イノベーション普及のBass曲線
※ウェブの成長に関するコラムへの補足記事
これまでの数多くのイノベーションで得た経験から、新しい方式や概念が市場に広まる様子は、Bass公式で表現できることが証明されている。
このモデルには変数が3つある。
- m = 市場潜在力:最終的にその製品を利用すると思われる全人口の数
- p = 外的影響係数:まだその製品を使っていない人が、マスメディアやその他の外的要素に影響されて利用を開始する見込み
- q = 内的影響係数:まだその製品を使っていない人が、すでにその製品を使っている人からの「口コミ」やその他の影響を受けて利用を開始する見込み
標準的なBass曲線(pとqの平均値を、順に0.03、0.38とした時)は、下記のようになる。
ハイパーテキストは、標準Bass曲線と少し異なった広まり方になりそうだ。第一に、ハイパーテキスト利用の市場は、最低性能を満たしたコンピュータ(通常、最低でもグラフィカルユーザインターフェイスを備えたもの;WWWの利用には、さらにインターネット接続も必要)の保有者数に大きく影響されること。第二に、他のハイパーテキストユーザからの影響が、当然ながらリニアではないことが挙げられる。それどころか、実際にはハイパーテキストの利用が、いわゆる非均一的な影響モデルになっている可能性もある。この公式は下記のようなものだ。
このモデルは基本的なBassモデルと同じものだが、他の追随者からの影響がその総数に正比例しないという点が違っている。ハイパーテキスト一般、特にウェブでは、利用可能なものの数が多いと、その影響力はリニアスケールを上回る速度で拡大することがあるようだ。よって、ハイパーテキストの普及が非均一的公式にもとづいていることは、ほぼ間違いない。デルタ値が1よりかなり大きくなるのである。アナリストの中には、デルタ値が2になると考える人もいる。ハイパーテキストネットワークに可能な接続の数は、ノードの数の2乗に比例して増加するからである。だが現実には、こういった接続の多くは役に立たず、結果的に情報洪水を招いているだけだ。よって、デルタ値を約1.5とみるのが無理のないところだろう。
こうして前提を見直した結果、工業化社会におけるハイパーテキスト利用の普及は、このような形になる。
上記の図では、ハイパーテキスト利用の0年を1986年に設定してある。初の商用ハイパーテキストプログラム(Guide)の出荷された年が同年だからである。1989年以前のハイパーテキスト利用は、研究室やその他の実験的環境に限定されたものだった。
現在(1995年)、工業化社会における人口の約1パーセントがWWWを、約4~5パーセントがその他のハイパーテキストシステム(主にオンラインマニュアルやCD-ROM百科事典)を利用している。
実際の状況は、まず間違いなく、上記の曲線で示した予想とは違った形で進行するだろう。それどころか、私は、WWWの普及はこの曲線よりもずっと急速で、2000年には恐らく5億人に達すると予想している。確実にいえることがひとつある。ウェブはまだまだこれからだ!
参考文献
Bass曲線について、くわしくは以下を参照のこと:
Mahajan, V., Muller, E., and Bass, F.M.
New product diffusion models in marketing:
A review and directions for research.
Journal of Marketing 54, 1
(January 1990), 1-26.