一連の体験をなめらかにする、メルカリのUXリサーチャーがお客さまを理解する視線

毎年恒例、HCD-Net認定人間中心設計スペシャリスト/専門家へのインタビュー。2022年は、株式会社メルカリのUXデザインチームでUXリサーチャーとして活躍している、井手あぐりさんにお話を伺いました。

  • 人間中心設計推進機構 HCD専門資格認定センター
  • 2022年11月24日
井手さん

メルカリグループは、株式会社メルカリと、株式会社メルペイなどの連結子会社で構成されており、井手さんはメルカリ3人目のUXリサーチャーとして入社しました。担当プロジェクトごとに、定性調査のデスクリサーチから計画、実施、分析、共有まで、「みんなが参加しながらプロセスを進めるためには何ができるか」を意識したUXリサーチをリードしています。

お客さまから見た、一連の体験をなめらかに

井手さんが今年の夏から参画しているという、メルカリの利用者の一連の体験を繋げて良くしていくプロジェクトのお話を伺いました。

メルカリでは、「買う」「売る」など特定のシーンごとにチームが細かく分かれているそう。その一方で、個別最適化が進むと、ユーザーの一貫した体験が見えにくくなってしまうため、ユーザーの視点から見た一連の流れを補うことを目的にしたプロジェクトが生まれました。

プロジェクト開始時にまず、「一連の体験をよくする」ということはどういうことなのか議論が行われました。そして、なぜこのようなテーマが定義されるに至ったのか、ビジネス的な背景を整理し、過去の類似プロジェクトのヒアリングを行ったそう。メルカリというひとつのアプリのなかでも、複数のチームが関わっているといいます。一方、お客さまから見ればすべてがメルカリという体験です。「お客さま側から見たときに、体験をなじませられるところがまだまだたくさんあります。」と井手さんは語ります。

次に、カスタマーサービスが対応しているお客さまからの改善要望やアクセスログなど、お客さまに直接会わなくても社内ですぐに集められる情報が収集されました。「アクセスログで、お客さまがどのような操作をされているか見てみると、数字からは分からないところがありつつも、離脱しているポイントが分かります。」と井手さん。分析の結果、数ある機能の中でも特にお客さまがイメージしていた使い方と、サービスとして提供したい姿のギャップが明らかだったものをテーマにすることに決まりました。ギャップが大きいということは、お客さまにとってのインパクトが大きいということだと井手さんは語ります。

ユーザーのコンテクストを固定して問いを明らかにしていく

対象とした機能にも、もちろん担当チームがいます。課題は日々リストアップされ、改善活動がなされていました。そこで、別の視点からこの機能をユーザーが見た際にどのように利用されているのかを明らかにするため、インタビューが計画されました。リサーチのテーマとして「お客さまは、どのようにこの機能を使っている、もしくは意図的には使っていないのだろうか」という問いが設定されました。

調査対象のユーザーとして、アンケートや行動ログなどをもとに、特定の行動パターンを条件とした6つのセグメントが作られました。探索的なフェーズだったため、可能性を洗い出すために、行動パターンをもとにしたといいます。この6つのセグメントに対してそれぞれ2人ずつ、合計12人のインタビューが行われました。対象者にはひとりあたり90分の時間の中で、画面共有をしてもらいながら普段の操作をしてもらい、PMやアナリスト、デザイナーが観察を行いました。

議論する井手さんたち

「インタビューのなかで気を付けているポイントとして、最初に状況を特定してから、流れを紹介してもらうようにしています。」と井手さん。たとえば話の流れの中で、具体的な曜日のエピソードが出てきた場合には、その時の最初から最後までを実際に再現してもらうような聞き方をするといいます。

このように井手さんがユーザーの具体的な事例にこだわるのには、社会人向けのUXプログラムに通っていた際の経験が影響しているといいます。あるとき、講師から「いつもどのくらいの金額のランチを食べているの?」という質問がありました。段階的に提示される金額のなかでこれだと思う金額に手を挙げましたが、そのあとに「今どんな場面を浮かべて手を挙げたの?」と聞かれてはっとしたのだそう。

「コンテクストが全部抜け落ちていて、このアンケートには全く意味がないんだよと言われたんです。大学の頃の友だちと、何年かぶりに東京で落ち合って久しぶりにするランチと、いつもの同僚と食べるランチでは金額が違うんですよね。インタビューの中で状況を固定するのは、ちゃんとお客さまのコンテクストを理解したいからです。」

UXリサーチャーが分析する意味

続いて、インタビューで集めた情報を分析するワークショップが開催されました。プロジェクトの大きな方向性を素早く決めるという時間的な制約があったため、先にコンパクトなやりかたで進めたといいます。

分析の場では、参加者で作業を分担し、フラットな立場で一緒に進めるそう。インタビューの観察に参加していたメンバーもいる一方、全員が観察できたわけではないため、どのような情報が収集されたのかを可視化する意味でも、全員で議事録から気になる点を洗い出していきます。そして、似ている情報のグループにラベル付けを繰り返し、共通項を見つけていきました。「私たちのお客さまが、メルカリとその関連サービスの体験を、現状こういうふうに捉えているらしいという発見、気づきになります。」と井手さん。

井手さんはこのあと、リサーチの同じ議事録を元にした追加分析を計画しているそう。「UXリサーチャーがどの部分を担うと、チームの意思決定が意味のあるものになるのか考えています。お客さまの頭の中の、価値観と物事の判断のコンテクストがわかる、インサイトを構造化したものがあれば、具体的に検討をする段階で使えると思っています。」と語ります。様々な役割のメンバーが参加する、簡易的な素早い分析で、大きな流れは共有できているため、「リサーチャーとしての目」を使う追加分析が、今後の意思決定の助けになると考えているそう。

