アメリカ大統領選がミレニアルズに残した爪痕
アメリカの大統領選に関連して様々な事態が起きています。ミレニアルズや、もっと若い世代に、今後どのような影響を及ぼすのでしょうか。
アメリカの大統領選後、トランプ氏の勝因やクリントン氏の敗因、アメリカ人の隠れた心理など、色々な分析が出ていますが、私はアメリカ大統領選がミレニアルズにどんな爪痕を残したのか、ミレニアルズよりも下のジェネレーションに今後どのような影響を与えそうか、身近な人にいろいろとヒアリングして少し考えてみました。
選挙の前から危機感をなんとなく感じていた、マイノリティのミレニアルズたち
最近、個人的にミレニアルズ世代の若者にいろいろと話を聞くようにしているのですが、選挙の前に会った若者が「もしもトランプが勝ったら、身の危険性を感じるような出来事が起きるかもしれない。そのために、早めに準備をしておこうと思う。」と言っていました。私にそんな話をしてくれたのは、特に政治的活動をしているわけでもなく、エコや健康に気を遣う、どこにでもいるような平均的なカリフォルニアに住むアジア系のミレニアルズです。
「信じられないことが起こる世の中」=ミレニアル
このコラムの2回目でミレニアルズの価値観を紹介しましたが、「明日のことは予測不可能」な世界でレニアルズは生きて来ています。9・11のテロ事件をきっかけにアメリカはもはや大国・強国ではないかもしれないという疑問が生まれ、今まで信じてきたことが根底から覆されたような気分になりました。
エンターテインメントのメインプレーヤーも、今までの価値観を覆すようなスターが現れ、ついに今年の大統領選も世論が「選ばれないだろう」と予測してきたトランプ氏が大統領に選ばれました。まさに「信じられないこと」がまた起こったのです。
信じられないことが起こる世の中で身を護る準備
具体的に危険から身を護る「準備」というのはどういうことか、よくよく聞いてみると、「護身用の銃を購入する」という回答でした。銃を購入するのはそんなに簡単ではなく、今日欲しいからすぐに買えるわけではありません。まず、銃器店に行き、銃を選んだら、バックグラウンドチェックといって、購入者に犯罪歴などがないか調べられ、数日後にもう一回取りに行くというプロセスが生じるため、軽い気持ちで購入するのではないと思います。
また、銃自体も安いものではなく、多くは1000ドル以上するということでした。収入があったとしても、1000ドルほどの出費は20代、30代の収入の平均から考えると小さいものではありません。
手間がかかっても、出費がかさんでもなお、自分の身を護るものが必要だと痛感するような危機感を、日常的に、そこはかとなく感じていたからこそ銃を買うという行動に出るのだと理解しました。
ミレニアルズはすでに経済のメインプレーヤーとなっています。また、次回のアメリカセンサスで使われる人種の区分の選択肢によっては、ミレニアル世代の人種の比率は、これまでマイノリティと言われていた非白人が、マジョリティと言われていた白人を超すかもしれない、と言われています(下記注釈参照)。少なくとも、非白人が占める割合がかなり上昇することは確実でしょう。
注釈:次回のアメリカセンサスは2020年に大規模なものが予定されています。大規模なセンサスは10年ごとに実施されます。2010年のアメリカのセンサスの人種区分は、ヒスパニックかどうか、また混血の場合は血統として、どの人種の血が一番多く流れているか、で人種を選択する方式です。次回のアメリカセンサスの人口区分の選択肢が、さまざまな混血の状況にどう対応した選択肢が設定されるかによって、(実際は白人ではないが、「白人」カテゴリを選ばざるを得ない人が結構いる)データが事実に近づく(今まで白人を選ばざるを得なかった人が正確なカテゴリに移動する)ことも予想されます。
このジェネレーションの多くは、トランプ氏の人種差別的な発言について賛同できなかった人達ではないでしょうか(他の政策については賛同しているかもしれませんが…)。彼らがひしひしと感じている危機感は、身を護る何らかの手立てを講じるアクションに駆り立てるに十分なほど大きいと考えた方がいいのかもしれません。とはいえ、日本のミレニアルズとは違ってアメリカのミレニアルズは世の中に悲観的な行き詰まり感があるのではないことは、きちんと理解しておくべき一面でしょう。
そこはかとなく感じる身近な危険に対して、水面下ではいつでもアクションが取れる準備が出来ているということかと思います。彼らは「信じられないこと」がいつ起こっても対応が出来るように「自分を護る準備はOK」でそのための時間とお金の投資は厭わないということがよくわかりました。
「お母さん、もう給食でパスタやライスは食べられないの?」
ミレニアルズが「信じられないことが起こる世の中をしたたかに生きようとする世代」だとすると、その次の世代は一体どんな心理に支配されていくのでしょうか。
今回の選挙の結果を受けて、ある小学生が家に帰ってくるなりお母さんに「もう給食でパスタやライスは食べられないの?」と聞いたそうです。学校で先生が「アメリカの人種差別的な考えが広がると、究極論として色々な文化に対して抑圧が生じるかもしれない。」というような内容を話したのを子供なりに判断して消化した結果の一言だったのかもしれません。
でもきっと、小学生にとっても今回の選挙は彼らの価値観に大きく影響を及ぼすものかと思います。ミレニアルズの次の世代である彼らの価値観は今作られています。今後どのように世の中の出来事によって次世代の価値観が形成されるのか、興味深いところです。
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- 著者(森原悦子)について
- Interface in Design, Inc. COO/President。
武蔵野美術大学卒。インダストリアルデザイナーなどとして活躍後、旧イードに入社。定性調査やエスノグラフィーといった手法を得意とし、クライアントのグローバルな商品開発のコンサルティングリサーチを多く手がける。2011年8月より現職。