やがて、おずおずと手が挙がり、こういう質問が出るのである。「ところで、これは何を基準に分類したらいいのでしょうか」。

多くの場合、「テーマに基づいてこれらを分類しなさい」という指示だけでは不十分ということだ。山のようにある項目を仕分けるのによさそうに思えるやり方は、たくさんあるからだ。

このようなことが何度かあった後、私は「フォーカスクエスチョン」(焦点を絞った課題)から始めることの重要性を学んだ。適切なフォーカスクエスチョンを選択することは非常に重要だ。それによって、データがどのように分類されるかががらりと変わるからである。

例を2つ紹介しよう。まずは食べ物についての基本的な例、続いて、UX関係の例を示す。

たとえば、こんなボードが提示されたとする:

これらの付箋をどのようにグループ分けするかは、その活動の目的によって異なる。

付箋の分類をどのように始めるのか。その答えは、付箋を分類したい理由によって大きく変わってくる。たとえば、次のようなシナリオを考えてみよう:

  • あなたは食料品店の店員で、商品を店内のどこに配置するかを考えているとする。この場合は、飲料を1つのグループに分け、果物は別のグループに分けることになるだろう。
  • また、メーカーに勤めているのであれば、各商品の原材料が気になるところだ。この場合、「りんご」は「アップルサイダー」と、「ぶどう」は「ぶどうジュース」と一緒にすることになるだろう。
  • あるいは、あなたは栄養士で、基本的な食品群に関心があるかもしれない。この場合は、にんじんジュースを野菜のカテゴリーに分類し、他の項目はすべて果物に分類することになるだろう。

親和図法を実行するチームが、自分たちが取り組むべきフォーカスクエスチョンを知っておく必要があるのは明らかだ。それに対する回答は明白な場合もあるが、あいまいなこともある。たとえば、ユーザビリティテストで得られた観察結果を記した以下のボードについて考えてみよう:

 ユーザーテストから得られた観察結果。

さて、この付箋を分類する方法として、次の2つを考えてみよう。

オプションA(上)とオプションB(下)はどちらも、前の画像にあったユーザビリティ問題を分類する妥当なやり方である。

おそらく、どちらのやり方も先ほどのデータを分類する方法としてまったく妥当である。しかし、得られる結果も行き着く結論も異なる。もしこの調査が、トップページの利用に関する新たな問題の発見を目的とした初期段階の調査であれば、おそらくオプションAの方法を取るのが正しいだろう。しかし、そうではなく、この調査が、Webサイトでユーザーに自分のプロフィールにログインさせるための取り組みの一環であったとしたらどうだろうか。その場合は、オプションBのほうがより適切と言えるかもしれない。そして、「ログインを阻害するもの」グループをこの後、さらに細分化することにし、一方、「トップページへの最初の反応」はこの取り組みとはあまり関係がないということで、アイデア置き場に移動させてもいいかもしれない。私は今では親和図法の活動を円滑に進めるために、フォーカスクエスチョンを必ず事前に確認するようにしている。フォーカスクエスチョンは、以下のように明確で簡潔でなければならない:

  • 食料品店の売り場のどこにさまざまな商品を配置するべきか。
  • なぜログインするユーザーが増えないのか。

プロジェクトの目標が明確であれば、フォーカスクエスチョンを考えるのはかなりたやすい。しかし、親和性マッピングは、プロジェクトの目標ゴールが明確でない発見フェーズでも頻繁に利用される。そのような状況では、以下のような範囲の広いフォーカスクエスチョンから始めるとよい:

  • どのようなユーザビリティ問題があるのか。
  • どのようなユーザーニーズが満たされていないのか。

ワークショップでは、このフォーカスクエスチョンをホワイトボードに書いたり、スライドに映したりして、はっきりと見えるようにしておく必要がある。参加者が付箋を並べ始めるのを見ながら、無関係なグループや非論理的なグループが形成されているのに気づいて、皆の注意をフォーカスクエスチョンに戻す必要があると思うこともあるからだ。私のファシリテーションプロセスにこのシンプルなひと手間を加えることで、チームが目の前の目標に集中し、目標達成のために役立つグループを形成することができるようになったのである。

(注:親和図法を複数回実施することが有効な場合もある。たとえば、付箋の数が多い場合や、広い範囲に焦点を当てる場合などだ。こうした場合には、1回ごとに異なるフォーカスクエスチョンを設定するのが効果的だ。たとえば、1回目では、ユーザーはいつ、どこで、これらの問題に直面したか、というフォーカスクエスチョンにして、項目を特定のページや要素、ジャーニーステップに基づいて大まかに分類する。2回目には、どのようなユーザビリティの問題が発生したか、というフォーカスクエスチョンを問いかけ、参加者が先ほどグループ化したものをUXの問題にさらに細分化できるようにするのだ)

キーワードマッチ

キーワードマッチとは、カードソーティング法(親和図法とプロセスの仕組みはほぼ同じだが、目的が異なる)から生まれた概念である。付箋紙を共通するキーワードによって分類することを指す。

