識者インタビューからひも解く音声アシスタント(2)

「Hey Siri、○○して」に抵抗を感じる日本人

日本人の4割は「音声アシスタントに話しかけることに抵抗を感じている」。その背景として「ハイコンテクスト文化」「話すより書く文化」などが挙げられます。また、「人並み」を期待される音声アシスタントの難しさについても考えます。

  • HCD事業部 三浦志保
  • 2022年6月1日

前回に続き、音声AIに関する知見が豊富なロボットスタート株式会社中橋さんをゲストに迎え、自動車業界に詳しい株式会社イード貞平(さだひら)も交えながら、音声アシスタントをめぐる状況について考えます。2回目となる今回は、自動車の音声アシスタントの利用状況を踏まえながら「日本で音声アシスタントの利用率がなかなか上がらない理由」について考えました。

【参加者】

  • 中橋さん ロボットスタート株式会社 代表取締役社長
  • 貞平 株式会社イード リサーチ事業部 チーフコンサルタント
  • 三浦 株式会社イード HCD事業部 リサーチャー ※聞き手

(以下、敬称略)

なかなか普及しない、自動車の音声アシスタント

三浦:2019年実施のアンケート調査では、車内で音声アシスタントを使っている人は少ないという結果でしたが、それから2年半経った今でも、まだ音声アシスタント(AIアシスタント)が普及していません。Apple CarPlayやAndroid Auto(※)を使う人は増えている感じがしない。イードが実施したアンケート(記事の最後を参照のこと)では、自動車を運転する人のうち、CarPlayやAndroid Autoなどのアプリを使っている人は5%しかいませんでした。(※Android Autoは今後廃止され、Googleアシスタントの運転モードに移行する)

貞平:今、トヨタがディスプレイオーディオの標準化を進めていて、CarPlayなどを使える車種はどんどん増えているんですけどね。

三浦:そうなんですね。ちなみにディスプレイオーディオとは、具体的にどんなものなんでしょうか。

貞平:単独では「オーディオ」として音楽を聞くくらいしかできなくて(外部メモリを使えば映像も見られる)、ナビの機能は使えない。ナビを使いたいときは、スマホに接続して、CarPlayなどのアプリを使うしかないんです。だからアプリ利用者が増えそうなものだけど、実際はナビユニットを後付けして、今までの車載ナビと同じように使う人が多いみたいです。

三浦:やっぱりみんな慣れたものを使いたいんでしょうか?

貞平:そうですね。慣れは大きいと思いますよ。特に日本は車載ナビの文化が浸透していて、使いこなしている人が多いから、わざわざ(スマホの)音声アシスタントを新たに使ってみようという人が少ないのではないでしょうか。

三浦:なるほど。元々スマホでナビを利用することが多い地域とは少し感覚が違いそうですね。自動車とスマホが結びつく感覚があまりないのかもしれません。

貞平:そうですね。

「Hey Siri」に抵抗を感じる日本人、国民性の違いが利用率の差を生む?

三浦:音声アシスタントの話になるときに、「日本人は公共の場で“Hey Siri”など声を出すことを恥ずかしがる」という話しが出てきがちですが、車内はプライベートな空間だから、人目はあまり関係ないですよね。家族や友だちはいる可能性がありますが。それでも利用率が低いのは、さっき話した慣れの問題の他に、やっぱり「音声アシスタントに話しかけること自体に抵抗がある」人が多いんだと思います。人目云々の話以前に。前述のアンケートで「音声アシスタントに話しかけることに抵抗があるか」聞いたところ、42%が「抵抗がある」と答えていました。

三浦:ちなみに、話しかけた経験とかけあわせて見ると、話しかけた経験が多いほど抵抗を感じる割合が減るのは当然として、「日常的に話しかけている」人でも2割弱は抵抗を感じているという結果でした。

中橋:うん、やっぱり「Hey Siri」って言いたくないよね。

三浦:ちょっと抵抗ありますよね。

中橋:そもそも、「声を出す」「話す」ことへのハードルもあるんだと思います。例えば中国だと、チャットをするにも音声で入力しますからね。文字入力するのではなく。街中で普通にビデオ通話もするし、電車の中で電話もするし、そこから感覚が全然違います。

三浦:日本人は黙々とテキストチャットをしていますもんね。

貞平:日本人は、声に出して言うほうがめんどくさい、手で入力したほうが早いっていう感覚がどこかあるんでしょうね。「話すより書くほうが楽」というか。

三浦:そうですね。2020年にお話しを伺ったときも、国民性の違いが音声アシスタント利用率の違いにつながっているという話しが出ました。

貞平:そういえば、国別の話でいうと、アメリカと中国は音声アシスタント利用率が高いのは知っていましたが、ヨーロッパもあんまり高くないみたいですね

中橋:ヨーロッパはGDPR(一般データ保護規則)で個人情報収集に関するいろいろな規制を敷いていて、Googleに制裁金を科したりしていますからね。事業者側にもハードルがあるのかもしれません。まあ、アメリカと中国の利用率が高いということなんでしょうね。

三浦:あとインドも高いみたいです。

中橋:そうでしたね。そう考えると、偏見だけどアメリカ人と中国人とインド人っていう、よく喋るポジティブな国民性も関係しているんでしょうね。日本人やヨーロッパ人などはおとなしいというか。

