SQuaREを見直そう

SQuaRE(ISO 9126-1より改訂)が国際規格になろうとしているこの時期、ユーザビリティ関係者に、この規格について関心をもっていただけるといい、と考えている。

ISOのユーザビリティ定義にISO 9241-11のものとISO 9126-1のものがあり、その内容に多少の違いがあることは以前から知られていたが、ISO 9126がソフトウェア系のものであること、ISO 13407ではISO 9241-11の定義が援用されていたこと、ISO 9241-11の方がシンプルで、従来から品質評価の基本とされた有効さと効率を取り上げていたことなどの理由が関係してか、ユーザビリティ関係者の間ではあまり参照されることがなかった。

ただ、ISO 9126は、外部および内部品質と利用時の品質とを区別しており、その点で品質における因果関係を明確にしているといえる。またその点は、UXの議論において、人工物の品質とその結果として得られる経験とを区別する考え方に類似している点があり、UXの考え方との親和性が高いともいえる。

外部および内部品質としては、機能性、信頼性、使用性、効率性、保守性、移植性を副品質特性として含んでおり、利用時の品質としては、有効性、生産性、安全性、満足性を含んでいる。つまり、ユーザビリティという使用性は外部および内部品質の中に含まれていて、そこにはさらに理解性、習得性、適用性、注目性、標準適合性が下位特性として含まれている。いいかえれば、理解のしやすさや習得のしやすさは既に人工物(ISO 9126的に厳密にいえばソフトウェア)の特性として規定しうるものであり、利用時の品質ではないという考え方になっている。また効率性についても同様の位置づけになっている。そしてISO 9241-11的に見た場合、利用時の品質に含まれているのは有効性だけとなっている。こうした点は、ISO 9241-11の立場からみると、また通常のユーザビリティの考え方からすると異論のあるところだろう。

その後、ISO 9126-1は廃棄され、現在はSQuaRE (Software product Quality Requirements and Evaluation)として改訂され、2010年8月時点でFDIS (Final Draft International Standard)となっている。SQuaREにおいては、品質特性についてもISO 9126-1からかなりの見直しがなされており、UXにおける独立変数に相当する外部および内部品質という表現は、システム/ソフトウェアの製品品質と言い換えられ、その中には、機能的適切さ、パフォーマンスの効率、互換性、ユーザビリティ、信頼性、安全性、メンテナンス性、移植性が副品質特性として含まれている。つまり機能性や性能のようなNielsenのいうユーティリティが含まれており、同時にユーザビリティもそこに含まれている。また、ユーザビリティの中には、適切さ、認知しやすさ、学習しやすさ、操作しやすさ、エラー保護、審美性、アクセシビリティが含まれている。これらを製品品質とみなすのが適切かについては、やはり議論は残ると思われる。反対に、UXにおける従属変数に相当する利用品質(quality in use)には、有効さ、効率、満足感、それに危険の回避、利用状況の適用範囲が含まれている。いいかえれば、ISO 9241-11のユーザビリティの特性は、すべて利用品質に含まれていることになる。

このように、従来のユーザビリティの考え方との関係を見ると、製品品質の方にNielsenのユーザビリティに関する下位概念が、利用品質の方にISO 9241-11のユーザビリティに関する下位概念が含まれていることになる。そうした形で一応すっきりした形にはしてあるし、UXの独立変数と従属変数に相当する品質特性の区別をしてあるという意味で、悪くはないのだが、ユーザビリティ関係者の視点からすると、ユーザビリティに関連した特性が製品品質と利用品質の両方に入ってしまっている点は実に収まりが悪い。個人的には、すべてのユーザビリティ関連の特性を利用品質の側にまとめてしまった方がいいように思うのだが、皆さんはどう思われるだろう。

ともかく、ISO 9126-1からSQuaREになることによって、ワンステップ前進したようには思われる。次の課題は、ユーザビリティに関する前述の問題の整理と、ソフトウェアだけでなく、これを人工物(製品やシステム、サービスなど)全体に拡張して考える場合にはどうしたら良いかを検討することだろう。私はISOの規格を金科玉条とは考えていない。あくまでも人間が作るモノだし、それもかなり特定の個人の考え方が基本になっている。だからそれに対する異論が出るのは当然だし、そのように批判的に見るべきものだと考えている。その規格に対する認証を取ろうとするような立場からは、規格の本文は絶対的な意味をもってくるだろうが、ユーザビリティやUXについて、それがどうあるべきかを考えようとする立場からは、もっと自由に見ることが許されると考えている。SQuaREが国際規格(IS)になろうとしている時期に、もう少しこの規格についてもユーザビリティ関係者に関心をもっていただけるといい、と考えている。

公開:2011年6月2日
著者:黒須教授

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