ISO 13407の翻訳作業について(JIS Z 8530の成立経過)

  • 黒須教授
  • 2000年11月1日

ISO13407は1999年6月に国際規格(IS)として成立した。それを受けて、ISO/TC159の日本側組織である人間工学会のJIS原案作成委員会第三分科会が、同年7月に、ISO13407を翻訳してJIS Z8530とするための作業を開始した。このJIS規格は2000年11月20日に発行されることになっている。今回は、その翻訳作業に関する経緯などを書くことにしたい。

この分科会は、私を主査とし、三菱総研の堀部さんが幹事となり、日本規格協会の橋本さん、ISO/TC159の国内対策委員会の委員長である神奈川大学の堀野先生、SC4分科会の主査である沖電気の中野さん、それに各工業会を代表する12名の委員、および関係者として、通産省工技院標準部の渡邊さん、というメンバーでスタートした。

7月23日の第一回分科会では、私自身を含め、JIS原案作成の作業に関与するのが初めての方も多かったため、JIS原案作成のための手引きや、関係する資料として、JIS Z8301という規格票の様式やJIS Z8521という人間工学-資格表示装置を用いるオフィス作業-使用性の手引き、などを会議資料として、今後の取り組み方などを議論した。議論の中で特に問題になったのはusabilityという単語の訳し方だった。ISO13407のベースとなっているISO9241-11に対応するJIS規格であるJIS Z8521では「使用性」という訳語が使われており、それを踏襲するかどうかが議論の的になった。

この使用性という訳語は、このJISだけでなく、自動車工業会などの分野ではusabilityの訳語として用いられているが、一般には、特に最近はユーザビリティというカタカナ訳の方が頻繁に用いられるようになってきており、訳語を規範的に設定するか、実態に即して設定するかが焦点となった。議論の結果、実態に即して設定するという方針に収束したが、ユーザビリティという用語を用いた出版物も幾つか出てくるようになった現時点で振り返ると、それは妥当な選択だったように思われる。

9月16日に開かれた第二回分科会では、ISO13407の試訳が提示され、これをベースにして翻訳作業を行ってゆく方針が決定された。当初は、全員でこの試訳を議論し、たとえばevaluationは評価、auditは監査、assessmentは審査とするとか、jobは職務、taskは仕事とする、といった基本的な訳語をどうするがが議論の中心となった。こうした作業の中で、翻訳の基本的スタンスは明確になっていったが、あまりにも時間効率が悪いということで、途中で、残りの部分を3分割し、委員を3分して、並行作業とすることに方針を変換した。10月13日の第三回分科会、11月16日の第四回分科会、12月22日の第五回分科会、1月27日の第六回分科会と回を重ねながら、必要に応じて対訳語彙集などを作りながら、訳文は次第にまとまったものになってきた。

その後、完成した訳文について、主査と事務局とで全体を通したチェックを行い、文面に加筆修正を加え、付録を追加して、規格協会とSC4主査にその内容をお送りしたが、それは当初の予定からやや遅れた2000年4月のことであった。

この翻訳作業の間、委員や関係者の皆さんは、ボランティア作業に非常に熱心に協力していただき、主査としては大変感謝している。また、規格の作成という初めての作業を通していろいろと勉強させていただくこともできた。

翻訳をしながら改めて思ったのは、この規格が抽象的に表現されており、これを具体的な認証活動につなげてゆくためには、もっとブレークダウンした内容を持った認証基準の策定が必要だろうということだった。現に2000年に入ってからは、ドイツのTUV RheinlandのThomas Geis氏の講演会が二度開かれた。彼は、その講演の中で、成熟度を基準にした認証基準の考え方を提示し、日本企業から出席した多数の聴衆は、それを理解しようと熱心に聴講しておられた。

この考え方とは多少ことなるスタンスで、現在、人間生活工学研究センター(HQL)でも、私を委員長とする委員会で、認証基準の設定作業を急いでいる。その意味では、日本における認証活動は、来年度あたりから徐々に開始されてゆくことになるといえるだろう。そのためにやらねばならないことは、まだ多数残されている。

認証基準の策定もそうだが、認証活動自体をどのような運用形態で実施していくのか、認証と結びついた企業コンサルテーションをどのようにするのか、などなどである。また、企業関係者には、比較的認知されるようになったISO13407だが、まだ一般のユーザにおいては、その認知度は極めて低いといわざるをえない。そうしたPR活動をどのように進めていくか、という点も、今後の大きな課題の一つである。