ユーザビリティという概念の三つの水準

ユーザビリティという概念は、実は人によって様々に使われており、私はそれを少なくとも三つの水準に区別できるのではないかと考えている。

一つの水準は、ユニバーサルデザインやアクセシビリティやバリアフリーの分野で使われているもので、まさにuse+ableという語源どおりの使い方といってもいいものである。障害をもっている人や、機器の利用に困難を覚える人にとっては、使いたい機器が利用できるようになることがまず当面の目標である。

目が見えなくてもコンピュータがなんとか利用できること、車椅子を利用していても銀行のATMを利用できること、高齢になって小さな文字がみえにくくなっても画面やリモコンの表示が読めること、色盲であっても機器の表示に使われている色の区別がつけられること。こうした問題は、これらの障害や困難を抱える人々にとっては一つの大きなバリアであり、それを乗り越えることに当面の目標がある。このような意味では、この水準でのユーザビリティは「利用可能性」というように訳してもいいだろう。

次の水準は、ニールセンや私が使用しているような意味におけるもので、機能や性能というユーティリティ性と対比的に使用されるような水準である。ここでは、ユーティリティが機器やシステムのプラスの側面であるのに対して、マイナスの側面をなくしてゆくことがユーザビリティであり、そうした意味においてuse+ableになることをさしている。

これまで一般的に使用されてきたユーザビリティという概念は、だいたいこの水準にあったように思われる。たとえばユーザビリティテスティングという評価手法は、機器やシステムの問題点を見つけだすものであり、マイナスの側面を摘出するための手法である。いいかえれば、ユーザビリティテスティングによってユーティリティ性を評価する、というのはちょっと理解が困難な状況でもある。

この水準でのユーザビリティは、ユーティリティ性と切り離されているため、企業の経営者の視点からすると、製品の魅力には直接むすびつかず、したがって、そのためにあまり人や資金を投入する意義が感じられないところでもあった。もちろん、欧米においては、こうした面についても理解が深く、ユーザビリティテスティングルームの普及やユーザビリティ要員の採用の程度において、日本を凌駕してきたことは良く知られている。この水準でのユーザビリティは、これまで人間工学や品質管理の分野で使用されてきた「使用性」という訳語があてはまるだろう。

第三の水準は、ISO13407によって使用されているもので、効果性と効率性と満足感とから構成される、という概念である。この使い方は、結果的にユーティリティ性をも包含する概念であり、use+ableというこの言葉の語源からすると拡大解釈の気味があるように思われる。ニールセンの概念体系では、この内容に対してはusefulnessという語があてられている。あるいは、さらに上位のacceptabilityという語が対応するかもしれない。この水準に対する訳語としては、私は「使い勝手」という言葉が適当かと考えている。なぜなら、ユーザビリティの改善によっても使い勝手は向上するし、ユーティリティ性、すなわち新機能の搭載や性能の向上によっても使い勝手は向上するからである。

この第三の水準が使用されるようになったのは、前述のようにISO13407が一つのきっかけになったわけだが、それによってユーザビリティという言葉は製造業における一つの重要なキーワードとしての地位を確立したようにも思う。この水準で使われる場合には、ユーザビリティは、ユーザの望むものを提供することであり、したがって従来のマーケティングの活動を包含することにもなるし、CSと同等の意味をもっているとも考えられる。こうなると企業の経営者にとっても製品の価値を高める目標概念として理解でき、結果的に企業内におけるユーザビリティ活動に弾みがつく、というような効果をもたらした。

個人的には、機器やシステムの開発においては、この第三の水準を目標にすることが大切だと思っているが、ユーザビリティという用語が適切かどうかについては、未だに疑問を感じている。むしろ使い勝手という便利な日本語を活用して、ユーザビリティ工学の代わりに使い勝手工学などという使い方をしてもいいのではないかと考えている。

この概念に関して最後に指摘しておきたいのは、「利用可能性」として利用されているアクセシビリティ分野での捉え方である。たしかに、これまで利用できなかったものが利用できるようになることはとても意義のあることではある。しかし、本来は、障害や困難をもった人々にとっても効果的で効率的で満足のゆく生活がもたらされることが必要であり、その意味では「利用可能性」としてのユーザビリティは、そこにとどまることなく、アクセシビリティ分野においても「使い勝手」として認識されるべきだろう、と考えている。

公開: 2000年12月18日
著者: 黒須教授

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