ユーザーインタビューが失敗する理由

ユーザーインタビューは、誤った目的のために使われることが多い。また、計画や分析が適切でなかったり、インタビューを実施する価値をステークホルダーが理解していないこともある。

ユーザーインタビューは、UXの重要な生成的手法だ。生成的な手法(インタビューやフォーカスグループなど)は知識を生み出す。一方、評価的手法(デザイン案のユーザビリティテストなど)は仮説をテストするためのものだ。インタビューを適切に実施すると、ユーザーの以下のことを知ることができる:

  • 思考
  • 信念
  • メンタルモデル
  • エクスペリエンス

こうした知識は、良質な製品やサービスの構築に役立つ。また、想像上のものではない、ユーザーの実際のニーズに対処することを可能にする。(デザインを開始する前に)製品やサービスを利用する可能性のあるユーザーと話す時間を取ることで、他の方法では決して発見できないこと、すなわち、通常のユーザビリティテストを実施しても明らかにはならないことを知ることができるだろう。

しかし、インタビューはうまくやらないと、誤ったデザイン決定につながり、最終的には組織や顧客に害を及ぼす可能性もある。これまで何度も言ってきたように、ユーザーインタフェースが素晴らしくても、そこにある機能が適切でないとうまくいかないからだ。この記事では、ユーザーインタビューに関してよく起こる4つの問題と、そうした問題を回避するための方策について説明する。

問題1:目的が間違っている

UXチームの中には、実際にはインタビューからはわからない情報を収集するためにユーザーインタビューをおこなっているところもある。ユーザーをインタビューしても満足のいく回答が得られない調査課題の例を以下に示す:

  • ブランドや製品に対するユーザーの印象を最も向上させる色はどれか。
  • 将来、ユーザーが自分たちの製品を購入したり、使用したりするか。
  • この製品でユーザーが必要とする機能は何か。

上記の例はいずれも調査の課題としては妥当なものだ。しかし、こうした課題は、ユーザーにインタビューをしても信頼できる回答を得ることはできない。なぜならば、こうした課題はどれもユーザーの「行動」についてのものだからだ。インタビューからは、ユーザーの行動についての信頼性の高いデータは得られない。それよりもむしろ、ユーザーを観察するほうが、彼らの行動についてずっとよく知ることができるだろう。

では、例を挙げてこの点について説明しよう。あるデザイナーがそのデザインに対してどんな背景色が最適かを知りたいとする。彼女はインタビューを実施して、ユーザーにモックアップをいくつか見せ、どのモックアップがいいと思うかを尋ねた。しかし、この調査は、調査自体を容認不可能にする以下のような条件が前提になっている。

  1. 「参加者には色の好みがある」。参加者にどの色がいいかを尋ねるというのは、色について考えて、意見を持つべきだ、と彼らに勧めることだといえる。参加者には特に色についての意見がなかったのに、単に聞かれたので意見を作り上げたということもありうる。(これをクエリー効果という)。
  2. 「インタビューでのユーザーの回答は、彼らの実生活でのページの色に関する感情を正確に反映している」。確かに、一部の参加者はその瞬間には紫色の背景ではなく青い背景を好むかもしれない。しかし、だからといって、ユーザビリティラボを離れた実生活でその製品を利用する場合にも、彼らがその同じ色を好むとは限らない。
  3. 「色の設定によって、ユーザーの製品全体についての認識が変わる」。ユーザーが実際にその色を本当に好きであろうが、嫌いであろうが、あるいはその色に関して何らかの感情を抱いていようが、だからといってそうした色がデザインや組織全体に対するユーザーの認識に大きな影響を与えるわけではない。背景色は(ユーザビリティやユーティリティ、情報価値などと同じく)ユーザーエクスペリエンス全体に寄与する多くの要因の1つにすぎないからだ。

この例にあるような調査目標を達成するためには、デザイナーはインタビューではなく、デザイラビリティ調査を実施するとよい。そして、こうした場合には5秒間テストがおこなわれることが多い。

解決策:調査課題に合った調査方法を選択しよう

どの調査方法を利用するかは、常に調査課題によって決定されるべきである。たとえば、ユーザーがそのデザインをうまく利用することができるかどうかを知りたいのなら、インタビューをするのではなく、彼らがそのデザインとインタラクトしているところを観察するべきだ。一方、そのエクスペリエンスについてのユーザーの思考や印象、認識を知りたいのなら、適切に管理されたインタビューに勝る方法はない。

調査課題を書き出すために時間を取るUXチームはまれだ。しかし、そうすることで、チームが調査に集中できるようになるし、書き出した課題への回答を得るのに最もふさわしい方法もわかりやすくなるはずだ。

