リモートでのUXの作業:ガイドラインとリソース

一般に、UXセッションは対面で行うのが理想だ。とはいえ、予算や移動の制約により、UXに関する作業をリモートで行わざるを得ないこともある。この記事では、リモートでのユーザー参加型調査、UXワークショップやプレゼンテーション、およびコラボレーションに関するガイドラインを提示する。

ユーザー参加型調査の実施やUX作業のプレゼンテーション、他のチームメンバーや利害関係者とのコラボレーションは、対面でやり取りしたほうがいろいろなメリットがあることがわかっている。調査の参加者にとっては、対面のほうがリモートよりも良い関係を築いて、信頼関係を構築しやすい。また、プレゼンテーションやコラボレーションの出席者も、対面のほうがより長い時間、話に耳を傾けてくれて、協力的になる傾向がある。

しかしながら、UXに関する活動は、常に対面で実施できるとは限らない。ときには、予算や時間の制約や移動に関する制限、その他の不測の事態により、対面でのセッションが不可能になったり、予算的に難しくなったり、あるいは安全ではないことさえある。こうした場合、リモートでのセッションなら、知見やアイデアの流れを止めないという非常に大きな価値を提供することができる。

さらに、リモートでのUXセッションには、実施される状況に関係なく、対面セッションでは得られない以下のような多くの利点がある:

  • プロジェクト資金の柔軟性:リモートセッションをおこなうことで旅費が削減される。旅費が削減されることにより、調査参加者の増員、追加調査の実施、より深い分析の提供など、他の価値ある活動のための資金を確保できる。
  • 包括性(:多様なユーザーに参加してもらい、意見や提案を聞き入れること)の向上:リモートセッションでは場所や空間はもはや制約にはならない。ユーザー参加型調査の場合、このことはその場所にいては会うことが不可能な、多様な参加者のグループとやり取りができるということを意味する。また、UXのワークショップやプレゼンテーションの場合は、勤務地の異なる同僚も出席しやすいし、一般的にはより多くの人が参加できるということになる。(だからといって、「全員が」出席すべきということではない。引き続き、出席は関連する役割の人だけに限定しよう)。
  • 参加者の利便性:参加者は、オフィスや自宅を離れる必要がないリモートセッションに前向きで、それなら参加できると考えているかもしれない。移動の時間(それが調査施設までの数時間の運転時間であろうが、別の都市のワークショップに参加するための数日の出張であろうが)を節約できるし、普段の空間にいながらにして参加することが可能だからだ。特に、モデレーターのいないリモート調査やリモートでの非同期型のアイデア出しの場合、参加者は自分のスケジュールでタスクを完了することができる。

こうしたメリットから考えて、リモートでのUX作業はプロジェクトのさまざまな課題に対して有用なソリューションとなりうる。この記事では、よくおこなわれる以下の3種類のUX活動をデジタル領域に移行するためのガイドラインとリソースを提供する:

  1. ユーザー参加型調査の実施
  2. ファシリテーション(:会議などの進行)とプレゼンテーション
  3. コラボレーションとブレインストーミング

リモートでのユーザー参加型調査

一般には、可能な限り、対面でユーザビリティテストユーザーインタビューをおこなうことをお勧めする。単純に言って、そのほうが参加者のボディランゲージをとらえて読み取りやすいし、どのタイミングで会話を中断して、確認したり、フォローアップの質問をするべきかということもわかりやすいからだ。ただし、リモートであってもテストをおこなうほうが、まったくテストをおこなわないよりは望ましいし、ユーザー参加型調査をリモートでおこなえば、限られた時間と予算の中ですばやく知見を得ることが可能である。

リモートでのユーザー参加型調査のためのヒント

  • そのテクノロジーを使う練習をしよう:利用するツールに慣れている場合でも、同僚や友人と予行練習をするとよい。特にモデレーターのいないリモートセッションでは、サインインとタスクの完了に関する指示はわかりやすくなければならない。少数のユーザーによるパイロットテストをまず計画して、調査を開始する前に必要に応じてテクノロジーなどの要素を調整できるようにしよう。
  • リクルートするユーザーを増やそう:モデレーターのいないリモート調査では、ファイアウォールのようなユーザー側の解決不可能な予期しない技術的な問題のために、リモートのインタビューやユーザビリティテストの一部が無意味になってしまっても、手の打ちようがない。事前のセーフティネットとして、必要だと思う人数よりも多く、ユーザーをリクルートしておこう。
  • 技術的な問題に対する対策をあらかじめ立てておこう:技術的なトラブルというのは必ずあるものだ。技術的な問題は起こるものと考えて、問題が発生しても慌てないようにしよう。ユーザーインタビュー用のWebリンクに加えて、電話でのダイヤルインなどの代替策を用意しておくとよい。そして、参加者がセッションに参加するために何もダウンロードする必要のないプラットフォームをできるだけ利用しよう。
  • 説明書を提供しよう:そのテクノロジツールが複雑なものである場合や、そうしたツールの設定をユーザーがおこない、長期間にわたって利用する場合は、ユーザーに利用してもらう機能に特化した説明書を作成するとよい。たとえば、Evernoteの共有ノートブックを利用する我々のデジタル日記調査では、参加者にこのプラットフォームの設定方法や使い方についての詳細な説明書を提供している。
  • 同意書を修正しよう:リモートセッションの実施中に参加者の顔や音声、画面の録画や録音をする場合は、同意書を更新して、こうした項目のそれぞれに対して明確な許可を求めるようにしよう。セッションの途中から入ってもらうリサーチャーがいる場合や、セッション後の分析中にチームで録音や録画のデータを共有する場合は、こうした項目についても概要を説明し、同意を求めなければならない。

