カスタマージャーニーマップ作成のための調査の方法
カスタマージャーニーマップのために調査を実施する際は、インタビューやフィールド調査、日記調査など、ユーザーと直接やり取りができたり、彼らを直に観察できる、定性的な手法を利用しよう。
はじめに
カスタマージャーニーマップは、ユーザーが目標を達成するためにおこなう手順を視覚化したものだ。納得のいく、説得力のあるジャーニーマップにするには、マップは事実に基づいている必要があり、自分たちの製品とユーザーにどうインタラクトしてほしいかを描いたおとぎ話的なものにしてはならない。
この記事では、カスタマージャーニーマップを作成するためのデータ収集に適した調査手法について説明する。また、カスタマージャーニーマップは、いつどのように作るべきか、その5段階のプロセス、ジャーニーマップ作成の実際を論じた記事も参照してほしい。
なぜカスタマージャーニーマップのために調査を実施するのか
調査にはかなり費用や時間がかかることもある。では、ステークホルダーから提供された情報に基づいて仮説マップを作成して利用することにして、調査フェーズを省略すると、何が問題なのだろうか。ステークホルダーがカスタマージャーニーのいろいろな領域について、貴重な知識を持っていることは間違いない。しかし、彼らの大半は、カスタマージャーニー全体を見通せるような大局的なものの見方をしないし、各段階でのユーザーのニーズを捉えられるところまで深く考えたりもしない。そのため、リアリティのある包括的な全体像を描き出すことができないのである。
仮定だけに基づくジャーニーマップには、以下の2つのリスクがある。
- そのマップに意義があるようにあまり感じられないので、裏付けに乏しい「逸話」として片付けられてしまい、変化を促す説得力のあるツールとして見なされないことが多い。
- チームメンバーが不正確なマップを実際に利用して、(良くも悪くも)エクスペリエンスを変える意思決定をしてしまう可能性がある。
ステップ1:まず既存のデータを探そう
ジャーニーマップ作成という取り組みのための調査を開始する前に、少し時間を取って、関連するデータが組織内にすでにあるかどうか探してみよう。過去のさまざまな社内での取り組みを通して忘れ去られてしまった、カスタマージャーニーに関する情報が(とはいえ内容はさまざまだが)存在していることは多い。こうした情報は、定性的なデータ(たとえば、過去のフォーカスグループのデータ、カスタマーサポートの通話記録など)も、定量データ(アナリティクス、顧客満足度スコアなど)も、調査活動の内容をどのように具体化し、どこに焦点を当てるかについての手がかりを与えてくれる。
ステップ2:定性的な調査を実施しよう
既存の定量的なデータをジャーニーマップの根拠として利用したくなることもあるかもしれない。定量データがあれば、顧客の全般的な態度と個々のインタラクションに対する満足度を高次元で理解することができる(NPSのことを思い出してほしい)。その一方で、定量データは、カスタマージャーニー全体を効果的に描写するのに必要なレベルで、顧客の感情や考え方、動機を理解するには適していない。
こうした知見を得るには、定性的な調査手法を用いて、顧客を直に観察したり、彼らと直接会話するのが、最も有効な時間の使い方となる。カスタマージャーニーの各フェーズでのユーザーの思考や感情、行動を理解できる、以下の定性的な調査手法について検討してみてほしい。
顧客やユーザーへのインタビュー
インタビューをすれば、顧客のエクスペリエンスや考え方、行動に関するストーリーを彼らから直接聞くことができる。既存のデータを利用して、カスタマージャーニーの各フェーズの包括的な仮説を作成しておけば、それぞれのフェーズについて突っ込んだ質問をすることも可能だ。「(その製品やサービス)についてどう思うか教えてください」といった範囲の広い質問は、「登録プロセスで特に難しかった、あるいは容易だったのはどんなことでしょうか」のような具体的な質問に比べると役に立たないだろう。
インタビューは対面または電話経由で実施可能だ。対面インタビューのテクニックの1つに、ユーザーに付箋を使ってもらって、彼らが製品やサービスの利用を通してニーズを発見したところからの各段階を、見てわかるように書き出してもらうというのがある。このプロセスによって、インタビュー中、ユーザーがそれぞれの段階について思い出したり、それをきちんと整理したりできる。以降の電話インタビュー対象者には、対面インタビューから作成したテンプレートの試案を送信して、必要に応じてそれをレビューして、修正するように依頼し、自分のエクスペリエンスを反映してもらえばよい。
