「UIの奥にある、サービスの価値まで伝えられるようにする」 イードのUIデザイン支援

HCD-Net認定人間中心設計専門家の声: 株式会社イード 斉藤聡介

毎年恒例、HCD-Net認定人間中心設計専門家へのインタビュー。2013年は、弊社・株式会社イードの斉藤聡介に話を聞きました。弊社の業務内容や、斉藤のHCDに対する思いが垣間見れます。

  • 羽山祥樹
  • 2013年12月25日

――まず、ふだんのお仕事をご紹介いただけますでしょうか。

弊社・株式会社イードの斉藤聡介。クリスマスデコレーションの施された、弊社1階の受付にて。
弊社・株式会社イードの斉藤聡介。クリスマスデコレーションの施された、弊社1階の受付にて。

商品やサービスの開発に活かすために、ユーザーの情報を調べるのが仕事です。対象物は問いません。手法や、プロジェクトに参加するフェーズもさまざまに対応します。スマートフォンのアプリや、一般的なプロダクト、ウェブサイト、そういったユーザインタフェース(以下、UI)の評価からはじまって、コンセプト設計、具体的な画面設計までサポートします。ログデータの解析など定量的な手法を用いることもします。仕事の範囲は常に広がっています。UIのように形があるものだけでなく、「サービスそのものを考えましょう」という、いわゆるサービスデザインの業務も増えています。

今関わっている内容ですと、アイディア発想を支援するツールづくりもしています。これを使えば、普遍的で、それゆえに解決しにくい問題の解決を考えることもできると思っています。例えば、放置自転車は、誰もが問題だとは思っていますが、なかなか解決方法がない。問題点だけを考えても、なかなか解決できない問題が、世の中には多くあります。じゃあそのような普遍的な問題を解決するために、今までみんなが思いつかなかった解決策を探す、そういうツールをつくっています。

「どういうメリットがあるのか」を、UIで伝えられるものにする

――さまざまな対象に関わっていらっしゃるとのことで、最近のお仕事では、どんなものが多いですか。

やはり、スマートフォンのサイトや、アプリの評価、画面設計の仕事は多いですね。

スマートフォンのアプリでは、UIに、プロモーションの要素が重要という点を、私は最近、とくに強調しています。たんにUIが使いやすい、というだけでなく、UIの奥にあるサービスや機能を、きちんと使いたくなるUIにすることが大切です。

アプリとユーザーとの接点は、すごく少ない。ユーザーにとっては、名も知らないアプリが世の中にいっぱいあって、アップストアの紹介ページをちらっと見て、ちょっと興味を持ってダウンロードする。本当にこれって面白いのかな、使いものになるのかな、という疑いの目を持って、最初のUIに接することが多いのです。

そのため、ユーザーにとって「そもそも、このアプリはどういうメリットがあるのか」を、UIで伝えられるものにする必要があります。

例えば、そうですね…私がよく使っている、音楽ストリーミング再生用のアプリの私の体験で説明しましょうか。

この音楽アプリはストリーミング再生なので、オンラインじゃないと聴けないのがふつうです。当然、オフラインになると、再生が止まります。それを私は当たり前と思っていました。使ってからだいぶたったときに、このアプリにはあらかじめ一定量の曲をダウンロードしておいてオフラインでも聴ける機能があることに何かの紹介記事で気づきました。

私は使っていて、このアプリのオフラインで聴ける機能に気づけませんでした。UIに存在はしてはいたのですが、「これが何?」というところに興味がわかなかったんですよね。

例えば、音楽を聴いているときに、ネット接続が切れたら、単に再生を停止するだけでなく、「オフラインでも聴ける機能がありますよ」とプッシュしてくれれば私でもその機能に気づけたかもしれません。

ユーザーは、どんな機能があるか、細かく探したりはしません。使いやすい、使いづらいという話だけではなく、スマートフォンのアプリのようなものにはこうした機能をアピールする側面がUIには必要だと思っています。

ユーザーは、開発者が思うほどには、機能を使ってはいない

――興味深いお話です。スマートフォンのアプリで、どんな機能があるか、端々まで見ているというユーザーというのは、あまり聞きません。

弊社・株式会社イードの斉藤聡介

ユーザーは、開発者が思うほどには、提供する機能を使ってはいないものです。

スマートフォンのアプリはとくにそうなのですが、ひとつのアプリですべての機能をまかなう必要は、ユーザーの側にはないのです。

例えば、ユーザビリティテストで、天気予報のアプリについて聞いたことがあります。ユーザーは、ふたつのアプリを使っていました。週間天気はこっちのアプリで見ていて、一日の天気は他方のアプリで見ている、という使い分けをしていました。要は、それぞれのアプリの、気に入ったところだけを使っているのです。もちろん、どちらのアプリでも、週間天気も、一日の天気も、機能としてはあるんです。

