ユーザビリティ概念を改めて考える

私は以前から、ISO9241-11のユーザビリティの定義に不満を感じていた。この定義はISO13407の普及、さらには関連規格の発展とともに、ユーザビリティの標準的定義と受け止められるようになってきたが、満足感が含められている点にその当時から不満を感じていた。つまり有効さと効率は相互排他的であるが、満足感はそうではなく、有効さや効率の良さの結果としてももたらされる、つまりそれらに部分的に従属する概念だからだ。

この定義がどのようにして決められたかを尋ねた私のメールに、Nigel Bevanは2001年に次のように回答してきた。

I have found the report of: ISO TC159/SC4/WG5, WG5 USABILITY ASSURANCE SUB GROUP. LONDON MEETING, 2-3 FEBRUARY 1988. The sub-group meeting was attended by Donald Anderson, Nadia Bertaggia, Nigel Bevan (editor), Eva Brenner Wallius, Fred Brigham, John Brooke, Susan Harker, Leif Hedman, Chris Marshall (chair), and David Youmans. After lengthy discussion, the following working definition was agreed: The usability of a product is the degree to which specified users can achieve specified goals in a particular environment effectively, efficiently, comfortably and in an acceptable manner.

このcomfortablyの部分がその後、satisfactionとなったのだと思われる。この時の結果では、有効さも効率も感性的な側面も、すべて副詞として目標達成に係っている。その意味では、それなりに独立な概念としてイメージされていたように思う。いいかえれば、概念の従属性がそれほど顕著に出ていなかったのだ。しかし、その後、effectiveness, efficiency, satisfactionという形で名詞として利用品質であるusabilityの下位概念と位置づけられると、概念間の関係がより顕著になり、satisfactionの位置づけのおかしさが露呈されたのだと考える。

その後、2005年にTom Stewartを訪ねて、この問題について議論したことがあるが、彼は下位概念に従属関係があって何が問題か、と取り合おうとしなかった。ISO20282の議論を通じて感じられたことだが、基本的にはNigelも同様の考え方を持っているように思われる。

しかし下位概念というものは相互に独立で排他的であるべきだ、というのがその後も一貫した僕の考えだ。ごく稀に例外があっても良いが、動植物の分類のように、きちんとした木構造であるべきだ、と考えている。

その考え方を2006年の初頭に自分なりに整理した。そして図のような体系を整理した。この体系は、その後、いくつかの論文などで使ってきたが、この場で紹介することがなかったので、改めてその考え方を説明したいと思う。

ユーザビリティの概念図

まず基本的にいえることは、有効さと効率は人工物の客観的特性であり、満足感はユーザの主観的特性であり、その性質が違うということだ。ISO25062(CIF)やISO20282では有効さと効率に反応時間やエラー率などの客観的指標を用いているが、満足感についてはSUMIやSUSのような質問紙による主観評価を用いているのがその証拠でもある。

したがって、図では人工物の客観的特性とユーザの主観的特性とで左右に分割してある。左側の人工物の客観的特性は品質特性とみなしてあり、費用や安全性や信頼性などとならんでユーザビリティを位置づけている。当然ながら、ユーザビリティの下位概念は有効さと効率だけである。

その下位概念としてはNielsenのいうユーザビリティとユーティリティを並置してある。これはCIFのISO化に関するsmall usabilityとbig usabilityの議論で関係者全員が納得した点であるが、Nielsenのusefulnessが9241-11のユーザビリティに該当すると考えられるからだ。ただ、そこにはsmall usabilityもutilityも有効さと効率に影響を及ぼしていて、概念構造としてはいささか混乱した形になっている。これはsmall usabilityとutilityが人工物の特性であるのに対し、有効さと効率は、そうした特性をもった人間がそれを利用した時に生じる指標である、つまり原因と結果の関係にあるためである。

いっぽう、主観的特性としての満足感は、人工物と人間との関係における総合的な指標として位置づけられている。それは、ユーザビリティやその他の品質特性の結果として感じられるものが満足感であると同時に、快適さや審美性や愛着感、動機付けや価値観といった主観的な要素が集約する概念が満足感だからでもある。

こうした意味での満足感は、QOLすなわち生活の質や、UX(user experience)、あるいはCSすなわち顧客満足度という概念に関係している。

さらにこうした概念を考える基盤として、図の下に描いてある、ユーザの特性や利用状況の多様性を考慮すること、時間軸に関して長期的な満足感を考慮することが大切と考えている。

このような図式をベースにして、私はユーザビリティ工学という活動領域は有効さと効率で表されるユーザビリティという品質特性を対象にしたものであり、ユーザ工学はこの図に描かれたすべてを対象とし、したがって満足感に集約的に表現されるものを追求すると考えている。

こうした形に整理することで、私なりには一応すっきりしたと考えているが、さて読者の皆さんのお考えはいかがだろう。

公開: 2007年7月3日
著者: 黒須教授

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