リモートでのユーザー参加型調査のためのツール

ツールは調査のニーズに合うものを検討しよう。そして、いつものように、調査の目標に適した調査手法を選択しよう。リモート調査が何も調査をしないよりもよいのは間違いないが、正しくない知見が役に立つような状況などないからだ。

  • モデレーターのいないリモートセッション:Lookbackやdscout、Userbrainなどのツールは、録画した動画やユーザーの思考発話から定性的な知見を得るのに役に立つ。KonceptAppやMazeなどのツールは、費やした時間や成功率などの定量的な指標を取得してくれる。また、UserZoomやUserTesting のような多くのプラットフォームは定性と定量の両方の機能をもつ。(必要に応じて、これらのツールがモバイルアプリケーションに対して適切に機能するかどうかのチェックをお忘れなく)。
  • モデレーターのいるリモートセッション:画面の共有や通話の録音、事前に会議を設定する機能を備えたビデオ会議プラットフォームであれば、ほとんどのチームのニーズを満たすことができるだろう。ZoomやGoToMeeting、Google Hangouts Meetがよく利用されている。(会議に参加するのに参加者が何もダウンロードする必要のないプラットフォームを確実に選ぶようにしよう)。

リモートでのユーザー参加型調査に関するNN/gの記事

いつ、どのようにモデレーターあり、またはなしのリモートユーザビリティテストを実施するかに関する記事が過去に書かれている。また、リモートユーザビリティテスト用のツールを選択するためのガイドをまとめたものもある。

リモートでのファシリテーションとプレゼンテーション

リモートでのファシリテーションやプレゼンテーションは特に困難を感じることがある。対面のワークショップのファシリテーションやプレゼンテーションの課題のほとんどは、リモートではさらに悪化するだけだ。しかし、適切なツールを選択し、前もってさらにしっかりと準備をしておけば、そうした課題の多くは軽減することが可能である。

リモートでのファシリテーションとプレゼンテーションのためのヒント

  • 自分のカメラもオンにしよう:顔を見せることは、親近感を醸し出して、参加者と信頼関係を確立する助けになるし、あなたが実在する人間で、単なる音声ではないということを伝えることにもなる。通じ合っているというこうした感覚は、UXやデザイン上の決定について賛同を求めているときやそうした決定に関してグループの意見を一致させようとしているときには非常に重要である。
  • 一体感を築こう:特に参加者がお互いを知らない場合は、デジタルのアイスブレイク(:会議などの開始時に参加者の緊張をほぐす活動のこと)を使って人間関係を築くための時間を、あらかじめスケジュールに入れておこう。バーチャルでUXのワークショップを実施する場合は、参加者全員にお互いに名前を入れて返答し合うように促したり、参加者を小グループに分けたり、投票やチャットの機能を活用したりして、セッションを通じてお互いに積極的に関わりをもてるようにしよう。
  • 基本的なルールを作成しよう:セッションの最初に、デジタル会議では避けられないコミュニケーションの課題を軽減するための、基本的なルールを伝えよう。このルールで参加者に求めることは、発言する前に自分の名前を言うこと、他メンバーの発言中に割り込まないこと、セッション中に他のタスクをやらないことなどである。
  • 宿題を出そう:セッションの前にリモート用のテクノロジーを使う練習になる、ちょっとした宿題を参加者に与えよう。たとえば、デザインワークショップでバーチャルホワイトボードのアプリケーションを使う予定がある場合は、ワークショップの前にそのアプリケーションを使って自己紹介のための資料を作成してもらい、ワークショップの最初にアイスブレイクとしてそれを共有してもらうとよい。
  • リモートに適応した構成にしよう:既存のワークショップ形式のプレゼンテーションの進め方をそのまま採用し、それを単にリモートセッションに再利用するという衝動に負けないようにしよう。ワークショップでの活動やスライド、コンテンツをどのようにバーチャル形式に移行するかについては慎重に考える必要がある。バーチャル形式への移行に関して考えなければいけないことには、プレゼンテーションやワークショップのスケジュールを変更して、技術関連の不自由さに対応したり、参加者同士が関係を築いて交流するための活動を追加したりすることも含まれる。

