移動ユーザビリティラボ
ユーザーテストはどこでも実施可能だ。機内持ち込みサイズのバッグに収まる機材で実施される、我々の海外調査の様子を紹介する。
ユーザーテストをどこで実施するかというのはほとんど問題ではない。運が良ければ、あなた方のところには複数のカメラとマジックミラーを備えた豪華なユーザビリティラボがあるかもしれない。こうしたラボの主なメリットは観察者を切り離された観察用の部屋にとどめて、ユーザーとインタビュアーをテストのタスクに集中できるようにしておけることである。
ユーザビリティを伝道する1番の方法は、本物のユーザーを直に観察する関係者をできるだけ増やすことである。(お菓子がたくさん用意された)快適な観察用の部屋を持つ良質なユーザビリティラボは、ユーザーテストにおける貴重な副次的効果を強化する。つまり、デザイナーや開発者、マネージャーたちを、自分たちが目にしたユーザビリティ上の問題の解決にお金を使おうという気にさせる。
ラボがないならどうすべきか。結局のところ、ラボ専用のスペースというのは、8段階からなる企業のユーザビリティ成熟度において、企業が5段階目に到達して初めて登場することが多いものである。
だが、幸いにも、ドアが閉められ、調査参加者のプライバシーと集中が確保できる限り、ユーザーテストの実施はどこででも可能である。ユーザーテストでよく使われる場所には以下のようなところがある:
- 会議室
- 個人のオフィス
- 「オフィスホテル(訳注: オフィスとホテルが1つの建物に入っている施設)」のレンタルスペース
- ホテルの会議室
- 空港のラウンジ(会議室スタイルのスペースが予約可能だと仮定して)。
- 見本市のブース(あなた方専用のバックルームで実施するのが理想ではある。しかし、通常のブースの背後に置いたデモ用端末の前に立ってもらって、5分間の短いテストをすることは可能である)。
- 企業のカフェテリア
- コーヒーショップ(アムステルダムでそう呼ばれる類のものではなく :-)。(訳注: アムステルダムのコーヒーショップではマリファナも販売しているため)。
ユーザーテストにおける重要な要素とは、ユーザーにバイアスをかけることなく、そのユーザーの行動を引き出す進行役のスキルと、こうしたユーザー行動の観察から得られる有効で有用なデザインに関する結論を見つけ出せる進行役の分析スキルである。この2点の重要ポイントは、場所にも、先進的な機材が多数手元にあるかどうかにも左右されないものである。
運搬可能なラボ機材
Nielsen Norman Groupは海外で多数の調査を実施しており、クライアントの所在地でよくテストを行っている。しかし、ほとんどのユーザー調査では、機材は機内持ち込みサイズのバッグに収まっている。
以下の写真は先月、オーストラリアのシドニーでの調査のために準備されたものの写真である:
機材:
- ユーザー用の大型ラップトップ
- 進行役用の小型ラップトップ
- ユーザーの思考発話コメントと表情を記録するためのウェブカメラ
- ユーザー用の実物のマウス(リンクをクリックするのにユーザーがタッチパッドで苦労しなくていいようにするため)
以上である。この調査は我々がカンファレンスを実施したホテルで行われたが、コーヒーはホテルが用意した。
ユーザーのラップトップが大きく強力なものでなければならない理由は3つある:
- 使いやすいフルサイズキーボードによって、ユーザーは最小限のタイプミスで、好きなだけ入力できる。
- 広い画面によって、中高年のユーザーにも確実に情報が見える。
- Morae(我々が使用している画面録画ソフト)を走らせる余裕を残しつつ、ユーザーが出くわしたどんなウェブサイトやアプリケーションも走らせることのできる十分な処理能力を持つ。
大きな画面ならユーザーの少し後ろ(の進行役の後ろ)に観察者がいても、その観察者が画面上にあるものを見ることもできる。ユーザーに関する限り、観察者を視界から消し、意識させなくする必要はある。
(残念ながら、モバイル機器のテストではもう少し機材が必要になる。ユーザーが自分の携帯電話やタブレットを持ってくるのが一般的だが、それらの小さな画面を捉えるには高性能のカメラが必要だからである。そうしたカメラには専用バッグが必要だ。そのため、我々はカメラはたいてい前もって送ってしまうことにしている)。
テストの最中 ― 立ち入り禁止
以下はシドニー調査で使われたもう1つのアイテムである:
ユーザビリティ調査や関連の手順に慣れていない地域でテストをするときには、ドアにこのような張り紙をすることにしている。ホテルのスタッフには絶対に調査を邪魔されたくないし、別のミーティングを探して、廊下をうろうろしている人に、我々の部屋に顔を出してほしくないからである。
もし、会社の中でユーザーテストを実施するなら、「ユーザビリティ調査実施中」といった張り紙をするのもいいだろう。こうすれば同僚が会議室の前を通り、あなた方が単なるテスト以上のことをしているのに気づいてくれれば、社内でのちょっとしたPRになる。
しかし、ホテル等の社外の場所でテストをするとき、「ユーザビリティ」とはどういうもので、なぜ調査中にテストユーザーを邪魔してはいけないか、を皆がわかってくれると思うのは期待のしすぎである。そのため、我々は「記録中」を採用している。これなら誰にでも意味がわかるからである。また、部屋の前を通るときに話すのをやめてくれるかもしれない。
多数の観察者の受け入れ
海外調査ではクライアントが観察者1人分の飛行機代を出すなら運がいいほうだ。しかし、ユーザーの椅子の後ろに全員は押し込めないほど、観察者を多数受け入れるのも時にいいものである。
そうした場合には、香港で実施した調査のこの写真に示すように、別のモニターをつなげるという方法もある:
ここではシンプルに、たいていのホテルで借りられる(そのため、それを自分たちのところから持ち出す必要のない)中型のハイビジョンテレビを使用した。表示される、ユーザーが操作している画面はかなり大きいため、数人の観察者でそのTVを囲むことが可能である。
写真が示すように、ユーザーの視点からだと観察者は大きなテレビにほとんど隠れてしまう。繰り返すが、ユーザーに関する限り、観察者を視界から消し、意識させなくする必要はある。
観察者が大勢いるなら、使っていない会議室にビデオケーブルをつなぎ、プロジェクターを使って、ユーザーの画面の画像を希望の大きさに拡大投影してもよい。音声関係の配線は少したいへんだが、やれなくはない。スピーカーフォンを使用し、観察用の部屋のほうからは電話に音が入らないようにしておくという低コストの方法が可能な場合もある。
言い訳無用
機材がない? それはあなた方のデザインをテストしない言い訳にはならない。
ペーパープロトタイプをテストすることもできるし、(どのみちあなた方が持っているに違いない)ラップトップを使ってもいいからである。トレーニングセミナーで我々は調査のビデオクリップを好んで見せるが、社内調査ならウェブカメラも録画ソフトも必要ない。
ユーザビリティラボがない? それも言い訳にはならない。
今回、見せてきたように、現地でかき集められる、あるいは機内持ち込みサイズのバッグで運べる少数の機材を使って、(あなた方の国を含む!)どんな国の、ほとんどどこでもテストは可能だからである。だが、唯一、絶対に必要なものなのである。それは、ターゲット層を代表する本物のユーザーである。