似たようなアプリをふたつ持っていて、この機能はこっちで使う、というのは、ユーザーに話をきくと、よくあります。ユーザーにとっては、複数のアプリを使うことで解決できているから、ひとつのアプリで全部まかなってほしいとも思ってないし、頑張って使おうとも思わないんです。アプリ内でメニューを切り替えることと、スマートフォンとしてアプリを切り替えることの差が、それほどないからです。

こうしたユーザーの実情を踏まえて、ユーザーにどう使ってもらいたいか、UIで何を訴求するかを考えることが大事だと思っています。

「人間中心設計専門家」の資格で、クライアントから信頼を得やすくなった

――HCD-Net認定 人間中心設計専門家の認定資格が、お仕事に、どのように役立っているか、教えてください。

HCD-Net認定 人間中心設計専門家」の認定資格で、クライアントから信頼を得やすくなった、という実感があります。私は、HCDに関して知識のないクライアントの開発部門や設計部門の方に、話をすることが多くあります。今、お話していたような、ユーザーの本当の姿をお伝えして、納得していただく必要があります。

話やプレゼンをするとき、話し手が信頼できる人物である、という前提をつくることが、説得力に大きく影響します。だから、話し手である私が信頼に足りるという情報を、聞き手であるクライアントに伝える必要があります。

そこで「人間中心設計専門家」として認定をされています、という話をします。それと、人間中心設計はISO規格にもなっています、という話も、興味を持っていただきやすいです。信頼してもよさそうだ、話を聞いてみよう、という姿勢になっていただけます。

とくに、ヒューリスティック評価を行うプロジェクトでは、信頼がより重要です。ユーザビリティテストは「ユーザーがこう言っていました」という結果が出るので「そうなんだ」と思ってもらえます。しかし、ヒューリスティック評価は、言ってしまえば、私個人が「だめだ」と言っているだけにも見えるからです。

私の専門性を示すとき、「人間中心設計専門家」の認定を受けられるだけの業務をしてきた、ということが裏付けになります。私自身は、ユーザビリティテストでいうと、過去に1500人くらい見てきました。自分自身の中にいろんなメンタルモデルが入っていて、いろんな引き出しがあります。それをふまえて、私が言っていることを信頼してもらうのに役だっています。

人間中心設計を理解した人たち同士で仕事をできると、より創造的な仕事になる

――人間中心設計専門家の、今年度の受験者に、メッセージをお願いいたします。

弊社・株式会社イードの斉藤聡介

今、人間中心設計に携わる人たちは、UIをデザインする人だけではないですよね。広い分野の方々に興味をもってもらっています。人間中心設計は、適用する対象を広げやすいと思います。ここまでお話したように、UIの使いやすさだけでなくサービスの価値を伝えるだとか、あるいはサービスそのものを考えるような仕事もあります。

人間中心設計のISOで規定されている内容は、大まかにはプロセスだけで、具体的な手法までは規定していません。私は、そこがすごく好きです。具体的な手法は、携わる人間の頑張りにまかされています。

だからこそ、サービスデザインまで範囲を広げたりとか、可能性をいっぱい持っているのだと思います。

資格者が増えて、人間中心設計がさらに広まることで、人間中心設計という共通言語をわかった人同士で仕事ができる機会が増えると思います。人間中心設計の考え方やプロセスを理解した人たち同士で仕事をできると、より創造的な仕事ができると期待しています。

人間中心設計を理解した人たちが増えるというのは、私が仕事を受けるという立場で考えてもワクワクします。そういう人が増えるのは、本当に楽しみですね。

――ありがとうございました。

取材・文・撮影:人間中心設計推進機構(HCD-Net) 専門資格認定委員会 羽山祥樹様
取材日:2013年12月5日

※文中に記載されている所属・肩書は、取材当時のものです。

人間中心設計専門家・スペシャリスト認定試験

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人間中心設計(HCD)専門家・スペシャリスト 資格認定制度

受験申込
2024年11月1日(金)~11月21日(木) 16:59締切
主催
特定非営利活動法人 人間中心設計機構(HCD-Net)
応募要領
https://www.hcdnet.org/certified/apply/apply.html

資格認定制度について
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