リモートでのファシリテーションとプレゼンテーションのためのツール

  • UX作業のプレゼンテーション:ZoomやGoToMeeting、Google Hangouts Meetは、信頼性の高いビデオ会議プラットフォームの一例である。プラットフォームを選択する際には、具体的にどの機能(たとえば、ブレイクアウトルーム(:分科会的に小グループで話し合いができる機能)、自動記録、ギャラリービューなど)が必要かを検討し、無料版の制限事項にも注意しよう。(たとえば、Zoomの無料版は、出席者が3人以上いる会議には40分までという制限があるが、おすすめの最新のデザイン案のプレゼンテーションの最中に、こんなことに初めて気づきたくはないだろう!)。
  • 生成的なワークショップ活動:ワークショップの目標が大量のアイデアなどの成果を生み出すことである場合は、リストやバーチャルホワイトボードにすばやく項目を追加できるツールを利用するとよい。Google DrawやMicrosoft Visio、Sketch、MURAL、Miroなどが、このような場合には有効だろう。
  • 評価的なワークショップ活動:アイデアなどの成果をグループ化したり、優先順位を付けたりすることが目標の場合は、MURALやMiroなどの優先順位マトリックスが組み込まれたプラットフォームを検討するといいだろう。あるいは、SurveyMonkeyやCrowdSignalなどのアンケートツールや、Poll Everywhereのような投票結果をスライドに直接挿入できるライブ投票アプリを利用してもよい。
図
Zoomのギャラリービューを利用した、NN/gの同僚間のリモート会議。ギャラリービューにすると、ユーザーはバーチャル会議内の参加者全員を同時に見ることができる。これは少人数のグループならボディランゲージを読み取るのに便利だ。(この画像は、COVID-19(新型コロナウィルス感染症)による影響を受けて、ライブでおこなっているカンファレンスをどのようにバーチャルのイベントに変えるべきかに関するリモート会議のときのものである。そのため、皆、浮かない顔つきをしているが、会議の結果は満足のいくものだった!)

リモートでのファシリテーションとプレゼンテーションに関するNN/gの記事

リモートUXワークショップのツール選択やリモートジャーニーマッピングのワークショップ、UXの作業をリモートでプレゼンテーションするときの全体的なヒントについては、これまでに書かれた記事を参照してほしい:

リモートでのコラボレーションとブレインストーミング

デジタルツールの利用は、メンバーが異なる場所やタイムゾーンに分散しているチームが共同作業やブレインストーミングをおこなう方法として有効だ。さらに、リモートでのアイデア出しは、グループでアイデアを生み出すときの新たな選択肢に実際になりうるので、同じ物理空間にいることができないチームにも有用な手法である。

リモートでのコラボレーションとブレインストーミングのためのヒント

  • 同期型と非同期型の両方の方法を検討してみよう:非同期型の活動と同期型の活動を併用することで、バーチャル会議の時間を短縮できることもある。たとえば、事前に構成しておいたTrelloボードやGoogleスプレッドシートなどの共有ドキュメントに、各参加者に一定の期間にわたってアイデアを投稿してもらい、その後、リモートで会議をおこなって、生成されたアイデアについてランク付けしたり、話し合ったりすればよい。
  • 皆が参加できるようにしよう:バーチャル会議で、オープンで自由な議論をするのは容易ではない。画面の影に隠れて存在が消えてしまう参加者もいれば、会話を独占してしまう参加者がいたりすることもあるからだ。議論の途中にセッションのメンバー全員が参加する必要がある活動が入る構成になるにはどうしたらよいかを考えるとよい(たとえば、参加者にアイデア出しのノルマを割り当てるなど)。
  • スケジュールを尊重しよう:チームメンバーが地理的に分散している場合は、タイムゾーンとスケジュールを尊重する必要がある。タイムゾーンを自動的にパーソナライズしてくれて、各メンバーが自分にとって都合の良い時間帯を指定できるDoodleなどのイベントスケジュール投票ツールを利用すれば、皆に都合の良い時間帯を見つけられ、会議運営上の頭痛の種の一部を取り除くことができる。
  • シンプルなツールを使おう:たいていの場合、リモートでコラボレーションをするのに新しいものや複雑なものは必要ない。皆が使い慣れているチーム既存のツールキット内のツールを活用できないかどうかを創造的に考えてみるとよい。たとえば、親和図法なら、Googleスプレッドシートの列を利用することにすれば、新しいバーチャルホワイトボードツールについて学ぶよりはチームのメンバーも構えずにすむ。

