人間中心設計の運用の進め方

ISO13407が目標としているのは、企業における設計活動が人間中心設計(HCD)の考え方にもとづいて行われるようになることであり、その動きが企業内に定着することである。したがって、関係者が企業側に求めているのは、単に認証取得をすることではなく、開発プロセスの改善を志して欲しい、ということになる。企業側にとっても、開発プロセスがHCDの効果的実践の結果として改善され、質の高い製品を作れることになれば、企業イメージの向上や売上げの向上が期待できるであろう。

とはいっても、企業の立場からすると、認証を取得できることへの要求は確実にあるだろうし、それはそれで悪いことではない。認証が取得できれば、自社の企業品質を確認することにもなるし、宣伝などに利用することでユーザサイドの企業イメージをアップすることもできるだろう。

そのようなわけで、認証に関する動きが昨年末頃から活発になってきた。先鞭をつけたのはTUV Rheinlandで、日本でもPR資料を配付したり、講習会を実施したりと、積極的に活動を開始しておられる。

人間生活工学研究センター(HQL)の委員会でも、2000年度は、認証基準のベースづくりの作業を行った。残念ながら、その委員会の予算的母体が高齢者関連のテーマであり、その一部として委員会が運用されていたという事情から、2000年度の報告書には、そうした内容の詳細は掲載されないことになった。しかし、同様の内容、今年度に出版が予定されているオーム社の書籍の中で紹介されているので、詳しくはそちらを参考にしていただきたい。

今年度、委員会で検討した内容は、具体的にどのような文書を整備すべきか、ということで、4つのプロセスに関して、次のような文書を要求している。まず利用の状況の把握と明示のプロセスでは、利用の状況定義書、利用の状況分析・検討書が、次に、ユーザと組織の要求事項の把握のプロセスでは、製品開発戦略書、ユーザ分析書、要求分析書、利用品質定義書、法的検証書が、また設計による解決案の作成のプロセスでは、基本設計書、プロトタイプ(文書とはかぎらない)、プロトタイプ評価書、運用検討書が、最後の要求事項に対する設計の評価のプロセスでは、評価計画書、評価結果書、フィードバック情報書、長期モニター報告書、改善要求書が、それぞれ必要とされている。

これらの文書がどのような内容になっていれば、どの程度の水準として判定されるか、といった基準の策定作業などは今後に持ち越されたが、ともかく一つのフレームワークが提示されたことになる。

また、こうした文書による審査の他に、プロセスの実査としてCOEDA(Collaborative Externalization of Design Activity for HCD)という手法によって、実際の製品開発プロセスをまず流れ図にし、それを表形式に変換して評価する、ということも行う予定である。

我々関係者としては、こうした基準に対して積極的に取り組み、認証を取得しようとする企業、あるいは自社の開発プロセスがどの程度の水準にあり、どこに問題があるのかを確認しようとする企業が沢山でてくることを期待している。

しかし、ISO13407に代表される人間中心設計の考え方を普及させるためには、企業側の自主努力だけでは必ずしも十分とはいえない。たとえばユーザ側、特に消費者組織のような団体が、ユーザビリティについての意識を高め、その面で高い品質の製品を提供するように企業側に要求するとか、ユーザビリティの低い製品に対してWebなどによって問題提起をする、などの活動が企業側にとっては良い刺激となると思われる。

また、ユーザだけでなく、官公庁全般が調達基準として、ユーザビリティを取り上げるようになれば、その効果は更に大きいものになると予想される。アメリカで2001年6月21日に施行される508条については、日本への影響も大きいということで、今官民をあげてその検討に入っているが、筆者は、アメリカにやられたから対応する、という受け身的な性格をいつまでも引きずっていていいものか、という印象を持っている。もっと日本の政府が自発的にユーザビリティをとりあげ、それを調達基準として率先垂範を行うべきではなかろうか。

ちなみに、イギリスでは、現在、ロイズレジスターやセルコといったユーザビリティコンサルタント企業が中心になって、英国政府に対し、政府の物品調達の基準として、HCDを条件とするような働きかけを行っている。また、国防省調達のソフトウェアやその他のサービスを含む形での調達基準への適用も検討されていると聞く。

これらと同じような形で、政府主導の人間中心設計への取り組みが本格化すれば、その結果として日本企業の製品は確実に世界に誇れる水準のものになるだろう。

公開: 2001年6月18日
著者: 黒須教授

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