製造業におけるサービス活動

冷蔵庫の調子がおかしくなったので、メーカーのユーザ相談窓口に電話をかけた。サービス活動として、職員の応対は満足できるものだったが、問題は、職員につながるまでのその待ち時間だ。

  • 黒須教授
  • 2013年7月1日

冷蔵庫の調子がおかしくなったので、メーカーのユーザ相談窓口に電話をかけた。しばらく繋がらなかったのでスピーカモードにして机に放置して仕事を続けていた。ようやくつながったので電話機の表示を見ると、9分52秒と出ていた。旅行代理店や銀行などに電話をかける機会は時たまあるが、最近の電話の待ち時間としてはかなり長い方だった。もちろん、これはサービス活動の場面であり、顧客としては待ち時間は短いに越したことはない。応対にでた職員の対応は丁寧で、こちら側の知りたい情報はすべて簡潔に答えてくれた。これもサービス活動であり、待ち時間を除いては満足できる対応だった。

顧客にとって時間は貴重なものだ。だから、あとどの位待てば良いのかが分からないまま、「ただいまお電話が大変混みあっております。時間をおいてからお掛け直しになるか、そのままお待ちください。(以下、音楽)」というような録音内容を何回も何回も繰り返し聞かされる身にもなってほしい。もちろん、呼び出し音が鳴り続けるよりはメッセージがある方がマシである。しかしマシというのは満足できるということではない。以前は「ただいまお電話が大変混み合っております。恐れ入りますが、またお掛け直しください」とメッセージが聞こえて、電話の切れてしまうような応対もあった。現在では、さすがにそれはないと思うが、まあ最悪の部類に属するだろう。これらとは反対に、待ち行列での順番を教えてくれるやり方に出会ったこともある。先の見通しが見えるだけ良い応対の部類に属するだろう。あと100人いるのか、あと2人なのかが分かれば、またかけ直すか、そのまま待つかを決断することができる。この位のことでも、客の気持ちはずいぶん違ってくる。

このようなサービス場面を改善するためには、やはり待ち時間そのものが短いことが大切だ。そのためには、ユーザ相談というシステム的な活動全体に関する改善が必要であり、単に応対に出た職員の対応を良質なものにすれば良いというだけのものではない。待ち時間を短くすることは、応対した職員にできることではない。ユーザ相談全体を設計し運用している部門長の責任である。もちろんユーザ相談への対応はとても困難な課題である。問い合わせが集中するときもあれば、あまり来ないときもある。しつこく質問をして応答を長引かせる顧客もいれば、簡単に済んでしまう場合もある。だから職員の人数を増やせば良いという簡単な問題ではない。最適解を数学的に求めることも不可能ではないだろうが、まずは待ち時間のログデータを収集し、その統計的な把握をすることがサービスシステムの質的向上のための第一歩だろう。応対時間の測定をしているという話は聞くが、待ち時間の計測が行われているという話は(やっているのだろうと思いたいが)聞いたことがない。

さらにいえば、そうした電話相談をしなくても済むような製品づくりをしているかどうかという問題にまで遡る。今回の冷蔵庫では、ドアの開閉をチェックしているマイクロスイッチがへたってしまったことが原因だったそうで、スイッチのモジュールを交換するだけで修理は完了した。しかし、そのために出張費や部品代など占めて10,000円近くを取られてしまった。たかがスイッチモジュールなのに、と思うと10,000円は高いと感じられる。部品点数が多くなると、それだけ故障の確率が高くなるのは当然である。しかし、最近の家電製品は、センサーも多いし、高機能になったため、部品点数も以前よりは多くなっている。ところが、そうした高機能がほんとうに必要なものかどうかは疑わしい。高機能にしたばかりにサービス活動にも以前に増した力を注がなければならなくなっているとしたら、またそのために顧客にも余計な出費を押しつけてしまっているとしたら、これは会社全体としてのサービス精神の欠落というべきではないだろうか。

結局、製造業においては、サービスはサービスシステムの問題でもあるが、同時に製品設計を含めた全体的な企業システムの問題である。製品設計の不適切さがサービス部門を圧迫するようなことがあるようでは、そして更には顧客に不快な経験を与えてしまうようでは、企業システムとして適切に稼働しているとはいいがたい。

いわゆるサービス業におけるサービス活動と比較すると、製造業におけるサービス活動の質は低い。製造業には品質管理部門がある筈だが、電話窓口の待ち時間といったような側面についてきちんと管理しようとする姿勢が見られない。サービス業では、サービスがシステム的にはよく検討されており(もちろん、そうでない店も多いが)、製造業におけるサービス活動は、どちらかというとバックエンドの活動として疎んじられているようにも思われる。製品設計とサービス設計の両方が円滑なシステムとして連携することが製造業の肝である、という自覚が必要だろう。

Original image by: Bill Rice