5年後のパソコン環境<後編>

  • 黒須教授
  • 2004年1月13日

大きな変化が生じるとしたら、それはむしろサブノートやノートの方だろう。自分の作業環境、それは仕事に限らず、エンターテイメントであってもいいし、個人的な用件であってもいいのだが、それを処理する環境として、いつでもどこでもというユビキタスの考え方は今よりも変化すると考えている。

私は個人情報の管理についてはむしろ携帯電話の発展形で処理するようになると考えているので、やはりパソコンでは文書作成や表計算、データベース、Web利用といった現在すでにある程度の水準で確立されているアプリケーションが中心になって利用されると思われる。ただ、いつでもどこでもやりたいことをしたい、というのは人間の根本的欲求であるから、それに対応したインフラと機器の対応が必要になるだろう。

現在、無線LANのアクセスポイントが各地にできつつあるが、どうもまだ「どこで」利用するのかという点について考え方が整理されていないように思う。秋葉原の町中を無線LAN利用可能にしようというコンセプトも発表されているが、果たして人はどこでどのような姿勢をしてパソコンを利用するのだろうか。通りのベンチに座ってパソコンを開くのだろうか、歩きながら左手にパソコンを載せ、右手で操作しながら利用するのだろうか。その考えにはいささか無理がある。ファーストフードの店などにアクセスポイントを設置することも普及してきたが、店内ならまだ落ち着いて仕事はできる。しかし、今より多くの人たちが店内でパソコンを利用するようになったら、客の回転率が落ちてしまい、利益確保が難しくなったりしないのだろうか。車の中でパソコンを、という話もあるが、まさか運転中に使うこともあるまい。となると駐車場に入れて、あるいは路肩に駐車して利用するということが考えられるが、今の車にはパソコンをちゃんと置いて作業をするようなスペースが用意されていない。そんな狭苦しい環境で無理にパソコンを利用する人がどれくらいいるのだろうか。

結局、ノートパソコンを利用したユビキタスというのは、完全な「いつでも、どこでも」ではなく、やはりそれなりの設備の整った場所、ということになるのではないだろうか。そうした目的のための新しいコンセプトの店舗が今のコーヒーショップ並みにあちこちにできるかもしれない。

先日、私は講演の場所を間違えて、違う会議場に行ってしまった。ロビーでノートパソコンを開いてネットを検索し、正しい会場を知ることができたが、そのときに一番嫌だったのは起動・終了、特に起動時間が長いことだった。ノートパソコンの技術開発項目の中で、今一番の課題は起動と終了の時間短縮だろう。心理学でPerceptual Moment Theoryというのがあった。現在、心理学の中でその理論がどのように位置づけられているかは分からないのだが、これによると、人間にとって「瞬間」と感じられるのは100msec、要するに1/10秒だそうだ。この理論を援用すれば、起動も終了も100msecでできるようになれば、ユーザは満足するだろう、ということになる。今、ハイバネーションとかリジュームという機能が時間短縮のために用意されているが、これはバッテリーを消費する。長時間駆動のバッテリーが開発されたにしても、3日前に途中終了したものをそうした機能で再起動するというのは難しいだろう。その意味ではやはり開発の本道としては起動・終了時間の短縮ということになる。これができれば、ちょっと10分、15分ほど時間ができた、という時にもノートパソコンを利用することが可能になる。

もちろん長時間駆動も重要で、以前の1.5時間駆動などというのは論外だった。およそ公称値と実測値にはずれがあるのが常で、1.5時間というスペックだったら1時間がいいところだった。これだとまず急いでやらねばという意識が先行し、仕事に集中するどころではなかった。現在の数時間駆動となるとそこそこ安心して利用できるが、本当はまだその数倍の性能は欲しいところだ。

私の偏見かもしれないが、ノートパソコンはノートパソコンでいいと思う。無理にカメラ機能をつけたりする必要はない。もっとも携帯電話付属のカメラで撮影した画像をすぐに、かつ簡単にパソコンでも利用できるようにするようなことは必要なことだと思っている。

パソコンについては、まだまだ色々なことが考えられるのだが、今回はこの辺で稿を閉じることにする。