デザイン思考は強いチームを築く

デザイン思考はイノベーションを促進するだけではなく、共通のボキャブラリー、生成物、信頼にもとづいたチーム文化を生み出すことで、チームを強くしてくれるのだ。

どんな企業も1人の能力だけで成功することは不可能だ。成功している職場のベースになっているのはチームなのである。しかし、チームでの作業にはかなり大きなコストがかかる。共通の知識や前提、ボキャブラリー、文化といった、メンバー同士の共通の土台を築くのに時間を費やさなければならないからである。強いチームというのは共通の土台がすでにできあがっているので、コラボレーションによってもたらされるメリットがコミュニケーションのオーバーヘッドを上回る。その結果、こうしたチームは効率的であるだけでなく、質の高い有意義なアウトプットを生み出すことができるようになる。

では、どうすればチーム内の共通の土台づくりのプロセスを企業がサポートできるのか。創造的な問題解決型アプローチであるデザイン思考は、革新的なソリューションを生み出すだけでなく、共通の土台づくりにも役に立つ。

というのも、デザイン思考はチームの共通の土台になる3つの重要な要素を生み出すものだからである:

  • 共通のボキャブラリー
  • 目に見える生成物
  • 信頼にもとづいたチーム文化

共通のボキャブラリー

効率的なコミュニケーションができない、というのが、チーム作りで生じる多数の課題の本質である。同じコンセプトやアイデアでも、人によって解釈が違うということがよくあるからだ。メンバーのもつ背景やエクスペリエンスがさまざまであることがその理由といえる。たとえば、チームメンバーの専門分野がいろいろだと、持ち込まれる業界用語や慣習、期待が対立することもありうる。そして、基本的な概念の解釈が逆だと、チームの効率は阻害されるし、不必要な敵対意識や不満が生じてしまうのである。

端的にいうと、チームというのは、うまくコミュニケーションがとれる速さでしか進めない。しかし、デザイン思考では皆でコラボレーションをするので、全メンバーがワークショップ形式のアプローチの最初から参加することになり、そうした衝突が避けられる。チーム全体で重要な課題を一緒にこなしていくことで、ボキャブラリーが有機的に共有され、共通の土台が構築されていくからだ。そして、チームでボキャブラリーを共有できるので、 “what”ではなく、“how”についての議論に集中できるようになる。

図
上:「“what”についての議論」対「“how”の解明」
左:「我々が作っていたのは椅子だと思うのだが」 右:「その椅子をどう作ったらいいだろう」

こういう共有されるボキャブラリーには、言葉やコンセプト、アイデアがあり、これらはチーム共通のエクスペリエンスやプロセスのことを指している。たとえば、デザイン思考の共感の段階では、ユーザーがある具体的な目標を達成しようとしているときに、何を考え、どうするかを、チームは次のように理解しようとする。「Samは我々の新規ユーザーであるが、自分が無力だと感じている。なぜならば、ユーザー登録用の質問のどれにまだ答えていないかがわからないからだ」。あるいは「Samは何度も何度もページを上下にスクロールしている」など。そして、チーム全体がこのユーザーを知るにつれ、このユーザーがどういう人で、彼あるいは彼女が必要としているものが何かということについての理解が共有されて、はっきりとしたものになっていく。

この後、そのプロセス中、「Sam」はユーザー登録をするのに助けが必要な新規ユーザーを示すショートカットとして利用される。このステージでの「Sam」がまだ、ペルソナではなく、ある特定のシナリオ内の1ユーザーにすぎないことに注意してほしい。ペルソナとはさまざまなシナリオに適用可能なユーザーについての説明のことだからだ。しかしながら、知識や知見、ユーザーデータがさらに蓄積されていくにつれ、Samがペルソナに進化する可能性はある。この場合は、チームが学習曲線に影響を受けることはほとんどないだろう。メンバーはSamについてすでによく知っているからである。

メタファーもまた、ボキャブラリーの共有を進めるのに役に立つ。特にチームがビジョンを特定していくときにはそうだ。抽象的なアイデアや目標は、メタファーによってシンプルで明確なアナロジー(比喩)にすれば伝達が可能になるからである。また、メタファーのおかげで、機能群やソリューションを正確に規定しなくても、チームが共通の目標を持てるようになる。サイトの新機能をユーザーが学習しやすくする方法に関して、次のようにチームでアイデアを創造しているところを想像してみるとよい。「指導助手が学生の手助けをするように、我々もユーザーの手助けをしたい。つまり、すぐに理解できる人の目にはふれないが、そこにいて、悪戦苦闘している人にステップごとに案内をしてあげたい」。

このメタファーを製品にどのように正確に具現化するかは、チーム内の特定の役割の人が担当することになるだろう。しかし、ここでのエクスペリエンスがどのように感じられるべきかについては、販売からマネージメントまでのチーム全体ですぐに合意が可能だ。こういう共通の理解は、チームがプロジェクトを進めるとき、大きな強みになる。

目に見える生成物

デザイン思考の重要な原則が、「言うのではなく、見せる」(show, don’t tell)だ。デザイン思考プロセスを通して、共感マップ、カスタマージャーニーマップ、ストーリーボード、ワイヤーフレームなどの目で見てわかる生成物をチームは作成していく。

