訪日外国人の宿泊事情:
ホテル不足の今、重要な受け皿「民泊」の価値

私が出会った東京旅行中の外国人旅行者の何人かは、これまでのように通常のホテルではなく、Airbnbという新しい選択肢を選び、民泊ならではの特別な体験を楽しんでいました。

  • Naoya Nakahashi
  • 2015年10月21日

訪日外国人の「今」を紹介します。

イードは新宿にオフィスを構えているので、毎日のように外国人観光客を見かけます。それもそのはず、日本政府観光局が発表したデータによると、今年1月から6月は過去最高の913万人に上り、前年同期比で46%増加したとのこと。

私は趣味として、訪日外国人に街頭インタビューを行っています。彼らが何を思い、どんな風に旅行をしているのか、このコラムではそんな中で得た、様々な発見を紹介したいと思います。

Naoya Nakahashi
著者(Naoya Nakahashi)について
株式会社イード リサーチ事業本部HCD事業部リサーチャー。
東京造形大学卒。デザインマネジメントを学ぶ。商品デザインのグローバルリサーチに従事した後、2015年4月、イードに入社。異文化におけるライフスタイル、デザイン比較に造詣がある。趣味は電子楽器演奏。

街頭インタビュー1

ケース1: ベルギーからの旅行者

これから京都へ祇園祭を見に行き、その後北海道にいくよ。だけど祇園祭のせいで、既に京都のほとんどのホテルが埋まっててさ、Airbnb(エアービーアンドビー)を使って宿泊先を探すことにしたんだ。

ベルギーからの旅行者2人

Airbnbとは

既に話題になっているのでご存知の方もいるかもしれませんが、Airbnbとは、宿泊施設を貸したい人と借りたい人(多くの場合一般人)をつなげるウェブサービスです。公式情報によると、現在192カ国の33,000の都市で利用されているものの、会員数はというと、パリでは40,000人、ニューヨークは30,000人いますが、東京では3,000人強と、まだまだ日本での利用は多くはないと言えます。

ホテル不足が深刻、受け皿としての民泊

彼らが今回直面したように、日本の主要観光地は、現在、慢性的なホテル不足に悩まされています。

円安により、日本人旅行者は海外旅行から国内旅行へ切り替え、さらに、訪日外国人の増加がその要因です。英調査会社のSTRグローバルのデータでは今年1月から6月の東京都内のホテルの客室稼働率は88.3%にも上り、同時期のホテルオークラ東京の外国人宿泊客が前年度比で14%増加し、外国人比率が5割を超えました(日本経済新聞2015年8月1日朝刊)。これを背景として、ホステルやカプセルホテルなどの従来の方法から、Airbnbのようなサービスを利用した「民泊」が重要な受け皿となってきています。

追加インタビュー

しかし、海外旅行中にわざわざ見知らぬ人の家にお金を払ってまで宿泊する価値はどこにあるのでしょうか。

インタビューを続けていると、Airbnbを使って滞在しているという旅行者から話を聞くことができました。

ケース2: ニュージーランド オークランドからの旅行者

滞在中のアパートをAirbnbで見つけたよ。今、渋谷に泊まっていて、ホストは非常に良い英語を話すんだ。彼女は信頼できるし、コミュニケーションも良好。料金は、実をいうとホテル(1泊16,000円)と同じくらいの価格だけど、品質の面では、地元の人のアパートに滞在することは非常に特徴的な体験になるし、単にホテルに滞在するよりも良いと思う。

ニュージーランド オークランドからの旅行者2人

ケース3: オーストラリア ブリスベンからの旅行者

アパートをAirbnbで予約した(一泊8,600円)。
交通の中心で便利だから渋谷にしたんだ。なぜAirbnbを使用したかって? 使うのは初めてだったけど、まあ、人の家だし、料理道具もあるだろうし、ホテルより「家」を感じられると思った。日本に来たことがなかったんで、どこに行ったりした方がいいかを教えてくれる人がほしかったんだ。ホテルは同じ値段でも基本的なものしかないしさ。

オーストラリア ブリスベンからの旅行者

分かれる、宿泊に対する価値観

Airbnbでの部屋の相場は価格だけ見るとホテルと比べてもさほど安いとは言えません。つまり、利用者の中には単なるホテルの代替として人の家に泊まっているのではなく、ホテルでは味わえない体験を求め、あえて民泊を選んでいる人もいるのです。それはホテルに泊まったら気がつくことのできない、ローカルとの心の触れ合いだったり、日本の文化や習慣を実体験として得られることだったりするのです。

もちろん反対意見もあります。

ケース4: ドイツ パーダーボルンからの旅行者

そういう泊まり方に価値は見いだせないな。せっかく来たから豪華に過ごしたいし、バックパッキングとかゲストハウスとか好きじゃないんだ。だって嫌な思いをするかもしれないだろ? へんぴな場所にある、みすぼらしい部屋に押し込められるにきまっているよ。滞在に関しては変に驚かされたりしたくないな。

ドイツ パーダーボルンからのカップル

比較的オープンな性格であるオセアニア圏の人と用心深いと言われるドイツ人の対照的な意見ではあります。

もっとも今回の対象者がたまたまそうであっただけで、根本的には人それぞれだろう、と付け加えておきます。

現在、法律上はグレーゾーン

そんなAirbnbですが、日本には旅館業法という法律によって、持家であっても、物件の貸主は都道府県知事から営業許可を取る必要があります。しかしながら、一般の貸主が規制をすべてクリアし許可をとれるかは難しく、また、賃貸物件の場合は、本来であれば「転貸禁止規定」により大家の許可なしには又貸しはできません。皆、摘発のリスクを冒しつつ、部屋を提供しているということになり、現に昨年5月には逮捕者も出ました

今後の規制緩和に期待

今回のインタビューでAirbnbを利用していると答えた方々は、意外にもこの日本の法規制を知っており、以下のように語っていました。

ケース2: ニュージーランド オークランドからの旅行者

日本政府がAirbnbに反対していることを知っている。でもそれは、技術に対する反グローバリゼーションだと思う。

ケース3: オーストラリア ブリスベンからの旅行者

日本で物議を呼んでいるサービスであることは知っているけど、自分はAirbnbについて良い話をたくさん聞いたし、ちょっと調べたりもした。自分でもAirbnbを通してビーチの近くにある自分のアパートも貸してみようとも思っているんだ。

実は、日本政府は来る2020年に向けて、Airbnbのような「民泊」に注目しており、「国家戦略特区構想」の1つとして、「民泊」における旅館業法の規制緩和策を検討しはじめています。この記事を書いている間にも、10月20日に改革の具体策が発表されました。内容は、特区内で民泊を認めるよう要件を緩和。同じ住宅に最低7~10日間滞在する客に限定して要件を短縮する方向で検討する見込みとなりました。来年1月の通常国会に特区法改正案を提出するとのことですが、Airbnbが日本国内でも急速に広がるのか、今後も目が離せません。

イードの訪日外国人調査

イードの調査では、外国人の行動を観察、インタビューはもちろん、実際に貴社のサービスやWebサイトについて、訪日外国人に直接話を聞くこともできます。旅行者の生の声を、あらたなビジネスチャンス、サービスの改善のための施策立案にお役立ていただけます。

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