識者インタビューからひも解く音声アシスタント(3)

スマートスピーカーの行く末

なかなか普及しないスマートスピーカーについて、その要因や他のデバイスとの棲み分け、「スマートホーム領域のハブ」としての可能性を考えました。また、音声アシスタントの来るべき姿についても考えます。

  • UXリサーチ事業部 三浦志保
  • 2022年6月23日

前々回前回に続き、音声AIに関する知見が豊富なロボットスタート株式会社中橋さんをゲストに迎え、株式会社イード貞平(さだひら)も交えながら音声アシスタントをめぐる状況について考えます。3回目となる今回は、なかなか普及しないスマートスピーカーの現状と行く末について考えます。

【参加者】

  • 中橋さん ロボットスタート株式会社 代表取締役社長
  • 貞平 株式会社イード リサーチ事業部 チーフコンサルタント
  • 三浦 株式会社イード HCD事業部 リサーチャー ※聞き手

(以下、敬称略)

停滞する国内のスマートスピーカー市場

三浦:前回は車内の音声アシスタントの話、なかなか利用率が上がらないという話をしました。今回はスマートスピーカーについてお話しできたらと思います。この領域でここ数年のトピックはありますでしょうか。

中橋:そうですね。スマートスピーカーに関しては、GoogleとAmazon Alexaの2つになっている感じですね。AppleもHomePodを出しているけれど、シェアは大きくない。使う人は徐々には増えているんだろうけど、全然予想通りには伸びていなくて、アメリカ市場に追いつく感じはしないですね。ラインナップも、アメリカで新製品が出る度に一年後くらいに国内でもリリースされるけれど、それほど売れてはいない。

貞平:Amazonで言うと、プライムデーみたいな安売りの時に一定台数出ている印象はあるけれど、劇的に普及している感じはしないですね。

三浦:そうですね。ちなみに総務省のデータでは、ここ数年スマートスピーカーの保有率は15%前後を行き来しています。2021年は17.6%でした。

総務省「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」各年度版を基に作成
スマートスピーカーは「家にあり自分も利用している」+「家にあるが自分は利用していない」の計(2021年の内訳:前者10.3%、後者7.3%)

スマートスピーカー利用者は1割、「持っていても使わない」人もいる

中橋:そんなに使っている人います?

三浦:さすが、鋭いですね。実は先ほどの総務省のスマートスピーカーの保有率は、「家にあり自分も利用している(10.3%)」と「家にあるが自分は利用していない(7.3%)」の合計値なんです。

中橋:ああ、なるほど。

三浦:イードが実施した調査(※記事の最後参照)のデータでは、保有率は12.1%、月1回以上使っているのは9.5%でした。つまり総務省のデータでもイードのデータでも、実際スマートスピーカーを「使っている」のは1割くらいという結果です。

貞平:「持っていても使わない」という人も一定数いるんですね。

三浦:そうですね。ちなみに持っているのに利用頻度が低い、もしくは使っていない人にその理由を聞いたところ、1位が「使う機会がない(40.7%)」、2位が「使うメリットを感じない(31.4%)」でした。

三浦:「買ってはみたものの、今までのやり方(手での操作など)を変えてまで使うメリットは感じなかった」ということですかね…?

貞平:そうかもしれないですね。それと先ほどプライムデーの話をしましたが、その他でもいろいろなところでキャンペーンをやっていたし、スマートスピーカーを安く手に入れられることも多かったから、使うモチベーションがあまり高くないまま保有に至ったという人もいそうです。

三浦:なるほど。

スマートスピーカーはスマートホーム領域のハブになり得るが、「家電操作をしている」のは3割弱

三浦:ところで先ほどアメリカの話が出ましたが、やはりアメリカは日本と少し事情が違うんでしょうか?

中橋:そうですね、少なくともアメリカでは本気でスマートスピーカーのシェア争いをしています。スマートホーム領域をコントロールするハブとしての位置づけ、重要性は変わらないので。Amazonも陣地取りをやっているし、Appleも黙ってはいない感じですよね。

三浦:なるほど。2020年にお話を伺ったときも、アメリカは家が大きいから、ガレージやら家電やらセキュリティやらを離れたところから音声で操作できるメリットが大きいという話が出ましたね。アメリカでなくても日本でも、いろいろな家電に接続してスマートホームの中心として使う方が、単に音楽を聞いたり天気を聞いたりするだけより便利ですよね。先に紹介したイード実施の調査でも、家電とスマートスピーカーを接続して「家電操作をしている」人は満足度が高いという結果が出ています。

三浦:ただ現実には、スマートスピーカー利用者でも家電操作をしているのは3割弱です。ちなみに最も多い利用用途は「音楽再生」でした。スマートスピーカーを買っても、「スマートホームのハブ」としての機能は使わずに「音楽再生しかしていない」という人も多そうです。

音楽のサブスク加入者増加により「スピーカー(オーディオ)」のニーズは高まる?

