ユーザビリティの資格認定制度

  • 黒須教授
  • 2004年2月24日

以前、UPAのWorking Groupで資格認定制度の検討を行った。いいところまで行ったのだが、UPAの理事会の「時期尚早」という判断で頓挫してしまった。しかし、ユーザビリティに関する社会的な認識を確立する一つの手段としては、やはり重要なものであると考えて、その考え方を継承しながら、制度の制定にむけた動きを日本で継続することにした。今回はその動きをご紹介したい。興味を持たれた方はぜひhttp://www.do-gugan.com/tc/にアクセスしてご回答をお願いしたいし、周囲の方々にもそのことをお伝えいただきたい。

テクニカルコミュニケーター協会(TC協会)では、テクニカルコミュニケーション技術の向上と普及のため、マニュアルや取扱説明書に関する研究と実践活動を続けてきた。近年、電子媒体によるコミュニケーションの重要性が高まってきたことから1999年度から2002年度までの三年間、Webデザインについてユーザビリティの観点から研究を行うため委員会を設置し、活動を行ってきた。その結果、ユーザビリティの実践がテクニカルコミュニケーションの活性化にとっても重要であるとの認識から、2003年度から2005年度までの予定でユーザビリティ資格認定制度に関する研究委員会を設置することになった。初年度は、ユーザビリティ関係者にとってコアコンビタンスとなるのはどのようなものかを明らかにし、二年度目にそれらの特性をどのようにして測定・評価するかを考え、三年度目にその結果をまとめて資格認定のためのスキームをまとめる予定である。

ユーザビリティは、ハードウェアやソフトウェアなどさまざまな製品やシステムに係わる問題といえる。画面インタフェースの見やすさや分かりやすさ、マニュアルの分かりやすさや使いやすさ、小型情報機器の取扱い性、大規模監視システムでの作業のしやすさ、自動販売機の使いやすさなど、その関連する領域は多岐にわたっている。

初年度の研究として、ユーザビリティ専門家が備えるべき特性についての検討を、まずユーザビリティ関係の部署で活動しておられる十数名の方々に対するインタビュー調査によって行った。その結果、ユーザビリティ専門家の特性についての項目の仮リストアップができたので、第二段階として、それを質問紙形式によってより多くのユーザビリティ関係者の皆さんからご意見を伺い、定量的にデータ処理できるようにしたいと考えた。

ユーザビリティの資格認定を行うためには、ユーザビリティ関係者の業務をどのようにカテゴライズするかがまず必要である。今回の調査では、業務管理を行うユーザビリティマネージャと、実際の業務を担当するユーザビリティエンジニア、という二通りに区別することにした。細分すれば、ユーザビリティエンジニアの仕事も、ユーザリサーチの部分と、評価の部分では大きく異なっていると考えられる。素養の面でいえば、前者は社会学や民族誌学、後者は実験心理学などの知識やスキルが必要とされる。しかし、そうしたことはある程度想像できるし、また日本の現状ではユーザビリティ部署がまだ十分に確立されておらず、両方の仕事を兼務していることが多いと考えられたため、今回の調査ではユーザビリティエンジニアとして一括して扱うことにした。

今回の質問紙調査では、コンビタンスを知識、基本能力、ビジネス能力、専門能力、経験・実績、考え方というように分類した。具体的には、
まずA.知識として、認知科学、人間工学、心理学、社会学、人類学・民族誌学、経営学、UI、調査・実験デザイン、統計手法、各種調査・評価手法、UCD、ユニバーサルデザイン、法令・規格、利用状況、開発プロセス、製品・技術、マーケティング・商品企画をとりあげ、
またB.基本能力として論理的思考能力、機転、メタ認知能力、他者への理解・想像力、コミュニケーション能力、自律能力・柔軟性、体力を、
C.ビジネス能力として、プロジェクトデザイン能力、要件収集分析力、折衝・調整能力、チーム運営力、プロジェクト管理力、プレゼンテーション能力、文章表現力、情報収集力、人材ネットワーク構築力、教育能力、組織マネジメント能力、英語力、
D.専門能力として、調査・評価能力、インタビュー実施能力、観察能力、ユーザテスト実施能力、インスペクション評価実施能力、分析能力、要求分析・要求定義能力、デザイン・開発能力、プロトタイプ作成能力、
E. 経験・実績として、開発経験、業務経験、人脈、
F. 考え方として、ユーザビリティ活動に対する興味・関心、ユーザビリティに対する考え方、ものに対する考え方、共感性、新しいもの・領域への積極性、責任感・モチベーション、のように区別した。

とりあげた項目の大きさが不揃いだったり、重複する部分があったり、定義が不明瞭だったり、と必ずしも十分に整理されてはいないが、ともかく多くのデータを集めることにより、現在の日本企業の現場においてユーザビリティ活動に必要とされているものがどういうものかという方向性は明らかになると期待している。