いまどきのライドシェアリング事情

UberやLyftなどのライドシェアリングの浸透による恩恵や結果は、人によって違うことがだんだんわかってきました。この状況を観察・比較することは、新しいサービスの恩恵に預かる人の背景や価値観の変化がどういったものかを知る良い機会になると思います。

  • 森原悦子
  • 2016年1月29日

都市部の移動問題の救世主

最近、身近で「車を持っているし、運転も出来るけど、渋滞・混雑をしているところにいく時はライドシェアリングを使っている」というコメントを頻繁に聞くようになってきた気がします。

私の住むLos Angelesは公共交通手段があまりなく、車が無いと移動が非常に不便な土地ですが、都市部の移動は慢性的な渋滞に悩まされます。また、渋滞だけでなく駐車に困ることも多い状況です。渋滞を回避するためには「多人数乗車(場所にも寄りますが、通常2名以上もしくは3名以上)の車の優先レーン(HOV lane/Car pool lane)」の条件を満たして使う必要があります。しかしながら多くの車は1名乗車というのが車通勤の現実で、これが都会の慢性的な渋滞の原因となっています。

もちろん飲酒運転は厳しく罰せられるので、車通勤をする限り、仕事帰りに飲んで帰る事は不可能です。仕事仲間や友人と飲んで帰るのが難しいという状況は、ちょっと寂しい気がします。そんな中、ライドシェアリングサービスの台頭により、休日に都市部に出かける場合、飲みに行く日、さらには渋滞箇所を通る通勤でさえも新しい選択肢が増え、その結果利用者が増えているというのもうなづけるのではないでしょうか?

最近身近でも20代30代の人から「車を持っているけど、休日は一切運転せずに移動はUberを使っている。彼女の家に休日に遊びに行く時はUberで行くよ。お酒も飲めるしね。都会のバーに行くときも駐車場を探す必要もなくて便利だよ。」といったようなコメントを頻繁に聞きます。

このような話を身近でしょっちゅう聞くということは、ミレニアルズを中心とした若い世代がライドシェアリングの牽引者であろうと思っていたのですが、実は最近、その認識を少し替える興味深い記事をいくつか読んだのでここで紹介したいと思います。

いまどきのライドシェアリングの主役はミレニアルズではない?

Uberアプリ

Denver ABC channelの“Uber is not just for Millenials, anymore”という記事によると、実はUberのドライバーの4分の1は50歳以上のドライバーで、このうち本業をリタイアした人にとっては年金以外の良い収入源となっているということです。

また、ライドシェアリングの提供者だけでなく、使用者という意味でも、90歳を超えた夫婦が日常的にUberを使っているということも記事では紹介されています。Uberを使うことで、自分で移動手段を確保できるので、自立した生活を送ることが出来ているという自信に繋がるということでした。確かに私自身の身近でも、90歳代の1人暮らしの方が自分のスマートフォンを使って、病院通いにUberを使っているというケースがあります。もちろん、スマートフォンの操作に関して孫や家族の協力も得ているようですが、結果的に、自分で移動問題を新しいデバイスで解決していると言えるのではないかと思います。

Next avenueの“Gig Economy: Better for Boomers Than Millennials”という記事でも、Uberの50歳以上のドライバーは30歳以下のドライバーよりも多く、73歳のUberドライバーがはつらつと働いていること、Uberで得た収入で財産を築くといったことは考えていないが、バケーションや離れた土地に住む娘に会いに行くための資金になってくれていることを紹介していました。

これらの記事を読んだり、身近な証拠と照らし合わせると、ライドシェアリングの恩恵に預かっているのはミレニアルズだけに限らず、全年代に渡っていると感じられます。

車の国アメリカでも、運転免許の取得率が下がってきている

50代以上の世代、つまりベビーブーマー世代を中心としてポジティブな影響を与えている一方で、若い世代の車に対する考え方にはポジティブとは言い切れなさそうな現実もあるようです。もちろん、ライドシェアリングのせいだけではないと思いますが、例えば、USA Todayの“Millennials spurn driver’s licenses, study finds”という記事では若者の運転免許取得率が下がってきていると報じられています。

実際の数字としては、20-24歳の運転免許保有率は76.7%で、1983年と比較すると当時は91.8%となっており、大きく下がっているのがわかります。

この記事によると、ライドシェアリングの台頭により都市部の若者は移動の代替手段を得たこと、ソーシャルメディアの浸透により直接会うことの価値が薄れたこと、新車価格が上がり、学費ローンを抱えるこの世代にとって車がより高嶺の花になってきていることが影響しているということでした。

ライドシェアリングが無かった時代は、学費ローンがあっても頑張って車を購入し、車を運転する必要があったけど、今となっては車だけでなく免許さえも必要性が薄れてきている、というアメリカの若者の車離れの現象は日本と似ているけど、背景が少々違うといえるかもしれません。

このように、同じサービスが世代によって違った現象を生み出しているのは興味深いことではないかと思います。UberやLyftといったライドシェアリングが浸透することで、恩恵を預かる人の背景や既存の価値観の変化が進んでいることが実際に見て取れると思います。

商品開発のための現地実態調査

イードの米国子会社・Interface in Design, Inc.は、どのような製品に関してもフレキシブルなスタイルで、アメリカをはじめとした世界各国で調査を実施することが可能です。例えば、出張せずに現地の状況を把握することも出来ます。

皆様の会社の商品企画や開発、デザイン部の方々が、現地向けの商品を開発する際の一助(マーケットの状況や、製品の使用状況などを通した仮説の抽出など)としていただけるはずです。

ご希望に応じてプレインタビューを加えたり、観察調査を加えるなどのオプショナルサービスも提供可能ですので、下記よりお問合せ下さい。

イードへのお問い合わせ
イード(iid.co.jp)へ移動します

森原悦子
著者(森原悦子)について
Interface in Design, Inc. COO/President。
武蔵野美術大学卒。インダストリアルデザイナーなどとして活躍後、旧イードに入社。定性調査やエスノグラフィーといった手法を得意とし、クライアントのグローバルな商品開発のコンサルティングリサーチを多く手がける。2011年8月より現職。