ユーザビリティの概念体系

ユーザビリティという概念をどのように位置づけようかと随分考えてきた。ユーザビリティという概念は、歴史的にいろいろと変化してきている。ユーザビリティという概念が明確になる以前、およそ1970年代までは、マンマシンインタフェースという概念領域で、主に人間工学的な最適化を目指す活動が行われていた。しかし、当時はまだユーザビリティという概念でそうした活動を整理しようとする動きは無かった。

ユーザビリティの初期の頃、つまり、1980年代から1990年代までは、どちらかというと使いにくさや分かりにくさという問題を無くすこととして位置づけられてきた。これは丁度、評価という活動が注目されるようになった時代でもある。ニールセンの概念体系におけるユーザビリティはその代表的な例といえるだろう。私はそれをマイナスをゼロレベルにする活動、と表現してきた。この時期は、ユーザビリティの勃興期であったが、幾ら評価によって問題点を見つけても直接企業に利益をもたらすものではないとして、消極的にしか受け取られず、関係者が苦労していた時代でもある。

これに対して、より積極的な意味合いを持たせ、製品やシステムを有効に効率的に満足を与えるようにすることである、と考えられるようになってきたのは1990年代後半あたりからだろう。ちょうどISO13407が制定される前後である。この定義には、ニールセンのいうユーティリティ性、私の言い方をすればプラスを増やしていく活動も含まれており、CSとの関係においてもその積極的な側面が評価されるようになった。ユーザビリティが世間的に注目されるようになったのもこの時期以降といえるだろう。このようにしてユーザビリティには二重の意味が生まれ、それを整理する意味で、古い定義をsmallユーザビリティ、新しい定義をbigユーザビリティと呼んで区別することも行われた。

さて、それでは、このような定義で十分なのだろうか、結局のところ、そうしたユーザビリティはどのような目標のためにあるのだろうか。そうした点が私の頭に引っかかっていたところである。究極の目標としてmeaningfulnessという概念を持ちだしてはみたものの、そことの間がうまく繋がらなかった。最近、ようやく少しずつそのあたりの整理が出来るようになってきた。以下にその骨子を紹介することにしたい。私の考えた体系を図示すると次のようになる。

QOL(meaningfulness)
┣━━━即自的側面(1)
┃   ┗━━━個人的側面(11)
┗━━━対他的側面(2)
    ┣━━━対人的側面(21)
    ┗━━━対物的側面(22)
        ┣━━━自然物との関係(221)
        ┗━━━人工物との関係(222)
            ┣━━━そのもの自体(2221)
            ┗━━━それを使うとき(2222)
                ┣━━━usability(22221)
                ┃   ┣━━━個人で使う時(222211)
                ┃   ┃   ┣━━━有効さ(2222111)
                ┃   ┃   ┣━━━効率さ(2222112)
                ┃   ┃   ┗━━━満足感(2222113)
                ┃   ┗━━━他人と使う時(222212)
                ┃       ┣━━━意志疎通性(2222121)
                ┃       ┣━━━意志集約性(2222122)
                ┃       ・・・
                ・・・

この図ではユーザビリティの部分を拡大しているが、他の枝ももっと多く分岐する。この図で表現したいことは、人には、まず即自的存在として、自分の存在に対する認識、健康や財産、自分の能力や魅力に関する評価などの側面があり、対他的存在として対人的側面と対物的側面がある。対人的側面には愛情や友情、支配(被支配)、影響(被影響)などが、また対物的側面には自然物との関係と人工物との関係がある。自然物との関係では安全や憩い、保護などの側面があり、人工物との関係では、そのもの自体とそれを使うときの関係がある。そのもの自体としては、蒐集や審美性などの側面があり、使うときの関係としてはユーザビリティの他に信頼性、安全性、費用など、ニールセンがusefulnessと同列に列挙しているようなものがある。ユーザビリティには個人で使うときと他人と使うときとが区別され、前者はいちおうISO9241-11の定義を、後者には他人との関係で適切に利用できるための条件として意志疎通性や意志集約性などがあると考えた。そこには生産性の相乗効果のようなものも入るかもしれない。

おおよそ、こんなことを考えているのだが、これをベースにして、もう少しきちんとした体系化を検討してゆきたい。とりあえずは、途中経過のご報告として。

公開:2003年7月22日
著者:黒須教授

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