サービスブループリント:定義

サービスブループリントとは、ビジネスでのユーザーエクスペリエンスの提供方法を最適化するために、組織内のプロセスを視覚化するものである。

サービスデザインとは、(1)直接的には従業員のエクスペリエンスを、そして、(2)間接的には顧客のエクスペリエンスを改善するために、ビジネスのリソース(人、小道具、プロセス)を計画し、組織化する活動である。サービスブループリントは、こうしたサービスデザインプロセスで使われる主要なマッピングツールである。

サービスブループリントとは何か

定義:サービスブループリントとは、ある特定のカスタマージャーニーのタッチポイントに直接関係している、人、小道具(物理的またデジタルな証拠)、プロセス、というサービス要素間の関係を視覚化したダイアグラムのことである。

サービスブループリントは、カスタマージャーニーマップの第2部と考えるとよい。カスタマージャーニーマップ同様、ブループリントはサービス関連の提供物が多岐にわたる複雑なシナリオで役に立つ。ブループリントは、オムニチャネルや、タッチポイントが複数ある、あるいはクロスファンクショナルな努力が必要とされるエクスペリエンスのための理想的なアプローチなのである。

1つのサービスブループリントは、特定のカスタマージャーニーとそのカスタマージャーニーに関連する特定のユーザーゴールに対応する。とはいえ、こうしたカスタマージャーニーの範囲はさまざまだ。したがって、同じサービスでも、提供するシナリオが複数あれば、ブループリントが複数になることもある。たとえば、レストランビジネスなら、持ち帰りとレストランの中で食事をする場合では、注文というタスクのサービスブループリントは違ってくるだろう。

サービスブループリントは、冗長さを減らし、従業員のエクスペリエンスを改善して、縦割り型のプロセスを一本化するというビジネスゴールと常に整合が取れているべきなのである。

サービスブループリントの利点

サービスブループリントによって、組織は自らのサービスや、そのサービスを可能にする基礎となるリソースとプロセスを(ユーザーに見えるものも見えないものも)包括的に理解できる。そして、(より一般的なユーザビリティの観点と個々のタッチポイントのデザインとともに)こうした点についても広く理解しようと力を入れることで、戦略的な利点がビジネスにもたらされるだろう。

ブループリントは、ビジネスの弱点を見出す手助けをしてくれる宝の地図である。貧弱なユーザーエクスペリエンスは、組織内の体制が不十分なところ、すなわち、エコシステムの結びつきが弱いところが原因になっていることが多い。ユーザーインタフェースでうまくいっていないところ(悪いデザインや壊れているボタンなど)というのはすぐにわかるが、(破損したデータや長い待機時間のような)システムの課題に関する根本的な原因の究明はそれよりもずっと難しいものだ。しかし、ブループリントにすることで、全体像が明らかになり、依存関係マップが得られるので、そうした課題の原因である、ビジネスでの結びつきの弱い部分を発見できるようになるのである。

このように、ブループリントは最適化の機会を明らかにするのに役立つ。ブループリントで関係を視覚化することで、改善できそうな点や冗長さを解消する方法が発見できるからだ。たとえば、カスタマージャーニーの早い段階で収集した情報は、ひょっとすると、後からバックステージで再利用できるかもしれない。このやり方には次のような3つのプラスの効果がある。(1)顧客は2回目のときに自分のことを認識されると大いに満足する。自分のためのサービスだと感じることができるし、時間と労力を節約できるからである。(2)情報を再度集めるために従業員の時間と労力を使わずにすむ。(3)同じ質問を2回しなければ、データが矛盾するというリスクもない。

ブループリントは複雑なサービスを連携させる際に最も有益だ。なぜならば、ブループリントは複数の部門にまたがる取り組みの橋渡しをするものだからだ。部門の成功というのは、その部門に属するタッチポイントによって判断されることが多い。しかし、ユーザーは1回のカスタマージャーニーをとおして多数のタッチポイントに遭遇するし、そのタッチポイントがどこの部門に属するかは理解していない(あるいは気にしていない)。また、部門が自分たちのゴールを実現できていても、組織全体としての目標は達成できていない可能性もある。ブループリントにすると、カスタマージャーニー全体をとおして、企業は組織の中で何が起こっているかを否応なしに捉えられるようになる。すなわち、部門単独ではわからない可能性のある、重複や依存関係に対する知見が得られるのである。

サービスブループリントの例

サービスブループリントの主な要素

サービスブループリントの表示形式はさまざまで、中にはかなり図式化されたものもある。だが、表示形式や範囲にかかわらず、サービスブループリントはすべて、以下の主要な要素によって構成されている:

顧客のアクション(customer actions)

ある特定のゴールを達成するために、そのサービスでやりとりする間に顧客がおこなうステップや選択、やりとり、活動のこと。顧客のアクションは、調査やカスタマージャーニーマップから導き出される。

上記の家電量販店向けのブループリントでの顧客アクションは、Webサイトの訪問、店舗の訪問、電化製品を見て回る、オプションや機能について店員と話し合う、電化製品の購入、配達日の通知を得る、最終的に電化製品を受け取る、である。

フロントステージのアクション(frontstage actions)

顧客に直接見えるところで発生するアクションのこと。こうしたアクションには、人間対人間のアクションと、人間対コンピュータのアクションがある。人間対人間のアクションとは、顧客窓口担当の従業員(顧客とやりとりする担当者)がおこなうステップや活動のことをいう。人間対コンピュータのアクションとは、顧客がセルフサービステクノロジー(たとえば、モバイルアプリやATMなど)とやりとりするときに実行されるアクションのことである。