議論する井手さんたち

現在、人類学を勉強している井手さん。調査結果を付箋に書き起こす際には、ふたつの見方があると語ります。ひとつは自分のフレームを通して見る見方。もうひとつは、観察対象の方のフレームを理解するステップを踏んだあとに、自分のフレームと相手のフレームのふたつを重ねた状態で物を見る見方です。後者を「UXリサーチャーの目」と井手さんは表現します。

「対象の方の物の見方を一回味わってみるというプロセスを経てはじめて、あなたの世界の中ではこのように物事が構成されていて、その中でこれがよい、よくないというふうに分類されているんだねと何となく分かるようになります。相手のフレームなしに、自分のフレームワークだけを通して見ると、ただの疑問が浮かぶだけという大きな違いがあります。」と井手さん。

自分のフレームだけで解釈してしまうと、カスタマーの言葉そのものを受け取っていないことになってしまいます。たとえば、アンケート結果など、数字として見える結果を元にインタビューに臨むと、強く意識しない限り、答えを確かめにいってしまう落とし穴があるといいます。

「ふたつの視点を切り替えるのは、正反対の方向性なのでものすごく負担のかかるスイッチングだと思います。だからこそ分担して、リサーチャーとして切り出されている意味があると思います。」

言語の異なる環境で深いコンテクストを共有していくチャレンジ

続いて、どの課題に対処していくべきか選択と優先順位づけが行われていきます。「ここから先はこれからなのですが、優先順位が決まれば、具体的にどのチームのエンジニア達とソリューションについて検討するかが続いていきます。」と井手さん。

メルカリJPでは、エンジニアの約半数が英語スピーカーなのだそう。井手さんのプロジェクトの参加メンバーも多くが英語スピーカーとなるため、リサーチで得たコンテクスト起点の生々しい話をどうやって英語で共有していくかを気にしているといいます。「ワークショップの設計に工夫が必要だなと思っています。ストーリーで話していくしかないと思っています。仮にストーリーをシェアしても、前提の文化を共有できていなければ分からないこともありそうです。」とこれからの課題を語ってくれました。

HCDは共通言語であり、資格受験はひとつのチェックポイント

井手さんが人間中心設計の認定資格を受験しようと思ったのは、前職に在籍していた頃。現在は同僚にUXリサーチャーがいるため、自分と相対化できますが、前職では井手さん1人だけだったため、何ができ何ができていないのか分からなかったといいます。そこで、UXリサーチャーとして2年間仕事をした、自分のスキルチェックをするため、人間中心設計スペシャリストの受験に至りました。

「社会人向けのUXプログラムで教わったり、本業・副業経験はありましたが、やはり独学なわけで、相対的にどうなのかが全然分からないと思っていました。」

資格の取得が転職にも間接的に繋がった、と井手さん。HCDという共通言語で、自分がこれまでやってきた仕事を説明できたといいます。申請書類を書く作業を通して、自分が今まで具体的に何をしたのか、強制的に棚卸しされ、頭の中に物差しができたそう。

井手さん

「自分はこういう順番でこういうことを見いだすために、この活動をしてきたんだと、整理されたんですよね。社内でHCDという言葉を直接使うことはありませんが、経験値を物差しとして使い、次にやることを見据えるフレームワーク的に使っています。」と井手さん。更新の際にあらためて棚卸しすることによって、理想との差分に気が付くかもしれないと話します。

「合格したら終わりではなく、繰り返し重ねていくことに意味のあるチェックポイントだと思います。もうひとつ上のレベルの資格である人間中心設計専門家の認定を受けてみたくなったり、仕事に環境的な変化があれば、今回の受験時のようにまた棚卸しをすることで、次の自分のアクションに使える物差しとして、使えると思います。」

チームとしての一番幸せな動き方を考えるチームプレイヤー

メルカリのUXリサーチャーは3人になったばかり。現在、デザインプロセスをどのように推進するか、これまで積み上げてきたものをもとに再定義されている時期なのだと話してくれました。

「PMやアナリスト、デザイナーと一緒にやることで共通言語を作っていくというのが、いま私がやってることです。やっぱり物をもって話さないと共通言語にならないから、都度こういうやり方だと合意しながら進めています。そうすれば、次に同じメンバーでプロジェクトをするときには、共通理解になっているはずだと思っています。」と話します。

自分はチームプレーヤーなのだとも語る井手さん。「3人いたら3人、10人いたら10人が、どうすると自分たちの凸凹をうまく合わせられるのか、チームとしての一番幸せな動き方を考えたいです。」メルカリは人材が厚く、サポートしてくれるメンバーがいるのでチームプレーヤー的な動きもできるのだといいます。これからのメルカリのUXデザイナーの動きによって、わたしたちが触れるサービスがどのように変わっていくのか、目が離せません。

※文中に記載されている所属・肩書は、取材当時のものです。

人間中心設計専門家・スペシャリスト認定試験

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人間中心設計推進機構(HCD-Net)の「人間中心設計専門家」「人間中心設計スペシャリスト」は、これまで約1,600人が認定をされています。ユーザーエクスペリエンス(UX)や人間中心設計、サービスデザイン、デザイン思考に関わる資格です。

人間中心設計(HCD)専門家・スペシャリスト 資格認定制度

受験申込
2022年11月15日(火)~12月6日(火) 16:59締切
主催
特定非営利活動法人 人間中心設計機構(HCD-Net)
応募要領
https://www.hcdnet.org/certified/

HCD-Netの資格認定制度について