図
上から:共感マップ、カスタマージャーニーマップ、ワイヤーフレーム&ストーリーボード、優先順位マトリックス

デザイン思考の実践中、作成される生成物は、以下のようなさまざまなメリットをチームにもたらす:

  • 複雑なアイデアの視覚化の促進
    視覚化は文化や言葉を超越するツールである。画像を利用することで、認識のずれというリスクは減る。目で見てわかる基準を皆がもつことになるからである。このメリットが特に得られるのは、コンセプトが抽象的で、直感的にわかりにくいような場合だ。ストーリーやワイヤーフレーム、プロトタイプ、動画、また、再現度の低いモックアップであっても、言葉だけの場合に比べて、うまくアイデアが伝わりやすくなるからである。
  • チームの共通ボキャブラリーのための天然な辞書の提供
    生成物はそのチームの組織としての記憶をあらわしたものなので、チームのためのずっと変わらない基準点として機能する。つまり、生成物とはチームのボキャブラリーを自然に具現化したものなので、あいまいな点や誤解をさらに明確にすることを可能にするのである。こうした共通のビジュアルに立ち返って、参照することで、メンバーはその時点までにチームで作り上げてきた共通の土台から外れないですむ。
  • グループとしての一体感の構築
    メンバーが参照可能な、目に見える成果物があれば、グループの結びつきが強まるし、自分たちはうまくいっていると思えるようになるので、より熱心にコラボレーションに取り組める。チームの取り組みの一端として生み出された生成物は、一つ一つがチームの稼いだ得点としてカウントされ、チームの力を高めてくれる。

信頼にもとづいたチーム文化

デザイン思考は以下の点から本質的に民主的なものである:

  • 分野や階層を横断したメンバーの参加が活動のベースになっていること
  • 各参加者の貢献度を同じであると考え、すべてのアイデアを平等に重視すること
  • 多岐にわたる個性的な意見をサポートすること

企業の階層というのは、誰のアイデアや意見に従うかを決める役割を伝統的に担ってきた。「hippoデザイン手法」(もっとも報酬が高い人の意見(highest-paid person’s opinion=hippo)にもとづいて、意思決定をするというやり方)により、声の一番大きい人、つまり最も高い地位の人の意見が通る企業はあまりにも多い。しかし、デザイン思考プロセスでは、チームメンバーは付箋紙に自分のアイデアを書くことになり、誰かの意見のほうがえらいとか、強いというようなことはない。アイデアは壁に貼られるので、アイデアの重要度は同じとみなされるし、無記名でもある。内向的な人も外交的な人も、上司も部下も、この手法では等しく大切に扱われるのである。

デザイン思考プロセスでは、アイデアの評価も民主的におこなわれる。まず、チームメンバーは説得されることも、ほかの人の意見に影響されることもないまま、ほかのメンバーの提案を黙って読む。その次に、参加者は自分が強く共感するアイデアの側にシールを貼る。ちなみに、一人一人のチームメンバーが投票できるシールの数は同じである。そこで、この時点から、壁は皆が見ることのできるヒートマップとなる。そして、最も多い投票を受けたソリューションが次の段階に進む。つまり、ここでの意思決定プロセスは誰でも見られるようになっていて、多数決で決められ、誰か1人の個人の意見が基準になるのではない。また、そういう壁も貴重な、目に見える生成物といえる。それはチームのこれまでの経緯やプロセスを記録したものであり、ちらっと見るだけで誰でも、チーム全体で合意している内容を理解することが可能だからである。

図
上:「我々がやることはこれだ!」対「民主的な意思決定」
右:アイデアの壁

全員が発言権をもつ民主的な意思決定プロセスによって、信頼ベースの積極的なチーム文化が構築されるので、活動に参加して、自分の意見を聞いてもらおう、という気にメンバーもなる。また、このプロセスによって、うまくいく、という期待が持てるようになり、健全なコラボレーションの習慣が身にき、将来のさらに良いコミュニケーションの実現にもつながる。

結論

デザイン思考プロセスはチームのメンバーを団結させるので、皆で明確な共通の目標に集中できるようになり、意見が合わないまま、永遠に続くかと思われるような時間を無駄遣いせずにすむ。また、デザイン思考中、生み出される協力的な文化は、従業員にやる気を起こさせ、仕事に対する満足度や定着率を上げるので、有意義な成果がさらに挙がりやすくもなる。

はっきり言っておきたいのだが、デザイン思考の主な目的はイノベーションと創造を促進することであって、強力なチームを構築することではない。しかし、デザイン思考の忘れられがちなメリットの1つが、コラボレーションに熱心に取り組む、強力で優秀なチームの構築に必要な環境作りを手助けすることなのである。

デザイン思考についてもっと知りたければ、1日間のコースGenerating Big Ideas from Needs Statementsがある。

添付

Design Thinking Builds Strong Teams (PDF)

公開: 2016年12月19日 (原文:2016年9月18日)
著者: Sarah Gibbons
原文:Design Thinking Builds Strong Teams

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