問題2:インタビューとその調査結果にステークホルダーからの賛同がない

ステークホルダーはさまざまな調査手法の違いを十分に理解していないことが多い。彼らにとっては、どれも調査だからだ。こうした態度は以下の2つの問題につながる可能性がある:

  1. プロジェクトの開始時に、チームがユーザーインタビューのための時間を確保することができない。ステークホルダーが、アナリティクスや営業部門から聞いた逸話によって、自分たちにはすでに十分知識があると思っているからだ。
  2. 広範囲にわたって調べる発見段階についで、インタビューに基づく知見は、懐疑的に受け取られることが多い。そして、「そんなことはもう知っている」とか「そんなはずはない。義理の姉が遭ったエクスペリエンスはそうでなかった」などの手強い反応を引き起こす。

解決策ステークホルダーに、調査課題理解優先順位づけしてもらうことによって、彼らを教育し、関与させよう

ステークホルダーが、(1)調査目標を理解し、(2)別の調査方法ではなく、その調査方法を利用することがなぜ重要であるかという理由を理解して、(3)最初から調査活動を支持していると、その調査はうまくいく。

自分たちの仕事に反対しそうなステークホルダーが誰かわかったら、その人たちを誘って、調査の方向づけをおこなうというのは、彼らを支持者に変えるうまいやり方である。

  • ステークホルダーをワークショップに呼び、調査の方法と、調査課題の重要性を説明しよう。そして、説明した調査課題の優先順位づけについて、彼らの意見を求めよう。また、ステークホルダー自身も彼らの調査課題を提供することで貢献することが可能だ。
  • ドット投票や優先順位マトリックスを利用して、チームメンバーやステークホルダーと一緒に調査課題を重要度でランクづけしよう。

このようにステークホルダーに参加してもらうことが有益である理由は4つある:

  1. 調査結果が受け入れられる可能性が高くなる。調査の方向づけに関与したことで、ステークホルダーが当事者意識をもつからだ。
  2. ビジネスとUXの間に強力な関係が生まれる。彼らを参加させることで、ビジネスの視点から彼らの専門知識を必要としているということを示せる。
  3. 自分たちが考えたことのなかった調査課題についてのアイデアをステークホルダーに提供してもらえる
  4. UXが組織にもたらす価値について、チーム外の人を教育する方法にもなる。優先順位づけのためのワークショップは教育的なエクスペリエンスになりうる。さまざまな手法がどのように有益か、また、どのような場合にその手法を利用してもよいかを説明することで、UXには当初考えていたよりもいろいろな要素があるということをステークホルダーも理解し始めるだろう。

問題3:計画が不十分

ユーザーにインタビューをすれば知りたいことがわかるだろうと期待して、いきなりインタビューを始める人が多すぎる。しかし、これは参加者(および自分たち)の時間を無駄にし、役に立たないユーザーデータを収集するのに費用をかけるということである。

まったく計画を立てずにインタビューを実施すると、以下のようになることが多い:

  • とりとめがなくなり、せいぜい表面的な所見しか得られない。
  • 不適切な質問や誘導尋問、あるいはクローズド型の質問をしてしまい、参加者が質問のテーマについて自分の正直な考えや意見を述べたり、自分のストーリーを伝えたりすることがまったくできなくなる。

その結果、そうしたインタビューから得られたデータが事実と異なっていたり、意思決定の際に情報として参考にならなかったりする。

解決策インタビューガイドを設計して、あらかじめ試しておこう

まず、知りたいことが何であるかを確認しよう。そして、そうした調査課題を書き出したら、それをインタビュー中の会話を導くインタビューガイドにまとめるとよい。そのガイドには、しっかりと構成された質問がいくつか入っていなければならない。広範なオープンエンドの質問を入れて、うまく探索を進められるようにし、クローズド型の質問を書き連ねないようにしよう。

UXのインタビューで使われることの多い質問とは、詳しく知りたい問題空間やエクスペリエンスについて、ユーザーに話してもらうためのものだ。こうした質問には以下のようなものがある:

  • …での典型的な1日について説明してください。
  • …のときのことについて教えてください。
  • もし1つ変更できるとしたら、どこを変更しますか。

誘導にならない、探索用の質問を用意しておこう。探索用の優れた質問の例を以下に示す:

  • それについて詳しく教えてください。
  • それの例を挙げてくれませんか。
  • どうしてそう思うのですか。
  • なぜそれがあなたにとって重要なのでしょうか。