フィールド調査
インタビューは、ジャーニーマップ作成のために有益な調査手法である。とはいえ、ユーザーの「言う」ことと、彼らが「実際に」おこなうことは、必ずしも一致しないので、インタビューには、追加でフィールド調査のような定性的な手法を組み合わせておこなうのがベストだ。フィールド調査は、コンテキストインタビューを利用した家庭訪問調査から、買い物のエクスペリエンスのための店頭同行調査(shop-alongs)まで、さまざまな形態がある。
だが、見落としがちな盲点を発見したり、インタビュープロセス中に顧客が教えてくれることを検証したりするには、それぞれの調査形態が得意とする領域で顧客を観察することが重要だ。インタビューとフィールド調査の結果に違いがある場合は要注意である。たとえば、ジャーニーマップ作成のためのある調査活動中、カスタマーサービス担当者たちから、問題を抱えて電話をしてきた顧客の質問への回答を見つける「正しい」プロトコルについての説明を受けた。しかし、フィールド調査では、その同じカスタマーサービス担当者たちが顧客の質問に対する答えを見つけ出すのに複雑な代替方法を取るところが見受けられた。
日記調査
カスタマージャーニーは、多くの異なるチャネルで長期にわたって続く。そのため、ユーザーの思考や感情、行動を経時的に理解できる日記調査は特に有用である。日記調査は長期間の調査だ。ユーザーは、何日、あるいは何週間や何ヶ月にわたり、(たとえば、冷蔵庫の購入や新しいモバイルプランの契約などの)特定の目標に関連しておこなったありとあらゆる行動と、そうしたインタラクション中、どのように感じたかについて記録するように求められる。参加者の行動や感情、思考を可能な限りリアルタイムに近い時点でとらえられるため、インタビューでは頼りにされる、(当てにならない)記憶はこの調査では排除される。また、参加者が記録するデータはカスタマージャーニーのすべての段階にわたるもので、1つのフェーズだけのものではない。日記調査は準備に費用がかからないし、他の種類の調査をおこないながらバックグラウンドで実施することも可能である。
競合分析
競合分析は、まだ存在しない製品やサービスの、将来のジャーニーマップをデザインする場合に特に役に立つ。リモートユーザビリティテストのプラットフォームで、顧客が競合サイトを利用するところを記録し、セッション内の特定のポイントで彼らの思考や感情、動機についてコメントしてもらうという、仮想的なアプローチを取ることもできる。こうしたデータによって、既存のユーザーベースがない場合でも、調査から情報を得ることが可能である。
カスタマージャーニーマップ作成に適した定性的な調査手法
調査手法 | カスタマージャーニーマップ作成に利用する理由 |
---|---|
顧客やユーザーへのインタビュー | 顧客と1対1で話すことで、彼らのストーリーや不満、ニーズを直接発見することができる。 |
直接観察 | ユーザーの行動を彼らの普段の環境で観察することで、彼らの実際のインタラクションの流れを理解し、インタビュー対象者が自分では想起不可能だったものの見方を発見できる。 |
コンテキストインタビュー | ユーザーがタスクを実行するところを観察しながら質問することが可能なので、観察した内容を確認できるし、オープンエンドな会話が生まれる。 |
日記調査 | 調査を長期間にわたっておこなうため、顧客が経時的に自分の行動や思考、感情を記録可能である。その結果、さまざまなカスタマージャーニーについて知ることができる。 |
競合分析 | 競合評価をすることで、競合製品のエクスペリエンスをベンチマークにできるし、彼らの長所と短所が特定できる。 |
多面的な定性調査の計画を立てよう
時間と予算が許すなら、カスタマージャーニーマップ作成のための調査には多面的なアプローチを取るのがベストだ。つまり、上記の定性手法をいくつか組み合わせた調査を立案し、多方面からカスタマージャーニーを探索するとよい。以下に複数の定性手法を利用した調査計画の例を示す。(この計画は、プロジェクトの目標、タイムライン、予算などの背景に基づいて調整する必要がある)。
カスタマージャーニー調査計画の例
1 | ユーザーインタビュー |
