国際的なユーザビリティ:
大同小異
3大陸で行ったユーザーテストで、主要なユーザビリティガイドラインは世界中で有効だと確認された。しかし、国際的なユーザーをより適切に支援するには、他にも考慮すべき事柄がたくさん存在する。
今年に入ってから、オーストラリアと中国、アラブ首長国連邦(UAE)でウェブサイトやイントラネット、モバイルサイトとアプリに関する様々なユーザビリティ調査を実施した。もちろん、我々は以前から数々の国際的テストを(合計13カ国で)行ってきてはいる。しかし、この最新の調査は、世界の3つの異なる地域にわたっていたため、国際的なユーザーエクスペリンスの全体像を一歩下がって、じっくり考えるよい機会となった。
(国際的なユーザビリティという言葉によって私が指しているのは、それがデザインされた以外の国で利用されるときのユーザーインタフェースの有効性のことである)。
一番高い次元での結論は何か。人というのは世界中で同じということである。そして、主要なユーザビリティガイドラインも変わらない。結局のところ、ユーザビリティガイドラインはヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)の原則に基づいており、コンピューターや人の脳の特徴、そして、その2つの間の多くの相違点の上に成り立っているからである。
例えば、5つの製品ラインのためのeコマースサイトをデザイン中なら、検索やフィルタリングのオプションを提供してユーザーを混乱させるべきではない。比較選択が容易になるよう、商品ごとの違いを明らかにする簡潔な説明をつけることに集中しよう。逆に、10万点の商品を扱っているのなら、検索やフィルターは必ず必要である。さらに、IAにはカテゴリーページという階層を新たに導入する必要もある。そうすることで、ユーザーの比較選択をさらに手助けすることができるからである。
小規模サイトと大規模サイトの間のこうした違いは、UIの表示がアラビア語であろうが、中国語や英語であろうが変わりはない。同様に、検索したい、というユーザーの要望も世界で共通だ。とはいえ、アラビア語や英語のようなアルファベット式の言語で検索キーワードを入力するほうが容易であるのはわかっている。我々が調査した中国のユーザーは漢字の選択という別の次元で苦労しなければならず、漢字特有のユーザビリティ上の問題となっていた。しかし、それでも、彼らは大量の検索をしていた。
ユーザビリティガイドラインの普遍性を示す別の例として、中国のユーザーでテストしたモバイルサイトの1つについて考えてみたい。そのサイトのテーマは韓国のポップスターのゴシップについてで、アジアでとりわけ高い関心が持たれているテーマだった。しかし、どのデザイン要素がうまく機能したか(あるいは機能しなかったか)についての結論は、ドイツのユーザーを対象にして、ユーロポップのサイトをテストしたとしても同じだっただろう。
右から左に読む
たいていの言語は左から右に読まれる。そして、こちら向きに読んでいることは、「水平方向の注目は左に寄る」(つまり、英語ではということだが)や「軌跡は“F”を描く」のような過去のAlertboxのコラムで論じてきたユーザビリティ上の多くの発見からも暗示されている。
概念的に見れば、アラブのユーザーが取った行動も全く同じであった。しかし、当然ながら、彼らの注目が集中するのはページの右側である。なぜならば、彼らは右から左に読むからである。同様に、彼らが示すのは逆F型の読み方のパターンであり、流し読みしていくのは主要なコンテンツの段組の右側であって、左側ではない。
結果だけにこだわれば、アラブ人の取った行動はアメリカ人やヨーロッパ人とは逆だったと言えるのかもしれない。しかし、インタラクションデザインの観点からいくと、彼らの取った行動は同じである。つまり、ウェブのユーザーはコンテンツの始まり部分により多くの注意を払うが、即、その関与は減っていく。(このことがなぜヘッドラインやリンクの最初の数語が非常に重要なのかという理由である)。
もし、右から左に読まれる言語でサイトをデザインしているのなら、それに対するガイドラインは、左から右に読まれる言語のサイトのデザインパターンを逆にしなさい、というものである。つまり、左右を入れ替えればよい。しかし、基本的原則はそこでも同じままなのである。
レイアウトが逆であるにもかかわらず、ユーザーはアラビア語サイトと英語サイトの切り替えには苦労しなかった。したがって、もし、グローバルサイト(世界中で利用される単一サイト)をデザインしているのなら、従来からある、左から右に読まれるレイアウトのままでいくことを勧める。重要なのは、サイトの中での一貫性を保つことであり、一部のページ上で逆向きのデザインを利用することではないからである。
国際的利用における違い
ガイドラインが概念的には同じとはいえ、そこには依然、微妙な差異や、細かい所での違いが多数存在していた。