リモートでのコラボレーションとブレインストーミングのためのツール

  • 同期型のリモートコラボレーション:共有バーチャル空間を求めているチームには膨大な選択肢がある。共有のGoogleドキュメント(スプレッドシート、スライド、図形描画など)も、MURALやMiroなどのバーチャルホワイトボードツール同様、バーチャルな「部屋」として機能する。
  • 非同期型のリモートコラボレーション:ある程度の構造や編成を提供しながら、チームメンバーがアイデアを思いついたらそれを自由に投稿できる、専用のSlackチャンネルやTrelloボードなどのツールを活用しよう。

リモートでのコラボレーションとブレインストーミングに関するNN/gの記事

これまでに、リモートでの同期型と非同期型両方のアイデア出しのガイドラインと、100%リモート企業としての我々自身のコラボレーションの経験に関する記事を公開している:

リモートUX作業の一般的なガイドライン

NN/gは100%リモートの会社であるため、UXに関するあらゆるバーチャルな作業にデジタルツールを頻繁に利用している。以下はリモートでのUX活動を計画し、実施するための我が社独自の指針の一部である:

  • 練習あるのみ!:練習のことについてはまだ言っていなかったと思う。調査からの提言をプレゼンテーションしたり、リモートでのブレインストーミングセッションを進行したりするのにログインをする前に、テクノロジーに慣れておこう。利用することになるツールを熟知している場合でも、チームメンバーや友人との練習セッションを設けて、利用する予定の機能についてのリハーサルをしておくとよい。NN/gでは、同僚と一緒に練習用のセッションにサインアップして、Zoomのビデオブレイクアウトルームなどの新しいデジタルツールの機能に慣れるようにしている。
  • ツールは慎重に検討しよう:MURALやMiroは、マップ制作や一般的なコラボレーションのための優れたツールで、我々デザイナーやリサーチャーにはすでにお馴染みだが、他のメンバーはこうしたツールに気後れしたり、「デザインチームのツール」と受け取る可能性がある。創造的に考えよう。たとえば、カスタマージャーニーマップサービスブループリントのコンテンツは、共有のGoogleスプレッドシートのテンプレートに取り込むことができる。ポストアップ(:観察メモ、アイデアなどを付箋にどんどん書いてホワイトボードなどに貼りだしていく手法)や親和図法のような付箋を多用する活動は、stickies.ioやGoogle図形描画などの無料のデジタルツールでおこなうことが可能である。
  • シンプルさを保とう:ずっと物理的におこなってきた活動をデジタル形式に移行する場合、ツールは少数かつ使い慣れているものでなければならない。参加者が複数のツールを切り替えてその間を行ったり来たりしなければならないようなことを計画するのはやめよう。(これだけで管理するにはすでに十分煩雑だ)。さらに、利用するテクノロジーは、いずれにせよ利用しないような大量の機能のあるものは避けるようにし、テクノロジー関連の頭痛の種の元を断とう。
  • 皆が知っているツールを引き続き使おう:ツールを選択する際の一般的なアドバイスとは、常に、チームの皆がすでに知っているツールを利用し、新しいツールを利用する際に避けられない混乱した状態によって時間を無駄にしないようにしよう、というものだ。ただし、このルールが最も重要になるのは、緊急を要する、あるいは超重要なプロジェクトに取り組む場合である。チームのメンバーがあまりストレスを感じていないときにたまに、次々に登場するさまざまな新ツールを試してみるのもいいだろう。
  • 助けを求めよう:特に、複雑なリモートワークショップの進行をしたり、初めてリモートでUX調査のセッションを実施する場合は、技術的な支援を要請しよう。セッション中、メンバーの1人にテクニカルアシスタントとして務めてもらえば、テクノロジーに関する質問に対処してもらったり、デジタルでの活動で改善すべき箇所や方法についての所見が得られたり、ファシリテーターとのふりかえりにも参加してもらって、ワークショップやセッションの成果を経時的に改善し続けることができるだろう。

結論

UX活動をリモートでおこなおうとするのは野心的で骨の折れる試みのように感じるかもしれない。しかし、ツールを慎重に選択し、不測の事態に備えて事前に対策を講じておけば、見落としや問題が起こる可能性は軽減する。また、費用の削減や包括性と利便性の向上、豊富にあるプラットフォームの選択肢など、リモートのUX作業の利点がそうした付加的な課題の欠点を補って余りあることも多い。リモートでの作業がチームに不可欠でない場合でも、どんなときにリモートでのユーザー参加型調査やバーチャルUXワークショップ、リモートでのコラボレーションやブレインストーミングを実施すると、プロジェクトやワークフローに付加価値をもたらすことができるのかということを考えてみるのもいいだろう。