ガイドを試そう。まず、インタビューガイドを自分たちで試して、インタビューガイドの質問に自分たちがどう答えるかを確認しよう。自分たちで作った質問に自分で答えることによって、いくつかの質問はうまくいかないとわかる場合もある。次に、インタビューを多数のユーザーで実施する前に、ユーザーを1人、パイロットインタビューのためにリクルートしよう。そのユーザーにはその人のセッションがパイロットテストであるとは言ってはならない。そして、むしろ、パイロットインタビューではないかのようにそのインタビューは実施しよう。そうすれば、インタビューガイドのユーザビリティテストをしたかのように、次のインタビューまでにこのガイドのデザインを改善する方法をすぐ確認できるだろう。

現実的なスケジュールを立てよう。すべてのインタビューセッションを連続しておこなうスケジュールにして、間に休憩を入れない人が多すぎる。インタビューとは、(ユーザビリティテストの進行よりもずっと)骨の折れる作業だ。休憩なしで1日インタビューをおこなえば、最後のほうのインタビューは質が劣化するだろう。時間がある場合は、1週間使って、間隔を空けてインタビューを入れるようにし(たとえば、1日あたり23セッション)、1日ですべてのインタビューをおこなわないよいにしよう。

問題4:分析が不十分

インタビュー結果を適切に分析するための時間を取るUXチームはまれである。リーンまたはアジャイルな作業をしているチームの場合は特にそうだ。残念ながら、多くのインタビューでは、実施はしたものの、適切な分析がされていないため、以下のような問題をよく目にする:

  • 記憶に残る知見のみが報告される。その結果、重要な知見やニュアンスの一部が失われる。
  • 報告された調査結果が個人の偏見に影響されたものになっている。ユーザーに関する先入観から来ている知見は優先されがちだったり、思い出しやすかったりするからだ。

解決策:発言録を体系的に分析しよう

セッションを録音しよう。
ほとんどのチームはインタビューを録音しない。そして、セッションの書き起こしをおこなうチームはさらにまれである。しかし、多数のユーザーにインタビューするなら、録音する価値はある。優秀な記録係でも抜けはある。言っていることすべてを一語一語記録するのは事実上不可能だからだ。たいていの参加者は会話の録音に同意してくれる。とはいえ、常にしっかりと承諾を得た上で、録音や録画をするようにしよう。

インタビューを書き起こそう。
発言録を分析するほうが不完全なメモや記憶に依存するよりずっと良い。また、データに接している時間が長くなるので、データの裏づけがない結論に飛躍する可能性も減る。録音データをほんの数分で書き起こしてくれる安価な書き起こしツールはたくさんある。あるいは、録音データを非公開でYouTubeにアップロードして、発言録を無料でダウンロードしてもいいだろう(もちろん、そのデータはどこかのサーバー上に存在することになる。したがって、この解決策はプライバシーとデータ保護の制限事項を常に満たせるわけではない)。

チームを巻き込もう。
チームに声をかけて、発言録の分析を手伝ってもらおう。このアプローチは、インタビューを実施したことによって学んだことをまとめながら、チームメンバーがユーザーに対する共感を築くことができる素晴らしい方法である。

  1. 半日のワークショップをスケジュールに入れて、そこでチームに発言録を配り、皆でそれを読んで、マーカーで印をつけよう。
  2. 最も重要な調査課題をチームで再確認しよう。
  3. 発言録をチームメンバーで回し、必ず全員が各セッションの発言録を読んで、その内容に積極的に取り組めるようにしよう。
  4. この活動が終わったら、チーム(または単独)で、テキストのマーカーを入れた部分をもう一度読み直して、そこからの引用を、意味をもったグループに分類しよう。それが最終的には分析のテーマになる。

インタビュースキルを向上させよう

インタビューとは1つのスキルであり、うまくおこなうには練習と振り返りが必要だ。空き時間を見つけて、自分が実施したインタビューを見直すとよい。効果的でなかった質問はどれか。どうすれば自分のした質問とインタビュースタイル全体を改善できるかを考えてみよう。

信頼できる同僚(または先輩)に声をかけて、自分のインタビューの録音や発言録を一緒に確認し、建設的なフィードバックをもらおう。このプロセスは時間がかかるが、やる価値はある。将来、実施する調査から、より高い価値を引き出せるようになるからだ。

時間を割いて、録音や録画をもう一度見たり、聞いたりする人、また、自分がおこなったインタビューの発言録を分析する人は、より優れたUX実践者になれるだろう。

さらに詳しく:UX Conferenceでの1日トレーニングコース、「User Interviews, Advanced techniques to uncover values, motivations, and desires」(ユーザーインタビュー:価値や動機、願望を明らかにする高度なテクニック)にて。