2008年のユーザビリティ展望

年頭にあたって、ユーザビリティに関する展望を書いてみることにする。ようするに、最近の状況や動向を見た雑感である。

(1) 危機意識の喪失

ユーザビリティ活動がある程度まで活性化してきたのは関係者の努力のお陰だと思うが、その活性化のカーブが伸び悩んできたように見受けられ、危機感を感じている。ISO13407の制定から2005年あたりまでは各社とも熱心に動き、担当者のアサイン、専門部署の設置、設備の導入などを行ってきた。しかし、現在のユーザビリティ活動が、まだまだ全製品、全機種をカバーできていないにもかかわらず、この程度やればいいのではないか、といった雰囲気が感じられるようになってきた印象を受けるケースが多い。

ユーザビリティ部署が設置され、そこに数人のスタッフがいるケースで、しかしながら、デザイン部門や設計部門の大半は、そうした活動が行われていることは知りつつも、それとは別に従来通りのやり方で仕事をしているケースがある。いや、かなり多い。もちろん企業による温度差が大きいのだが、こうしたケースを見ると、ユーザビリティ部門の設置や担当者の配置は、企業にとっての免罪符でしかないのか、という気持ちになる。

現場のマネージャからは、必要性は感じているのだけど人がアサインできなくてとか、予算が足りなくて、あるいは、適当な人材がいないから、という言い訳が聞こえてくる。ユーザリサーチや評価の方法もだいたい習得したし、あとはやるだけなんですが、という声も聞こえる。さて、そうなのだろうか。

たしかにユーザビリティの方法論はかなり実践で有効なものが開発されてきた。しかし、それを理解し、実践している人が多くても数人という現状で十分といえるだろうか。また、機器やシステムの特質やユーザの利用目的や利用状況に合わせて、適切な方法を選択したり、バリエーションを加えたり、あるいは新たな方法を開発するなど、まだまだ考えるべき必要性は大きい。もっと多くの人たちがユーザビリティの方法を学び、その必要性や意義を理解でき、あるいは自分たちでも実践できるようにする必要はないというのだろうか。

ユーザビリティが商品価値の一部を担うものである以上、この時期にその活動を熱心にやるかやらないかは、将来に大きな差を生み出すことになるだろう。温度差があるということは、活動の伸びが鈍いところが多い中、熱心にやっているところもあるということだ。近い将来に禍根を産み出さないために、特に部門長やマネージャは予見力をもってユーザビリティ活動に取り組むべきだろう。

(2) 社外活動の停滞

ユーザビリティ関係者はもともとあまり学会活動をしない傾向がある。特に発表をしない。これは実践活動であって研究活動ではないから、という見方が多いように思う。

もちろん実践活動としての側面は重要で、それを抜きにしてユーザビリティ活動を論じることはできない。しかし、それと同時に新たな製品へのチャレンジ、新たなユーザ行動の支援などに取り組む必要性は高いはずである。そのために必要な情報を交換するためにも、社外活動にそれなりのリソースを割くことが大切だと考えている。

発表はしないけど、情報収集だけはやっておきます、というマネージャがいる。自分達のところだけ、そうした姿勢でいることができるなら、そうしたアプローチも可能だろう。しかし各社がその姿勢で社外活動に取り組んだとしたら、そして自社の経験を社外に公開しないようになったとしたら、社外に出かけていっても有用な情報を手にいれることはできなくなる。そうした姑息な姿勢でいる限り、社外活動は意味をなさなくなり、皆が蛸壺に入ってしまうことになる。これはマネージャの責任である。ユーザビリティ活動のマネージメントというものが、利己的な姿勢で成立するものかどうか、改めて自省していただきたい。

(3) 第二世代の台頭

暗い話ばかりではない。私を含む40代後半から50代、60代をユーザビリティ第一世代とすれば、30代から40代前半を第二世代と呼ぶことが出来るだろう。この第二世代の人たちは、年齢的に仕事の負荷が大きく、とても忙しい筈だ。しかし、この世代の中に、二桁台の有能な人たちが出てきていることは心強い。しかも、彼らは新鮮な発想力で、第一世代の成果を受け止めながら、新しい課題に挑戦し、新しいアプローチを取り込み、新しい方法論を開発しようとしている。

願わくば、第二世代の人たちが三桁になる日が近いことを期待したい。そして、まだ入り口に立ったばかりの第三世代の人たちの中からも、意識が高く、モチベーションの強い人たちがどんどん出てくることを期待したい。世代交代は人間社会の必然だが、単に交代するだけでなく、きちんとした継承を基礎にした交代であって欲しい。単なる継続でなく、新たな発展を期した交代であって欲しい。・・そろそろ、そんな気持ちになってきた最近でもある。

公開: 2008年1月17日
著者: 黒須教授

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