中橋:まあでも、単にオーディオとして使うっていうのもいいと思いますけどね。今、オーディオ単体を買う人って少ないじゃないですか。イヤホン以外で音楽を聞くスピーカーを買うときに、普通のスピーカーを買うくらいならスマートスピーカーを買う、という考えもあると思いますよ。一部を除いて、安いし。売る側も戦略的に売っていて、何なら原価でもいいと思っている節があるので。例えばAmazonのEcho Studio (エコースタジオ)とかは高いけど、すごく音がいいんですよ。だから他のいいオーディオを買うことを考えるとそれほど高くない。

三浦:なるほど。今は音楽のサブスク加入者が増えているから、追い風になりますね。

中橋:そうですね。ポッドキャストとかAmazon MusicとかSpotifyとか、音楽コンテンツはたくさんあるし、聞く人も増えている。音声アシスタントの利用率は上がっていなくても、音声コンテンツ自体の利用は増えているし、成長しているんです。

三浦:Clubhouseとかもそうですよね。

タブレットと競合する「画面つきスマートスピーカー(スマートディスプレイ)」

三浦:先ほどお話しいただいたように、アメリカはスマートスピーカー先進国というか、普及率も3割を超えて4割に近づいているようですが、ここ数年伸びは鈍化しているようです。

貞平:まあ、そもそも「スマートスピーカーでしかできないこと」ってあんまりないですよね。音楽だってスマホで聞けるし、音声アシスタントもスマホで使える。家電だってリモコンで操作できる訳だし。

中橋:「スピーカー」という点で言うと、音にあんまりこだわりがなくて「スマホの音でいいか」っていう人もいっぱいいますしね。もちろん、イヤホンとかAirPodsの方がいいという人もいる。

貞平:つまりスマートスピーカーはスマホなどと違って、「どうしても必要なもの」ではないですよね。

三浦:そうですね。そう考えると、今後もスマートスピーカーが劇的に普及することはなさそうですね。ちなみに、例えばGoogle Nest HubとかAmazonのEcho Showなど、画面が付いたもの(スマートディスプレイ)も出ていて、画面が大型化されたりもしていますが、こちらに活路はありそうでしょうか。

貞平:うーん、ただそうなってくると、「スマートスピーカーの存在価値って何?」ってなりますよね。「タブレットで良くない?」って。

中橋:おっしゃる通りで、確かに画面つきのスマートスピーカーも増えていて、安いし、ビデオ通話が簡単にできるし、動画も見られるし、人気が出る可能性もあるとは思います。でも、「それだったらスマホやタブレットでいいよね」という話はついてまわると思います。例えばキッチンで手が汚れてて手が使えないけど、画面でレシピを見たいというようなシーンがあったとして、僕だったらタブレットを使います。

三浦:なるほど…。Amazon Fireだとタブレットでも音声アシスタントが使えますもんね。

中橋:そうですね。その分、「棲み分け」は出てくると思いますよ。だから、スマートスピーカーにはスピーカー(オーディオ)としての存在価値があると思います。そういう意味でも、個人的にはスマートスピーカーに画面はいらなくて、スピーカーとしての性能がいいことの方が大事です。画面が見たければタブレットがあるし、テレビやPCなど「ディスプレイ」は他にもあるので。

三浦:なるほど。

15.6インチのディスプレイがついた「echo show 15」

音声アシスタントはあらゆるデバイスにつく「当たり前の機能」になる

三浦:音声アシスタントというか、AIを搭載するデバイスとして、スマートスピーカー以外の動向はどうでしょうか。例えば、ロボットスタート様の社名にもなっているロボットなどはどうでしょうか。先日、アシモが引退してしまいましたが…。

中橋:残念ながら家庭用のコミュニケーションロボットはヒット作には恵まれていませんね。

貞平:ペッパーくんがドイツのメーカーに買収されたという報道もありましたね(※後に売却は事実ではないという旨のコメントが発表された)。

中橋:人型のコミュニケーションロボットよりは、しゃべらないペットロボットに注目がシフトしているように思います。

三浦:そうなんですね。「しゃべらないペットロボット」だと、音声アシスタントは必要ないですね。では、ロボット以外ではどうでしょうか。

中橋:さっきタブレットの話が出ましたが、アメリカではAmazonのFireタブレット以外でも、IBMとかレノボとかが出しているタブレットにもAlexaが搭載されていたりするんです。タブレットだけでなく、PCにもAlexaが内蔵されていたりする。今後、音声アシスタントは「スマートスピーカーなど特定のデバイスについた特別な機能」ではなくなり、いろいろなデバイスに内蔵されていくと思います。スマートスピーカーは普及しなくても、音声アシスタントは普通に広がっていくと思います。そのためにお金をかけて作られている訳ですから。つまり、音声アシスタントが使えることが特別なことではなく、「当たり前の機能」になっていくと思います。

三浦:なるほど。では、先の話とあわせて考えると、音声アシスタント(AIアシスタント)はスマートホームのハブとしての役割を担っていて、今後スマートホーム市場が成長していく上で重要な位置づけにある。けれど、それがスマートスピーカーとは限らない、ということですね。今後、音声アシスタントはいろいろなデバイスに内蔵されていくだろうから、どのデバイスを選ぶかは使う人次第で、タブレットでもいいしスマホでもいい、さらにどのデバイスからもアクセスできるようになっていくということですね。

中橋:そうですね。

三浦:今回は3回にわたり、貴重なお話しを聞かせていただきました。ありがとうございました。また機会があれば、ぜひまたこういった機会を設けさせてください。

中橋:はい、ぜひ。

まとめ

  • スマートスピーカーはスマートホーム領域のハブとして可能性を秘めている。
    • しかしスマートスピーカー利用者でも家電操作をしているのは3割弱にとどまる。
  • 音声アシスタントは様々なデバイスに内蔵される当たり前の機能となっていく可能性がある。
    • デバイスの棲み分けが進み、スマートスピーカーはスピーカーとしての価値が見直される可能性がある。
    • 「スマートホーム領域のハブ」のバリエーションも広がると考えられる。

調査概要

調査手法
アンケートパネルへのWebアンケート
調査期間
2022年5月13日~5月19日
回答者
全国20~69歳男女
有効回答数
2,839s
回答者構成比
性年代均等回収

この調査結果の詳細