たとえば、もう一度、食品関連の付箋を例に、食料品店でどこに商品を配置するかを決めようとしているとしよう。チームがキーワードマッチをしてしまうと、「りんご」(Apples)と「アップルサイダー」(Apple cider)を一緒に並べるかもしれない。特に無頓着なチームは、「パイナップル」(Pineapples)もそのグループに入れてしまうこともあるだろう。

このグループ分けは、キーワードマッチによって出来上がったものだが、食料品店のどこに商品を配置するかを決めるという目的からすると失敗している。

キーワードマッチは、結局、親和図法を行うチームにとって役に立たない表面的なグループ分けになってしまうことが多い。これを回避するのは容易ではない。(理論的には、一般的な言葉を避けるように付箋の文言を変えることもできるが、多くの場合、これは現実的でない)

とはいうものの、キーワードマッチを最小限に抑えるために、私は2つの方法をとっている。

  1. キーワードマッチについてチームに説明する。ワークショップの導入部で、キーワードマッチの危険性を説明し、例を挙げる。自分はキーワードマッチがないか見張るつもりでいて、見つけたら指摘すると参加者に伝える。参加者にも同じようにしてほしいと呼びかける。
  2. 説明的なグループラベルを推奨する。キーワードマッチの兆候として挙げられるものに、広範で漠然としたグループ名がある。たとえば、「メニューボタン」、「ログインボタン」、「カートに入れるボタン」という語句を含むカードがグループにされると、このグループのラベルはほぼ間違いなく、「ボタンの問題」になる。こうした付箋同士を結びつける要素が他にないからだ。残念ながら、「ボタンの問題」からは有用な情報がまったく得られないので、このラベルは不適切である。私は、グループラベルの書き方について、チームに具体的なルールを示している。これは、グループ分けという作業全体をより有用なものにするとともに、キーワードマッチを防ぐためである。ラベルのルールの例としては、「ラベルはある問題を説明する短い文章で、動詞を含むこと」(例:ユーザーがログインに失敗した)、「ラベルは短く、ユーザーの発言の形を取っていること」(例:私にはこのサイトが何のためのものなのかわからない)などがある。いずれも、ユーザーに焦点を当てつづけることで、参加者が早々に解決策に飛びつくのを防ぐという利点もある。

グループ思考

ファシリテーターは、UXワークショップでグループ思考の出現に常に注意を払う必要がある。ワークショップの主要な利点は、異なる役割や背景を持つ人々の多様な意見から得られるものだ。しかし、声の大きい少数派がチームの考え方に影響を与えはじめたら、その利点は激減するからである。

親和図法のワークショップでのグループ思考は、以下の3つのタイプの参加者が悪気なく、その場を支配してしまうことによって発生することが多い:

  • 世話焼きな高給取り:意図せず他者を威圧して他者の貢献を阻害する、強い権限を持つ参加者
  • 熱心な愛好家:熱狂しているためについ会話を支配する、熱狂的な参加者
  • 啓発的な専門家:無関係な話題の知識や背景を過剰に語る、調査課題の専門家

この種の人々は、グループ化プロセスの初期段階で、おそらく善意から、付箋をもっとも効率的に分類する方法についてこうしたらどうかと口を挟むことがよくある。すると、多くの場合、他の参加者もそれに同調し、グループ思考に陥ってしまうのである。

これは問題だ。なぜなら、親和図法がもたらすはずの利点の1つは、初期の「組織的混乱」にあるからだ。そこではさまざまな人が異なる戦略やフレームワークを使って分類をしようとする。そして、こうした戦略のうちのもっとも適切なもの、あるいはうまくいったものが、最終的に自然と台頭するのである。しかし、もしチームが最初から1つのフレームワークに縛られると、それ以外の優れた戦略の現れる余地がなくなってしまう。

幸いなことに、これに対する解決策はシンプルだ(とはいえ、なかなか順守できないこともあるが)。それは沈黙である。参加者に、グループ化の作業は黙って行わなければならないと伝えよう。さらに、このプロセスは難しく、混沌としているように感じるかもしれないが、無言で作業することは、このワークショップのゴールに向かうために必要な道のりの一部である、と釘を指すのである。

参加者が話したくなる衝動を抑えるのに苦労し、ファシリテーターが注意を促さなくてはならないことも少なくない。しかし、グループ化のための戦略やフレームワークができつつあるワークショップの初期段階において、沈黙というのはとりわけ重要だ。活動の後半になり、グループが確立されて、参加者がグループからはみ出した付箋を分類するのに苦労するようになると、私は話をしてはならないという方針を緩和し、生産的な会話なら許可することが多い。ただし、支配的な行動には常に警戒するようにし、そうした行動に対抗するために、必要であれば黙って作業するように指示を出そう。

結論

親和図法の仕組みは一見シンプルに見えるため、この活動は容易で、誰にでもできるものだと誤解されることがある。しかし、実際には、熟練したファシリテーターと注意深い参加者を必要とする高度な手法と言える。明確なフォーカスクエスチョンを用意し、キーワードマッチやグループ思考に陥らないようにすれば、この手法に関わるもっとも一般的な落とし穴を回避することができるだろう。