INTERNATIONAL UPA構想について

  • 黒須教授
  • 2001年9月24日

まだまだ出発点の議論をしている話題なので、このコラムで取り上げるのもどうかという気がするのだが、ユーザビリティ関係者にとっては関心の深い話題だと思われるので、あえてご紹介することにする。

この話はイギリスのNigel Bevanが、2001年7月に開催されたINTERACT2001にやってきた時に初めて紹介してくれたものである。アメリカにはUPA(Usability Professionals’ Association)という学会があり、ユーザビリティに関連した様々な活動を行っていて、毎年大会を開いている。これはおそらく現在世界で一番参加者の多いユーザビリティ組織といっていいだろう。大会には、もちろんアメリカが最大人数であるが、ヨーロッパを始め、世界各地から参加者が集まってきて、特にユーザビリティの実務家にとっては、最新の動向を知る絶好の機会として位置づけられている。かたやヨーロッパにはUsability Netという組織があり、西欧、北欧、南欧の各国のユーザビリティ関係者が集まり、webをベースにして相互連絡をとり情報交換をしている。こちらは基本的には各国のユーザビリティ関係組織が加入するネットワークであるが、活動の中心は各国で特定の個人に集中しているようである。まだ学会活動のようなものはやっていないが、ヨーロッパにおける一つの拠点組織であるといえるだろう。

この二つの組織が連携し、国際的なユーザビリティ活動の基盤づくりをしようというのが今回の基本構想である。もともとUPAは、活動地域をアメリカに限定せず、世界的に活動範囲を拡大していきたいという意向があり、それが活動の活性化を考えていたユーザビリティネットの要望に合致した、というところだろう。まだ話し合いが始まったばかりなので、その名称がどうなるか、組織構成がどうなるかについては今後の議論をまたねばならないが、基本的に合意されているポイントは少なくとも二つある。

一つはUPAの大会を世界各地で開催したい、ということ。もう一つは、国際的なユーザビリティ専門家の認定(accreditation)を行おう、ということである。大会をあちこちで開くのは、各地のユーザビリティ活動を活性化する効果もあり、特にそうした活動を行っていなかった欧州の関係者にとってはそれなりの意義もあるだろうが、まあそれだけの話といってしまえばそんなところである。

重要なのは、専門家認定システムである。従来から、国際的なレベルではIEA(International Ergonomic Association)が推進している人間工学専門家資格認定制度があり、現在日本では人間工学会がこれに対応してシステムの検討を行っている。また国内レベルでいえば、情報処理の分野、心理学の分野、テクニカルコミュニケーションの分野、カラーアナリストの分野などでさまざまな資格制度が運用されている。これは国家資格ではなく、その資格をとることで法的な背景をともなった、たとえば診療という行為を許可される、というような性格のものではない。しかし、当該分野の専門家として認定されることにより、たとえば就職の際に有利になったり、あるいは社内での昇進や昇給に関連したり、また少なくとも他部門の人々からの認知のされ方が変化したり、といったポジティブな効果のあることが知られている。

ユーザビリティに関しては、これまでそうした資格制度がなく、特に日本では、ユーザビリティ関係者は自分の専門技能の水準について客観的な指標によって評価される機会もなく、いわば黙々と活動を続けてきたようなところがある。その意味で、Nigelからこの話を聞いたときには、このシステムを日本に導入することに大きな社会的意義があるのではないか、と考えた次第である。この資格の取得の有無が、就職や転職、また希望的には、昇進や昇給などに関係してくるなら、ユーザビリティ人材の適切な育成や人材配置、ユーザビリティ組織の位置づけなどにとって効果的だろうと考えられた。特に国際資格であるという点で、海外でも通用する資格である、という点も魅力の一つになるだろう。

このような考え方にもとづいて、Nigelには日本としても参加していきたいという考えを伝え、9月にフランスとイギリスでそうした話し合いを持つ予定になっている。UPA側の担当者であるAsa GranlundとNigelの三人で予備的な話をした段階では、まだイメージは固まっておらず、双方とも独自のプランを持っていて、調整をこれから始めるところのようである。その意味では、日本のユーザビリティ事情を考慮し、こちら側の要望を入れながら三者でシステム構築をしていく余地は十分にある。

まだまだ第一歩を踏み出す状態ではあるが、是非効果的なシステムになるようにしたいと考えている。なお、日本における関連した議論はusability@freeml.comというメーリングリストで行っているので、参加されたい方はそこにその旨メールをお送りいただきたい。