SUIウィジェットとGUIウィジェット

GUIのいいところは状態に応じて表示内容を容易に変化させられるところである。だが、日常生活機器にほんとうにGUIの導入が必要だろうか。何がなんでもGUIにするのではなく、ハードウェアウィジェット(SUIウィジェット)の良さを取り入れたデザインをすべきではないか。ここではスイッチ類を取り上げて、SUIについて少し考えてみたい。

  • 黒須教授
  • 2010年5月26日

ウィジェットというのは部品のことで、GUIが普及してからは画面部品という意味で使われるようになった。

しかし当然ながらハードウェアのインタフェース(Solid User Interface)にも適用できる概念だ。むしろハードウェア部品のメタファとしてソフトウェア部品としてのGUIウィジェットが開発されてきた、という経緯がある。その意味で、あらためてハードウェアウィジェット(SUIウィジェット)について少し考えてみたい。GUIウィジェットの適切な選択をするためにも、温故知新というわけで、SUIウィジェットについて振り返ってみることにはそれなりの意味があるだろう。ここではスイッチ類を取り上げることにする。

SUIウィジェットの中のスイッチ類には、ボタンスイッチ、トグルスイッチ、スライドスイッチ、シーソースイッチ、デジタルダイヤル、アナログダイヤル、スライダーなどがある。ボタンスイッチは上下動によりオンオフを切り替える。トグルスイッチはトグルを倒すことでオンオフする。スライドスイッチはスライドノッチを水平に移動させることでオンオフする。そのため多点の動作も可能になり、アナログ動作であればスライダーと同じになる。シーソースイッチはシーソーをどちらかに押し込むことでオンオフする。デジタルダイヤルは回転により、多接点の中からどれかを選ぶ。アナログダイヤルはボリュームダイヤルのように回転によりアナログに数値を変化させる。スライダーは水平方向につまみをスライドさせることでアナログに数値を変化させる。

したがって、アナログな調整が必要な場合にはアナログダイヤルかスライダー、デジタルな切替が必要な場合にはそれ以外のスイッチを利用することになる。なお、スイッチの動作には、自動復帰の機構が入っていて、押し込むような動作をしている時だけオンになるモーメンタリーなものと、押し込むと別の状態に変化し、反対の動作をすると元の状態に変化するオルタネートなものがある。

さて、ここでお断りをしておくと、僕はSUIウィジェットが好きだ。その理由は、ハードウェアの場合、スイッチの状態がシステムの状態を反映しているからであり、操作によってシステムの状態が変化したことが確認しやすいからである。ボタンの場合は出ているか引っ込んでいるか、トグルとシーソーの場合はどちらに倒れているか、スライドの場合はどちらにスライドされているか、デジタルダイヤルの場合はどこを向いているか、アナログダイヤルとスライダーの場合はどの位置にあるか、という形で、現在の状態が確認できる。さらに、その確認は目でやる場合もあるが、ダイヤルやスライダー以外は手の触覚だけでも可能なことが多い。そんな理由から、僕はSUIウィジェットが好きなのだ。

たとえば車のエアコン操作は最近GUIに変化してきた。以前だったらデジタルダイヤルで吹き出し口の選択が一発でできたけれど、GUIになったため(だけではないが)、スイッチを何回か押すことで切り替えることになり、操作の回数は増えた。温度調節も以前ならアナログダイヤルかスライダーで即座に設定できたのが、ボタンを押しながらじわじわと設定温度を変化させることになった。カーオーディオもそうだった。もちろん、いろいろな機能に対して同じようなスイッチをずらりと並べてしまったため、どの機能かを選ぶ時に端からスイッチを数えていかねばならないような悪いデザインのSUIもあったけれど、適切にデザインされたSUIでは、音量の調整もラジオ局の選択も簡単だったし、視角は運転操作に集中しながら、片手で触覚的に操作をすることができた。洗濯機でもデジタルダイヤルによって機能選択ができて簡単だった。そこに多機能化の動向が加わり、コンピュータ技術の発達もあってGUIが普及してきたが、その結果、いちいち細かい調整をして、その内容をGUI表示で確認するというように、手間が増える結果になっている。

反対にGUIウィジェットの場合には、その状態の変化を画面で確認させることが基本であり、画面を見なければ状態を確認できない。ただGUIのいいところは状態に応じて表示内容を容易に変化させられるところである。さらにいえばある状態で操作する必要のない、あるいは関連性のないウィジェットは表示しないでも済むことだ。この点ではGUIの方が優れている。日常的な機器の場合にはスイッチの数は多くないが、複雑なシステムではスイッチによって操作しなければならないことが多く、スイッチだらけとなってしまう。そして、今この時にどのスイッチを操作することが可能なのか、いやそもそもどこにあるどのスイッチが関係しているのかを、スイッチパネルの中から見つけなければならない。この視覚的探索の負荷は明らかにGUIの方が低い。

最近は、たとえば自動車では、カーナビの導入もあって、どんどんインタフェースがGUI化される傾向になる。いや、そうした傾向はあらゆる日常機器に広がってきてしまった。そこでちょっと考えてしまう。日常生活で利用する機器は機能の数がさほど多くはないため、システムの状態によって使わない・使えないスイッチを隠したりする事態は必ずしも多く発生しない。パソコンのアプリのような多機能システムでは、そうした状態に応じた表示と非表示の切替は有効であり、また必要でもあるが、日常生活機器の場合にはほんとうにGUIの導入が必要なのだろうか。そんな疑問を感じている。世の中の動きだからという理由で何がなんでもGUIにするのではなく、SUIの良さを取り入れたデザインをすべきではないか。そんなことを感じている。