ユーザビリティとUXの関係 その1

この品質特性図づくりは、ISO 13407に出会った1990年代からの僕のライフワークの一部でもある。ここでは、どのようにしてこの図に至ったかという経緯の説明も交えて、少し詳しく説明を書かせていただこうと思う。それを知って頂くと、この図の理解もより深まると思う。

  • 黒須教授
  • 2017年11月7日

品質特性図

2014年11月以降、ユーザビリティUXなどに関する説明をするための図を作ってあちこちで利用している。2015年にはHCI Internationalでも発表したが、少しずつ改変をしてきて、現在、それは図1のようになっている。

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図1 品質特性図

この図は大げさにいえば、ISO 13407に出会った1990年代からの僕のライフワークの一部でもある。そこで、このU-Siteでは、どのようにしてこの図に至ったかという経緯の説明も交えて、少し詳しく説明を書かせていただこうと思う。その経緯はまだどこにも書いていないし、それを知って頂くと、この図の理解もより深まると思うからだ。なお、この図1についての読み方は、次回に説明させていただく。

ISO 13407とISO 9241-11との出会い

そういった次第で、過去にさかのぼってPPTファイルを調べてみた。僕がISO 13407の情報に触れたのは1990年代の半ばで、ISO TC159/SC4/WG6の委員会に参加して、まだISになる前の段階で規格化に関連した情報を知った時である。

しかし、PPTを見ていくと、1997年からしばらくの間はISO 13407の、したがってISO 9241-11の情報をそのまま皆さんに紹介するに留まっていた。まるでISOの広報マンのような仕事をしていたなあ。でもいいタイミングででてきたいい規格だと思っていたので、それはまあ仕方ない。1999年に出した『ユーザ工学入門』でもISO 13407広報担当のスタンスは変わっていない。タイトルを『ユーザビリティ工学入門』にも『人間中心設計入門』にもせず、『ユーザ工学』という名前にした程度のオリジナリティだった。

すこしずつの改変

2002年11月にAPCHIで提示した図2では、Nielsenのモデルを改変して、Emotional Acceptabilityという概念を出している。どうもこのあたりから、ユーザビリティのなかに満足感を含めることに対し、違和感をもち始めていたようだ。満足感というものが、ユーザビリティのなかに含まれるほど小さいものとは思えなかったのだ。たしかにユーザビリティが高ければ満足できるだろう。しかし満足感というのは機能性とか審美性など、他のことで高くなることもあるだろう。ユーザビリティという枠のなかに閉じ込めておけるほど小さなものではないだろう、という考えだった。

ただ、この頃はマイクロシナリオ法などの手法開発、ユニバーサルデザインなどの考え方に注意が向いていて、ユーザビリティに関する概念モデルは基本的にはISOのものを使っていた。

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図2 APCHI(2002.11.02)で提示した概念図

ところが2005年になると図3のようなものを提示しはじめた。当時の僕の頭のなかにはNielsenのユーティリティとユーザビリティの話が入っていて、それと同時にCIFの会議ででてきたsmallユーザビリティとbigユーザビリティという話も入っていた。そのタイミングで描かれた図3は、ISO 9241-11の考え方を引き継ぎ、まだ満足をユーザビリティの範囲内には留めているものの、それは有効さや効率の結果として生じるものであること、さらに審美性や動機付け支援、信頼性、安全性、費用などの影響をも受けるものであることが主張されている。つまり、この図は、まだNielsenとISOという先人達の枠から出たいと思いつつも思い切って出ることができず、妥協的産物として描いたものだった。

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図3 2005年に提示した概念図

この考え方は、翌2006年に図4のようなものに変化した。ここでは、客観的特性としての有効さや効率、そして費用や安全性、信頼性などと、主観的特性としての嬉しさや審美的印象、愛着、動機付け、価値観などを総合したものとして満足感を位置づけており、さらに当時から頻繁に語られるようになったUXもCSと並べて位置づけてある。

満足感については、有効さと効率と同列におかれるものではなく、他の特性の影響を受けるものだという考えが少しだけ明確に示されている。ただ、まだISO 9241-11の枠は残っていて、有効さと効率と満足感を一つの枠に含めている点は、自分ながらおかしなものだと思う。

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図4 2006年に提示した概念図

この図4が進化したのが図5である。これは2014年にPPTに使っていたものだから、2006年から8年間という長い間、この枠組みにもとづいて考えていたことになる。基本的には図4と変わっていないけれど、満足感をユーザビリティの枠から外し、さらに客観的品質特性と主観的品質特性を区別して満足感を後者に位置づけている点で、ようやくISO 9241-11の「呪縛」から脱したことが分かる。

なお、この図のような形で満足感を最上位に位置づけたのは、効率的なら満足出来るけれど満足出来るから効率的だという保証はないこと、有効なら満足出来るけれど満足出来るからといって有効だと確実には言えないこと、信頼性が高ければ満足できるけれど満足出来るからといって信頼性が高いとはいえないこと、快適なら満足出来るけれど満足出来るからといって快適とは限らないこと、等々の概念依存性分析(CDA)を行った結果である。

また図4にあったUXが消えてしまっているが、当時はすでにUX白書をまとめるためのDagstuhl Seminarに参加していた(2011年)にも関わらず、UXという概念の位置づけに迷いがあった時期といえる。

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図5 2006年に提示した概念図の発展形(2014年に提示したもの)

(「ユーザビリティとUXの関係 その2」へつづく)