ユニバーサルデザインとユーザビリティ

  • 黒須教授
  • 2001年11月19日

このようなテーマについて講演をする機会があり、両者の関係について改めて考えてみた。ユニバーサルデザインには、その提唱者であるロン・メイスがまとめた7つの原則というものがある。ユニバーサルデザインの7原則とは、

  1. 誰にでも公平に使用できること (Equitable Use)
  2. 使う上での自由度が高いこと (Flexibility in Use)
  3. 簡単で直感的にわかる使用方法となっていること (Simple and Intuitive Use)
  4. 必要な情報がすぐ理解できること (Perceptible Information)
  5. うっかりエラーや危険につながらないデザインであること (Tolerance for Error)
  6. 無理な姿勢や強い力なしで楽に使用できること (Low Physical Effort)
  7. 接近して使えるような寸法・空間となっていること (Size and Space for Approach and Use)

というものである。これを見てみると、1で対象ユーザを「誰にでも」と拡大している点がユニバーサルデザイン的であるが、それ以外の項目は、いわゆるユーザビリティの基本ガイドラインとほとんど同じであることに改めて気が付く。6や7は、主に車いすの利用者を想定していると思われるが、これとて、それ以外のユーザにも適合するような内容である。

こうしてみると、ユニバーサルデザインとユーザビリティというのは、実はほとんど同じ方向性を持っているのではないかと考えられる。ただ、「誰にでも」を考える際に、共用品的な考え方でなく、専用品でのサポートが必要なケースを考える必要もあるので、その部分はユニバーサルデザイン固有の領域といえるが、それとてISO13407で使われている「想定ユーザ(intended user)」を、たとえば障害者に設定した場合、ということになるので、ユーザの設定を行った後のプロセスは、ユーザビリティに関するデザインプロセスと同じものが使えると思う。

ただ、ユニバーサルデザインでは、こうした原則によってその方向性を規定してはいるが、どのようにしてその実現を図るか、というアプローチや方法論については触れていない。また、表面的に受け取ると、ガイドラインがあるのだから、それにしたがって物づくりをすれば、それでユニバーサルデザインになるだろうと考えてしまわれがちな面もあるだろう。実際には、特定の機器がサポートしようとしている機能を、誰がどのような状況で使用するのか、という具体的な情報なしには適切なユニバーサルデザインは行うことができないはずである。ガイドラインから出発するのは、ISO13407でいうcontext of useの第一プロセスを省略して、第二プロセスのrequirementにいきなり入ってしまうようなものだからである。

ようするに、ユニバーサルデザインは、「誰にでも」という目標を提示することによって、本来のデザインの方向性について理念を提示したものと考えることが出来る。これに対してユーザビリティデザイン、あるいはISO13407でいうところの人間中心設計のアプローチは、それをどのようなデザインプロセスによって、どのような手法を用いることによって実現してゆくのかという具体的取り組み方を提示したものといえる。

このように考えると、理念としてのユニバーサルデザインと、実践方法としてのユーザビリティデザインとのカップリングはきわめて自然に行えるものだといえるだろう。

ユニバーサルデザインの理念が指摘しているポイントをユーザビリティの観点から読み替えると、従来の機器は、想定されたユーザ(intended user)に関して、あらかじめ限定した人々だけを想定してきたため、ユニバーサルな製品になっていなかった、ということがいえる。本来、その製品を利用するであろう人々をすべて想定し、その特性を理解し、それぞれの特性やニーズに適合したように製品開発を進めてきたなら、結果的にその製品はユニバーサルなものになっていた筈である。

こうした一種のパラダイムシフトを行うことにより、より一層ユーザに適合した製品が開発されることになり、企業的には売上げの増加やその企業に対する信頼感の増大につながるだろうと考えられる。気が付くのが遅かったのかもしれない。もうこれからはユニバーサルデザインとユーザビリティの統合は、自然でかつ必要なものとして認識されるべきだろう。