1a | 対面のユーザーインタビューを実施して、カスタマージャーニーのすべての関連フェーズごとのストーリーを直接明らかにする。参加者が話しながら、付箋を使って、彼らがたどってきたジャーニーの段階をマッピングできるようにする。 |
1b | フェーズ1aから作成したカスタマージャーニーの大まかなテンプレートを新しい参加者グループに提供する。そして、デジタルホワイトボードツールを利用して、その参加者たちに電話インタビューをおこない、彼らがテンプレートをレビューして、修正できるようにする。 |
2 | フィールド調査 |
2a | コンテキストインタビューを実施して、実際の環境(たとえば、自宅、オフィスなど)で参加者が製品を使用しているところを観察し、ユーザーインタビューで聞いた内容を確認する。 |
3 | 日記調査(他の調査手法をおこないながらバックグラウンドで実施) |
3a | 日記調査を実施し、長期的な行動、思考、感情をよりよく理解する。 |
3b | 調査中の重要な節目で、日記調査参加者にユーザーインタビューを実施する。 |
4 | 競合分析 |
4a | 競合分析を実施して、ここまでの調査結果を、競合する他の企業や製品に対するユーザーの関わり方と比較する。 |
最後に、新しく収集した知見を利用して仮説マップを再検討して修正する際には、プロセスの一環としてユーザーをワークショップに参加させる機会をもつことを検討してみよう!
定量的データで定性調査を補完しよう
定量データは、カスタマージャーニーマップ作成の取り組みの開始時に、潜在的な問題領域を浮かび上がらせ、定性調査の取り組みを具体化する助けになる。その上、定性調査で得た知見にさらに証拠を追加し、ジャーニーマップの物語をより説得力のあるものにしてくれる。
たとえば、定性調査が完了した後に、以下の方法で、調査結果を補足したり、補強したりすることが可能である:
- アンケートで顧客インタビューを補足し、会話の中で発見した顧客の行動に関する頻度と重要度を把握する。
- デジタルアナリティクス(たとえば、関連するWebページのページビューや離脱率など)を利用して、カスタマージャーニーの特定のポイントでユーザーがイライラしている、といったあなた方の主張の信頼性を高める。
- 満足度指標を個々のインタラクションと並べて配置し、ジャーニーマップに描写される感情曲線の高いまたは低いエリアの補足をする。
定量データ | 利用方法 |
---|---|
アンケートデータ | 発見された行動の頻度と重要度を定量化する。また、明確さに欠ける調査結果を補足する。 |
顧客フィードバック | 機能の追加要望を集計して、見逃していた機会を発見し、新しいアイデアを主張する。 |
デジタルアナリティクス | 頻度と影響度に関する問題点を詳細に定量化し、顧客の不満をよりよく理解する。 |
ソーシャルセンチメント分析(訳注:SNSの投稿に込められた感情の分析) | カスタマージャーニーの各段階に関する顧客の感情を明らかにして、ジャーニーマップ作成で重点的に取り組む箇所を絞り込む。 |
顧客ロイヤルティまたは満足度スコア | カスタマージャーニーの各フェーズにこうした数値スコアを並べて配置し、ユーザーのセリフの引用などの定性的なデータを補強する。 |
結論
カスタマージャーニーマップを作成するための調査活動の計画を始める際には、以下の手順をガイドにするとよい:
- お金をかけて外部に顧客調査を依頼する前に、自分たちの組織を見回してみよう。役に立ちそうな既存のデータはないだろうか。調査計画の具体化に役立つデータは少なくともあるのではないか。
- ユーザーと直接やり取りができたり、直に彼らを観察できる、定性的な調査手法をいくつか選んで組み合わせた調査計画を立てよう。ユーザーインタビューやフィールド調査、日記調査は、どれもそうした目的にふさわしい有用な手法だ。
- マップでは、アナリティクス、顧客満足度やロイヤルティのスコア、アンケートなどのソースから得られる定量データを使って、定性調査の結果を補強し、補足しよう。
- ボーナスヒント:調査の全期間にわたって、常に主要なステークホルダーを調査プロセスに巻き込み、新しい知見や展開について知ってもらうようにしよう。こうしたプロセスに参加すれば、その活動自体に賛同するようになるものだ。その結果、思い込みで作った仮説にステークホルダーが執着しなくなる!
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