例えば、アラビア語ではより装飾的な、あるいは長い文章が推奨されているように思われる。テスト協力者の1人が言ったように、「英語は1語か2語である。しかし、アラビア語はもっと饒舌で、より多くの単語を使う」。似たような話をすると、ドイツ語は長い複雑な語彙で有名である。ダイアログボックスのようなアプリケーションコンポーネントをデザインする際のよくあるガイドラインというのは、そのアプリが英語からそれ以外の言語に翻訳される予定があるようであれば、ラベルやヒントの語句を少なくとも50%は長くできるように空間を空けておこう、というものである。
それでも、万国共通でユーザーは簡潔なサイトのほうを好む。これが意味することを簡単に言うと、より冗長な言語でコンテンツを制作するときには、書き手や編集側にはやらなければならない仕事が増えるということである。
国際的なユーザーのためには、検索は多言語で可能なのが理想で、そうすることによって、たとえ、単一言語で書かれたサイト上でも、英語と自分たちの母国語の両方での検索が可能になる。こうした機能の実装が難しいのはわかっている。しかし、ある特定のテーマに対して、どちらの言葉がまず頭に浮かんだのかにもよるのかもしれないが、ユーザーが両方の言語で検索しようとしているのを、我々は実際に目にした。コンピュータ関係の先進的な商品やサービスのような特別なB2Bコンテンツでは、顧客の多くは母国語による用語よりも、国際的な(英語の)語彙のほうになじんでいるものである。
少なくとも、検索はアメリカとイギリスの英語両方に対応しているべきである。オーストラリアのユーザーが使っていたのは、当然、イギリス式の綴りだが、それ以外の場所では、アメリカのサイトを検索するときですら、イギリス風に単語を綴るユーザーも観察された。
また、検索でのタイプミスに寛容であるというのはいいことであるが、このことは国際的なユーザーを支援するときには極めて重要でもある。彼らが外国語で検索キーワードを入力するときに正確な綴りを書くのが苦手なことはわかっているからである。例えば、UAEの調査では、参加者全員が英単語の綴りを間違えていた。
ローカルサイトを持つべきか
国際的なユーザーを支援するときの一番基本的な問題とは、次のどちらの戦略を取るべきか、というものである。国際化(I18N)をして、全てのユーザーを支援する単一のグローバルサイトを提供するのか、あるいはローカリゼーション(L10N)をして、重要な顧客がいる地域ごとにローカルサイトを提供するのか。
この問いに簡単に答えようとするとどうなるか。国際化されたサイトは常に必要だが、どんなに規模の大きい企業でも、(数え方にもよるが、約200の)世界中の全ての国に対してローカライズする余裕はない。したがって、オーストラリアや中国のような重要な国に対してはローカライズしたとしても、多くの小さな国々はそのままにされることになる。
しかし、自分たちに余裕がある限りはローカライゼーションをするという道を取るべきなのだろうか。我々のテストから得られた答は若干対照的なものだった。
アラブのユーザーはアラビア語のサイトよりも国際サイトのほうが信用できると感じていることが多かった。事実、彼らはローカルサイトをまるで信頼しておらず、自分のクレジットカードが盗用されるのではないかということを怖れていた。これはアラブ圏のウェブが比較的まだ成熟してないことを示しているともいえる。つまり、将来、信頼できるサイトが多数現れれば、ユーザーの態度も変わってくるだろう。しかしながら、今のところ、アラブ圏の市場では、国際サイトのほうがローカライズされたサイトよりも望ましいようだ。あなた方が狙うB2Bオーディエンスが多少なりとも英語を話す限りにおいては。
(興味深いことに、最初のアラブ対国際サイトの評価以外では、信頼性についての判断をする際、アラブのユーザーは 「信頼性と説得力のあるウェブデザイン」についてのセミナーで我々が推薦するのと同じデザイン要素を頼りにしていた。例えば、問い合わせ先がすぐにわかるサイトをより信頼できると見なしていた)。
もしあなた方のサイトが広範囲の消費者をターゲットにしているなら、言葉が英語ではない国のためには当然、ローカライゼーションを行うべきである。
そして、英語を話すオーストラリアですら、ユーザーは海外のサイトよりもローカルサイトのほうをはるかに好んでいた。オーストラリアのユーザーはアメリカのサイトも、ヨーロッパの英語で書かれたサイトも完璧に読めるわけだが、自分たちのニーズに対して、海外のサイトは適切ではない、と感じていた。例えば、あるサイトでは、寸法が(インチ等の)不慣れな単位で書かれていたり、オーストラリアで提供されているのとは違う商品ラインについての説明が載っていたからである。SERPのリスト(検索エンジン結果ページ)を流し読みするとき、オーストラリアのユーザーは.auという接尾辞が付いたURLへの強い嗜好を示していた。