エスノブームの適切な定着を – 4 僕のやり方2

インタビューをする場合の時間として、前回、およそ2時間と書いたが、これはインフォーマントの疲労や都合を考えた場合、だいたい適切な時間と思われる。これ以上時間をかけるとインフォーマントだけでなく、調査者も疲労が蓄積されてきてしまう。

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インタビューをする場合の時間として、前回、およそ2時間と書いたが、これはインフォーマントの疲労や都合を考えた場合、だいたい適切な時間と思われる。これ以上時間をかけるとインフォーマントだけでなく、調査者も疲労が蓄積されてきてしまう。インタビューを行うとき、調査者は、頭をデュアルに使っている。つまり、インフォーマントの話を聞くことと、それを理解しながら次に何を質問するかを考えることを並行してやらねばならない。これは実際にはかなりの精神的負担となる。そうしたこともあって、僕は一日に二人のインフォーマントを上限とするようにしている。場所の移動時間なども必要だが、ともかく疲労の問題が大きい。一度、一日に四つのインタビューを入れてしまったことがあるが、もう頭の中が混乱し、大変なことになった。

謝礼については、その人の収入を考慮して、その時間給の2時間分+αというのが原則ではあるが、インフォーマントのモチベーションを考慮すると、時間給ベースの2倍くらいの謝金を考えた方がいいだろう。人によっては仕事を休んで来てくれることもあるので、更に考慮しなければならない場合もある。もちろん調査場所までの交通費やその所要時間も考慮すべきだし、写真を依頼したならば、それに見合った金額を考慮する必要もある。その意味で、2時間だったら8000円程度をお支払いするようにしたほうがいいと考えている。純粋な学問的調査であれば、場合によっては無料でやっていただける場合もあるし、現金をお渡しすると却って失礼になることもある。そのあたりはケースバイケースで考えなければならない。

自己開示の仕方も調査の方向性を左右する要因である。インフォーマントは、調査といいつつセールスされてしまうことを心配している。だから、企業の肩書きを出すのであれば、それがセールス等に関係しないことを明言する。また調査の狙いについては、正直に開示するのではなく、少し大括りの表現をするようにした方がいい。また、調査の結果については、個人情報を秘匿した形で利用させていただくこと、音声記録についての了解をいただくことも必要である。そのため、同意書を作成しておくのも良い。ただ、あまり形式ばった同意書だと却ってインフォーマントを緊張させることになるので、その書き方にも注意は必要である。さらに、言いたくないことは言わないでいいこと、途中でやめたくなったらやめても良く、その場合も謝礼は全額支払われることを伝えておく。こういったあたりは、ユーザビリティテストの場合の注意事項に近いので、テスト実施の経験のある人なら、そこからの類推で何とかなるかとは思う。

インタビューへの導入としては、多少の雑談をして気分をほぐす配慮もあってよいが、それに加えて、その調査でどのようなことをお聞きしたいのかを最初に話しておくのが良いだろう。それが緊張緩和にも大きく役にたつ。

インタビューの構成として、僕の場合は、いきなり焦点課題に関するリサーチクエスチョンに入るのではなく、インフォーマントのライフヒストリーをお聞きすることを基本にしている。その人がどういう生育歴を持ち、人生を歩んできたかを聞くことによって、リサーチクエスチョンに対する回答の解釈が容易になることが多いからだ。それからリサーチクエスチョンについての質問をしていく。半構造化インタビューを基本としているので、話題の順番はあまり考慮せず、興味深い話題がでたら、それについて詳しく話しを聞いて行く。ともかく、インフォーマントの様子を観察して、楽しく話ができるように配慮をする。調査に苦痛を感じさせてしまうようなことにならぬように注意する。心理学などの調査では、かなり侵襲的なテーマについてインタビューすることもあるが、企業のエスノの調査ではそこまでの必要性はないだろう。

時間内には必ず終わるように注意することも大切だ。多少早めに終わるとインフォーマントもホッとする筈である。その意味で、全体の時間配分に注意しながら調査を進めてゆく。最後にはお礼を述べ、気持ち良く帰っていただけるようにする。

さて、音声データとメモが取れたらそれを整理する段階になる。テキストへの書き起こしは自分でやるべきだ、と主張する研究者もあるが、企業的調査の場合であれば、書き起こし業者に委託するのがいいだろう。ただ、戻ってくるまでに1-2週間は時間が必要になる。それまでの時間で、記憶しているポイントをメモしておくのが良い。

さらに書き起こしデータが得られたら、それを分析してゆく。GTAを適用するのも良いが、僕の場合は、話題ごとにExcelに記入して行き、それにカテゴリーを付与して、適宜ソートしたりする分析法を取っている。こうした分析手法は図示した方が分かりやすいかもしれないので、今年中に出す予定の本で詳しく述べることにする。ともかく、基本的スタンスは、科学的分析ではないので、分析して終わり、というわけではなく、分析結果からいかにデザインにつなげてゆくかを意識する点だ。

あと、失敗を恐れず、経験を蓄積することも重要だと思う。最初の調査で十分な成果が出せるとは思えない。その調査のやり方を反省し、次の調査に活かしてゆくこと、そして、そうした活動を蓄積してゆくことで、徐々に自分なりの、そして目的に適合したやり方を身につけてゆくことができるだろう。

もう一つ追加しておくなら、こうした調査は、企画の段階だけでなく、UXを確認する長期的モニタリングにおいても非常に有用である。後者の場合には、質問紙と併用するやり方が良いと思われる。

また、このような質的手法は仮説構築に有用ではあるが、目的によって仮説検証が必要なことも多い。そうした場合は、質的手法によって得た仮説を質問項目に変換し、質問紙調査によって定量的データを得、それを統計的に分析することも有用である。

公開:2011年3月9日
著者:黒須教授

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