もっと問題解決型の取り組みを

着想育成型である魅力的品質の向上は、問題解決型である当たり前品質の欠陥をカバーするものではない。問題解決型のアプローチには、きちんとした調査による問題の把握が必要である。

僕は15年以上前から、マイナスを0にする、つまり問題解決型のアプローチと、0からプラスにのびてゆく、つまり着想育成型のアプローチを区別し、関係者の関心は後者に集まりがちだけれど、前者をマイナスのままに放置しておいて、プラスになった面だけを嬉しがってはいけないという話をしてきた。これらのアプローチは、狩野モデルでいえば、当たり前品質と魅力的品質に相当するのだが、これらの品質は独立なもので、魅力的品質を向上させれば、それが当たり前品質の欠陥をカバーしてくれるというような関係ではない。そのことが意外にきちんと理解されていない。

どうもこれは人間の性というか、特にデザイナーやプランナーの人たちに特有の傾向らしいのだけど、とかく着想育成型のアプローチに力を注いでしまいがちな傾向がある。魅力は人を引きつける。そして魅力を向上させれば商いとして成功する。このような短絡的な発想が、基盤となる当たり前品質への取り組みである問題解決型のアプローチに目を向けない結果につながっているように思う。

世間では、User ExperienceとかCustomer Experienceと言われてきたけれど、そのほとんどの取り組みがものごとのポジティブな側面に焦点をあて、ネガティブな側面への取り組みには消極的だったように思う。そのことは、UXやCXという文脈で使われるキーワードは、快適さや楽しさといったポジティブなキーワードがほとんどであり、不快さやつまらなさといったネガティブなキーワードが取り上げてこられなかったことからも明らかである。UXやCXに関するワークショップ活動でも、そうした傾向があり、そこでは快適さや楽しさといったポジティブな側面に力を注げば、不快さやつまらなさは自然に消えてなくなると思い込ませるような雰囲気がある。カスタマージャーニーマップなどのやり方の根底には、そうした思い込みが潜在しているように思う。しかし、前述のように、この考え方は間違っている。単に快適さvs不快さといった反対語をつかって図式を単純化してしまえば、そうした発想にもなってしまうのだろうが、もともと二つの品質特性やそのためのアプローチは別のものであり、一方が他方をカバーすることはできない。

その意味で、最近僕が提唱している経験工学では、客観的品質特性と主観的品質特性を区別し、さらに意味性の重要さを強調しているのだが、まだその考え方が人口に膾炙する段階にまで至ってはいない。

最近のデザインワークショップは、せいぜい数時間、長くて2、3日といったスパンで行われているようだが、それだけの短時間で問題点の把握をきちんと行うことができるだろうか。そもそも、そのあたりから疑問に思っている。問題解決型のアプローチを行うためには、きちんとした問題の把握が必要であり、そのためにはきちんとした調査をすることが必要である。それを抜きにして机上検討でアイデアをだしあって結論を求めようとするのは、参加している当人には楽しい経験かもしれないが、本当に有用な結論がでるのは稀だろうと思っている。

多くの場合、新規な製品開発やサービスの展開がテーマとして取り上げられていることも関係していると思う。これらを考えるときには、既存の制約条件は常識の範囲内で考えればよく、短時間のワークショップには向いている。新しいウェブサイトを構築するとき、新たな店舗を展開するとき、新しいアプリを開発するとき、等々、これらの場合に、いかにして魅力的品質を向上させるかが焦点になるのは自然な成り行きともいえる。

したがって問題は、ワークショップのテーマとして取り上げられる事柄に、そもそも問題解決型のものが設定されていないということであり、それはオーガナイザの責任であるともいえる。

サービスの例でいえば、先日、テレビで東京の井の頭公園における駐輪の問題が取り上げられていた。この問題の場合、官としては、東京都の立場、三鷹市の立場、武蔵野市の立場があり、民の立場としては、駅前の焦点に自転車で買い物に来る人々の立場、通勤のために駅と自宅の往復に自転車を利用している人々の立場、公園に憩いを求めてやってくる人々の立場、近隣住民の立場などがある。それぞれの立場は融和的ではなく、しかしながら、そこで一つの解を導き出す必要性がある。こうした複雑な問題解決型のテーマに対して、カスタマージャーニーマップやペルソナやシナリオ、KA法等々のワークショップ的アプローチがどれだけ有効に作用しうるのだろう。

僕のワークショップ嫌いは、どうもその(僕には)安直(に見えてしまうよう)な姿勢に対する不快感がベースになっているような気がする。そのアプローチで成功に近づけるケースが無いとは言わない。しかし、世の中には解決を待っている複雑な問題が沢山存在していることを忘れてはいけない。

「もっと問題解決型の取り組みを」再考 →

公開:2014年1月9日
著者:黒須教授

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