貞平:確かに。その説でいうと、ヨーロッパの中でも例えばラテン系のスペインなどは利用率が高い可能性がありますね。

三浦:そうですね(スペインはドイツやイギリスより音声アシスタントの利用率が高いことを示すデータもある)。

ハイコンテクスト文化に生きる日本人は、具体的で明確な指示が苦手

三浦:部署内で音声アシスタントの話になったときに、「日本はハイコンテクスト文化なので、例えば『Hey Siri、〇〇を〇〇して』というような具体的で明確な指示を出すのに慣れていない」という話が出てきたんです。

中橋:それはありますね。使い慣れていないと、普通の日本人がいきなりうまくは使えないと思います。

三浦:そうですよね。「例の件お願いします」や「これやっといて」など、主語はもちろん、述語や目的語も略されたり、曖昧な表現になることが多いと思うんです。だから、まず音声アシスタントに指示を出す時点で、ローコンテクストな文化圏より負担が大きいんじゃないかと。何をどう言うか、一瞬考えないといけない。

中橋:確かに。一理ありますね。

三浦:そもそも指示しなくても、相手の意図を察して動くのがハイコンテクスト文化でもありますし、「人に指示する」という点でもハードルがありそうです。

中橋:そうですね。でも使っていくうちに慣れますけどね。「こう言えばいいんだ」って。

三浦:リテラシーが高い人はすぐに慣れるかもしれませんが、そうでないと慣れるまでに使うのをやめてしまうかもしれません。2019年実施のアンケート調査でも、「慣れたら便利」という域まで行くと継続利用につながるけど、そこに至らない場合、やっぱり「手で操作したほうが早い」ということになって利用をやめてしまいがち、という結果が出ていました。

中橋:そうでしたね。

図
2019年実施アンケートの「音声アシスタントを使い続けていない理由」。最も多い理由は「手で操作した方が早いから」。(※回答者:音声アシスタント利用経験はあるものの、継続利用はしていない人)

レクサスのコンシェルジュサービスに見る、望ましい音声アシスタントの在り方

中橋:ところで、自動車の話に戻ると、レクサスオーナーの友だちと話しをしていると、レクサスのコンシェルジュサービス(レクサスオーナーズデスク)がいい、という自慢話をよく聞くんですよ。「おいしいレストランをセットして」というと、ナビを遠隔で設定してくれて、予約もしてくれる。

三浦:AIではなく、リアルの人間が、ですよね。

中橋:そうです。それを、レクサスユーザーは「良い」って言うんですよ。これって、前に話したセレンス・コパイロットよりすごいと思うんですよ。結局ドライバーが求めていることってこういうことだよね、と思ってしまうし、ここに何か音声アシスタントの価値を問うヒントがありそうです。

出典:LEXUS ‐ レクサストータルケア|コンシェルジュ

三浦:なるほど、興味深い話ですね。

中橋:ボタン1個でスムーズにつながって、すぐに「はい、レクサス・コンシェルジュです」って出てくれる。音声認識率もほぼ100%だし、反応も速いし、対応の正確さも全然違うし、できることも違う。だから完璧なんですよ。

三浦:あと、やっぱり機械に話しかけるより人に話しかけたいんですかね。

中橋:そうですね、人のほうが気分もいいですしね。ただ、音声アシスタントがダメと言っているわけではないんですよ。その逆で、レクサスのコンシェルジュサービスが必要とされているということは、対応や性能次第で、やっぱり音声アシスタントにもニーズがあるということだと思うんです。

三浦:なるほど。

中橋:だから、セレンスがこれからもっと高性能な音声アシスタントを出していくことを期待しているんです。

貞平:それに、AIのほうがいいところもありますしね。人が相手だと「ナビの設定1つで電話したら申し訳ない」「さっき電話したばっかりなのに、“またかけてきた”と思われたらどうしよう…」などと思ってしまう(笑)。

三浦:確かに(笑)。

中橋:そこを構わずいける人じゃないとレクサスを買えないんですよ、きっと。

貞平:レクサスユーザーはエグゼクティブな人が多いから、普段から人を使い慣れていて、指示することに慣れているという見方もできますね。

三浦:その可能性もありますね(笑)。では、レクサスのコンシェルジュサービスのことを考えると、今の音声アシスタントは性能面で人の柔軟性や対応力などには到底敵わないけれど、性能が「人並み」になったら利用率が上がるかもしれないということですね。ただ、「人並み」って技術的にかなり難しい話ですよね。

中橋:そうですね。

三浦:比較対象が「人」になってしまうことが音声アシスタントの難しいところかもしれませんね。他の技術に対してはそこまで具体的な期待イメージはないのに、音声アシスタントやAIなどに関しては、SFなどもたくさん見てるし、どうしても期待値が高くなりがちです。そこがネックなのかもしれません。

中橋:そうかもしれませんね。

まとめ

今回は、以下のような話が出ました。

  • CarPlayやAndroid Autoなどの自動車の音声アシスタントを利用する人は1割に満たない。
  • 音声アシスタントに話しかけることに抵抗を感じる人が多く、この抵抗感が利用率の低さにつながっている可能性がある。
  • 日本はハイコンテクスト文化であり、日本人は音声アシスタントに指示を出すことが苦手である可能性がある。
  • 音声アシスタントは「人並み」になることが期待されるが、技術的なハードルは高い。

次回は、なかなか普及しないスマートスピーカーについて、アンケート調査の結果も踏まえながら「普及を阻む要因」や「今後の在り方」について考えてみたいと思います。

調査概要

調査手法
アンケートパネルへのWebアンケート
調査期間
2022年5月13日~5月19日
回答者
全国20~69歳男女
有効回答数
2,839s
回答者構成比
性年代均等回収

この調査結果の詳細

変更履歴

2022年6月1日:「ヨーロッパもあんまり高くないみたいですね」の箇所のリンク先を変更しました。