水場まわりの空間とユーザビリティ

ユーザビリティというのは、個々の製品や道具だけでなく、その組み合わせ方にも関わる問題である。その一例として、今回は水場を取り上げる。

我々の日常生活で水に関係ある場所というと、トイレ、洗面所、浴室、洗濯場、台所あたりだろう。その点に関して、無印良品の間取り研究はなかなか興味深いサイトである。

水場まわりの条件

さて、水に関係する場所について、それぞれの条件を列挙してみると、次のようになるだろう。

トイレ

  • 来客がいる時など、音や臭いが気になるため、客のいる場所からは遠ざけておきたい
  • 用を済ませてから手を洗うのに洗面所を使うこともある
  • アパートでは個室にはなくて共用の場合もある

洗面所

  • 朝の洗面等だけでなくトイレの後に手を洗うこともある
  • ただし、トイレの後の手洗いは、トイレのなかで済ませる人もいる
  • 洗面所ではなく、台所などで済ませてしまう人もいる

浴室

  • 脱衣所を考慮する必要がある
  • 脱衣したものを洗濯するための距離や動線を考慮する必要がある
  • 日本の浴室では洗い場があり、そこで湯を使って体を洗う
  • 浴室を持たずに銭湯に通う人がいる

洗濯場

  • 風呂の残り湯を使う場合には浴室に近い必要がある
  • 洗濯物を干したり、アイロン掛けをしたり、収納する場所との距離や動線を考慮する必要がある
  • 洗濯機が普及する前は、専用の置き場所がなく、例えば昭和時代のアパートではベランダが洗濯機の置き場になっていた。
  • 今でも洗濯機を持たずにコインランドリーを利用する人がいる

台所

  • 食事をする場所に近いことが望ましい
  • いろいろなゴミを分別して入れておくスペースが必要になる

これらの条件を組み合わせてみると、トイレ+洗面所、浴室+洗濯場、台所、という三つのクラスターに分かれることがわかる。たとえば、僕が以前住んでいたマンションでは、トイレ、洗面所+浴室+洗濯場、台所、というような構成になっていて、トイレの後で手を洗うのはトイレの中で済まさざるを得なかった。その前に住んでいたアパートでは、トイレ+洗面所+浴室+洗濯場、台所という構成になっていたが、狭いアパートで来客といえるほどの人を迎えることもなかった。現在住んでいる家は、洗面所、トイレ+浴室+洗濯場、台所、というちょっと変わった構成になっていて、その使いにくさを出来てしまってから反省した次第である。

ホテルの水場

ここで考えたいのがホテルの水場である。ホテルは一つの生活の場といえるが、湯治場以外は、そこで客が食事を作ることはない。また洗濯についても必要ならクリーニングサービスを利用するということになっている。したがって考慮すべきなのはトイレ、洗面所、浴室の3つということになる。

欧米のホテルでは、大抵この3つが一つのドアの内側にセットになっている。日本の旅館では、トイレ、洗面所、浴室(大浴場のことが多いが)が独立しているが、最近のホテルでは欧米を真似てそれと同じような構成になっていることが多い。

日本のホテルは、特にビジネスホテルであれば、スペースファクターの関係で狭いスペースにこれらを収容するユニットバスを設置するのもやむを得ないとは思うが、不思議なのは、結構スペースのある欧米のホテルでこの構成をとっていることだ。一番困るのは、トイレと浴室とが同じ場所にあるために、二人で同室になった場合、ある程度なれ親しんだ二人であれば別だが、一方が浴室を利用している時には他方は遠慮してトイレを我慢しなければならなくなることだ。また一方が洗面所で歯磨きでもしている時に他方がトイレを利用したり、風呂に入りたくなった場合にも困ることになる。

洗面所(左手前)、浴室(中央奥)、トイレ(右奥)が一つのドアの内側にセットになっている、ホテルの客室の例(Image by: fhotels)。

いや、欧米では、元々ホテルの部屋は親しい間柄の二人が利用するか、さもなければ一人で利用するのが基本の考え方になっているのかもしれないが、日本のパッケージツアーなどでは、一人部屋料金を払わないと、単独参加者は他の同性の参加者と相部屋にされてしまうことがある。それが嫌で、僕は単独参加の場合には一人部屋料金を払うことにしているのだが、ともかくトイレと浴室が同じ場所にあるというのは、場合によっては親しい間柄の男女でも困る場合があるのではないかと思う。

もう一つ、これは日本のビジネスホテルに典型的なことなのだが、ユニットバスのなかに洗い場がないことだ。シャワーを基本とする欧米人ならいざしらず、湯船に浸かることを習慣にしている日本人にとっては、浴槽はきれいな湯が入っているべき場所である。しかるに洗い場がないユニットバスでは浴槽のなかで体を洗わざるを得ない。そうなると、体を洗っている最中に溜めた湯を排出し、シャワーで石けんを洗い流してから、あらためて湯をはってそこに浸かるか、シャワーで洗い流してから、そのまま体を拭いてしまうしかない。日本人的には、どうも満足できない点である。

ユーザビリティというのは、個々の製品や道具だけでなく、その組み合わせ方にも関わる問題である、ということの一例として、今回は水場を取り上げた次第である。

公開:2014年10月8日
著者:黒須教授

分類キーワード: