デジカメのインタフェース

私はデジカメを常に持ち歩いている。ユーザビリティの研究材料はどこに転がっているか分からない。だからヒップバッグに入れて、すぐに撮影ができるようにしている。その目的でだいぶ前にC社の小型のカメラを購入した。これは当時、コンパクトなデザインで話題になった製品である。しかし、C社はユーザビリティを重視しているようで、コンパクトなボディに厳選された機能しか搭載されておらず、そのインタフェース部品も適切に配置されており、マニュアルを読まなくても殆どのことができてしまった。シャッターを押してから実際に撮影されるまでの時間が少々長く、タイミングを失ってしまうことが唯一といっていい欠点だった。ともかく、こうした本質的ユーザビリティを重視した製品が話題になり、沢山売れる世の中というのはまともだなあと思った。こうした世の中になって行くべきだと実感した。

しかし、世の中のすべてのデジカメがそうなっているわけではないことを最近実感させられた。シャッターのタイミングの遅れが気になっていたので、雑誌の記事でその点が優れているというO社のデジカメを購入したのだ。しかし連写の場合のタイミングは確かに速いのだが、電源を押してから撮影状態に入るまでに5秒もかかる。終了する場合も5秒である。これでは結局撮影のタイミングを失ってしまうではないか。つまり、撮影者の目標ということを真に理解せず、部分的な機能だけ先鋭化されているのである。

その他の部分を調べてゆくと、段々と、もしかしてO社というのはユーザビリティ活動を全くやっていないのではないか、などと思うようになってしまった。

まず機能がとにかく多すぎる。セミプロ的なユーザを意識した製品らしいので、多機能化をするというのは、従来のアプローチからすると自然なものなのだろうが、それにしても多い。

たとえば撮影モードの設定のためにモードダイヤルというのがある。そこでは、S-Progモード設定というのがある。このカメラでは、全般に何を表しているのかわかりにくいビジュアルシンボルが多用してあり、このシンボルもその一つ。だから正式にS-Progモード設定というのかどうかも分からない。マニュアルにすら、その名称はこの記号を使ってしか表示されていない。人間、名付けられないものには概念的位置づけが困難である、という基本的な特性を理解していないようだ。この中には、ムービー撮影、セルフポートレート撮影、夜景撮影、風景撮影、記念写真撮影、スポーツ撮影、ポートレート撮影というサブメニューがあり、それは十字形のボタンを押して、バーチャルダイヤル画面という液晶表示の中から選択するようになっている。ちなみに、こんな目的別撮影モードを用意しているところからすると、セミプロではなく、やはりアマチュアをターゲットにした製品とみなすべきなのだろう。こういうメニューを選択しながら撮影する人というのは、ゆっくりとした時間があって、じっくりと準備のできる人なのだろうと想像せざるを得なかった。

モードダイヤルにはまだまだ沢山の選択肢がある。S-Progの次には、A/S/M/Myモード設定というのがある。これは銀塩カメラでも普通にある絞り優先(A)やシャッター優先(S)という他に、マニュアル撮影(M)があり、さらにマイモード撮影(My)というオプションが4つもある。デジタル機だからマイモードのための設定を記憶させておくのは容易だろうが、どれだけのユーザがこの機能を使いこなすのだろうか。

モードダイヤルには次にプログラム撮影(P)がある。これはいわゆるおまかせ撮影なのだが、プログラム撮影という名称が適切なものかどうか、機能のラベリングについても疑問を持った。

モードダイヤルにはさらにOffと1コマ再生がある。つまりダイヤルには全部で5つの選択肢があるわけだ。

ここに挙げた撮影モードについていうなら、たとえば、プログラム撮影、絞り優先、シャッター優先、マニュアル、Off、1コマ再生をモードダイヤルに設定しておき、それ以外のものはメニューという項目をモードダイヤルに追加しておいて、そこから選択するようにするという考え方もできただろう。あまりに多数の撮影モードを用意したために、そのまとめ方がわかりにくくなってしまっているように感じた次第である。

ここでは、撮影モードをモードダイヤルとの関係で検討しただけだが、そのほかにもわかりにくいところは多々ある。たとえば、これは多くのデジカメでもそうしているようだが、マクロ撮影は別の機能として選択しなければならなくなっている。しかし撮影者の意図としては、遠景から中景、近景、そしてマクロと距離に応じて撮影行為が連続しているわけであり、マクロだけを特別な設定に入れ込んでしまうというのは、ユーザの思考プロセスに反しているといわざるをえない。またパソコンの画像処理ソフトでできるようなことをカメラでできるようにしているため、却って機能が増えてしまって複雑になっているようなところもある。基本的なところで、ユーザがデジカメに何を望んでいるのかを理解していないという印象を強く受けてしまうわけだ。

ともかく今はこのカメラをどうしようか悩んでしまっている。400万画素という性能を活かして時々利用するか、別のカメラを購入してこれは人に譲ってしまうことにするか。でも譲られた人も苦労することになるだろうなあ。

公開:2002年12月2日
著者:黒須教授

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