家電量販店の事例では、フロントステージのアクションは、次のように顧客のアクションに直接関係したものになっている:店員が顧客を出迎える、Webサイトでチャットアシスタントが顧客にどの製品にどの機能があるかを伝える、提携輸送業者が顧客に連絡して配送日を決める。

なお、顧客のタッチポイントのすべてに対して、フロントステージのアクションが常に起こるとは限らないことには注意が必要だ。上のブループリントの事例での電化製品の配達時のように、フロントステージの出演者に遭遇しないまま、顧客がサービスと直接やりとりするということもありうるからだ。つまり、顧客が(従業員やテクノロジーをとおして)サービスでやりとりするたびに、真実の瞬間(訳注:顧客やユーザーが、ブランド・製品・サービスとやりとりして、それらに対する印象を形成または変更する瞬間)が発生するということだ。そして、こうした瞬間に、顧客は品質を判断して、将来、購入するかどうかを決定しているのである。

バックステージのアクション(backstage actions)

舞台上の出来事をサポートするために舞台裏で発生するステップや活動のこと。こうしたアクションはバックステージの従業員(たとえば、厨房にいるシェフ)や、顧客の目には入らない作業をしているフロントステージの従業員(たとえば、厨房の表示システムに注文を入力するウェイター)によって実行される。

家電量販店の事例では、次のようなバックステージのアクションが数多く発生している:倉庫にいる従業員が在庫数をPOSソフトウェアに入力して更新する、出荷担当の従業員が製品の状態や品質をチェックする、チャットアシスタントがリードタイムを確認するために工場とコンタクトを取る、従業員が企業のWebサイトを運営して新製品が出たら更新する、マーケティングチームが宣伝資料を作成する。

プロセス(processes)

組織内のステップ及び、従業員によるサービスの提供をサポートするやりとりのこと。

この要素には、上記のサポートがおこなわれるために必要なやりとりがすべて入る。家電量販店のプロセスとしては、クレジットカードの照合、価格設定、工場から店舗への製品の配送、品質テストの作成などである。

サービスブループリントでは、主要な要素は境界線によってクラスターに分けられている。その主な境界線とは以下の3本である:

  1. インタラクションの境界線(line of interaction)は、顧客と組織の間の直接のやりとりを表現している。
  2. 可視境界線(line of visibility)は、顧客に見えるサービスすべてと、彼らの目には入らないサービス活動を区別する。フロントステージ(顧客に見える)の内容はすべて、この線より上に現れるが、バックステージ(顧客に見えない)の内容はすべて、この線より下に示される。
  3. 組織内のインタラクションの境界線(line of internal interaction)は、顧客窓口担当の従業員と、顧客やユーザーとのやりとりを直接的にはサポートしない従業員とを区別する。

サービスブループリントの最後の層にあたるのが物的証拠(evidence)だ。これはブループリント内にいる人によってやりとりされる小道具と場所で構成されている。物的証拠はフロントステージとバックステージ両方のプロセスとアクションに関係がある。

家電量販店の事例での物的証拠には、電化製品自体、看板、物理的店舗、Webサイト、チュートリアルビデオ、受け取ったEメールがある。

サービスブループリントの主な要素のダイアグラム

サービスブループリントに含める副次的な要素

ブループリントは、必要に応じて以下の要素を追加することで、いろいろなコンテキストやビジネスゴールに対応が可能である:

矢印

矢印はサービスブループリントの主要な要素だ。要素間の関係、そして、さらに重要な、依存関係をあらわすものだからだ。片矢印は直線的な一方向だけのやりとりを示すが、両矢印は合意の必要性や共依存関係を示している。

時間(time)

時間がサービスの主要変数の場合は、顧客アクションごとの見込み時間をブループリントに表示すべきである。

規制や指針(regulations or policy)

プロセスの完了方法に影響を与える規制や指針(食品の規制やセキュリティポリシーなど)もブループリントに追加してよい。こうした情報によって、最適化の際に変更できることとできないことがわかるようになる。

感情(emotion)

カスタマージャーニーマップをとおしてユーザーの感情が表現されるように、従業員の感情は、ブループリントであらわすことが可能だ。(下の例では、感情は緑の顔と赤い顔によって示されている)。従業員が不満なのはどこか。従業員が満足し、やる気になっているのはどこか。不満点に関する定性データがすでにある場合は(このデータは、従業員を対象にした調査などの方法で得られるだろう)、そうしたデータをブループリントに使うことで、設計プロセスに集中できるようになり、問題が見つけやすくなる。

指標(metrics)

ブループリントにコンテキストを提供できる成功指標は、どんなものでも効果がある。合意することがそのブループリントのゴールである場合はとりわけそうだ。例としては、さまざまなプロセスで費やされる時間やそれに関連する財政的なコストが挙げられる。こうした数字によって、ミスコミュニケーションなどの非効率性のために、ビジネスのどこで時間やお金が無駄になっているかを特定しやすくなるだろう。

サービスブループリントの付加的な要素のダイアグラム

結論

サービスブループリントは、カスタマージャーニーマップの仲間といえる。サービスが企業によってどのように実装され、顧客にどのように利用されているかの全体像の確認に役立つからだ。また、従業員と顧客のそれぞれが直面しているプロセスの間の依存関係を1つの図の中で正確に示すことで、問題を特定し、複雑なやりとりを最適化して、最終的に、組織のためにはコストを削減し、顧客のためにはエクスペリエンスを改善するという役割を果たすものなのである。

さらに詳しくは、我々の1日トレーニングコース「Service Blueprinting」をチェックしてみてほしい。