キーボードは109系に統一しませんか

ノートパソコンのキーボードの設計者にとっては、カーソルキーなどをどのように組み込んで全体として矩形の領域に収めるかという悩ましさがある。できることなら、ノートパソコン用にも標準となるキー配置が決められればいいと思う。

今回はちょっと謙虚な言い回しのタイトルにしておいた。メーカーのデザイナーの皆さんに、心からのお願いを、という意味合いを込めているのだ。

失敗体験

昨年の9月にPanasonicのCF-MX3を219,799円で購入した。私費である。気に入った点は多々あった。まず1.238Kgと比較的軽量であること。あちこち打合せなどに持ち歩くことが多いし、どうせACアダプタとマウスは一緒に持ち運ばなければならないから、本体はできるだけ軽い必要がある。そして高性能であること。Core i7-4500Uで1.8GHz。メモリはSDRAM 8GB。そしてSSD 256GB、というスペック。しかもBlu-rayドライブ付き。さらに、液晶が360度回転し、タッチパネルにもなっている。まあ営業用とかを想定したのかもしれないが、僕にはオーバースペックだ。ともかく、これで22万円なら安くはないが仕方あるまい、と購入した。そのときは、キーボードに問題があるなどと、露ほども疑ってはいなかった。

そして開梱して使用開始。そこでハタと気がついた。何なのだ、このキーボード。

図1 CF-MX3の鍵盤
図1 CF-MX3の鍵盤

まず半角/全角キーが左上になく、そこにはEscキーがおかれている。ただ、それほど頻繁に利用するキーではないので、これは我慢できる。問題のひとつはCtrlキーの位置。通常、というのは109キーボードなら左下隅に置かれているところ、ここでは左下隅にはFnキーが位置していて、Ctrlキーは一つ右側に移動させられてしまっている。Ctrlキーによるキーボードショートカットを頻繁に利用する身としては、たとえばCtrl+Zのかわりに間違ってFn+Zを押してしまい、あれ、元に戻らない、どうして、ああ、Ctrlじゃなかったのだ、となる。もちろんパソコンがこれ一台ならじきに慣れてしまうだろうが、メインで使っているのは自宅のデスクトップであり、当然それは109キーボード。なので、ノートを使っているときにはきちんと頭の切り替えをしなければならない。この面倒くささ。これがまず最初の問題である。

次に問題なのは文字キーの右下にある「ねるめろ」のキーだ。このキーが異常なほどに小さい。その理由はそれなりに理解できる。カーソルキーの上向き矢印が入ってきたので、そのスペースをあけるべく小さくしたのだろう。いや、カーソルキーを一段下げて、という選択もあったはずなのだが、そこはすっきりデザインを好むデザイナーの習性が邪魔をした・・のだろうと思っている。キーボード領域をきっちりした矩形に納めたい。それが大前提としてあった。だからキー打鍵のユーザビリティを犠牲にして「ねるめろ」を小さくしたのだろう。ユーザビリティが審美性に負けた事例といえる。

もっとも最近ではローマ字入力が普通だし、ローマ字入力をしている時には、その文字エリアは単に句読点を入力する時にしか使わない。だから犠牲は少ないだろうと考えたのだろう。いったいローマ字入力がどれだけ普及してしまっているのか、統計的なデータはもっていない。90%か95%か99%か99.9%か知らないが、とにかく圧倒的多数がローマ字入力になってしまっているのだとは思う。しかし、そこで考えて欲しいのはユニバーサルデザイン、つまりユーザの多様性に対するデザインだ。FEPの方ではちゃんとローマ字入力と仮名入力が選択できるようになっている。仮名入力は無視されてはいないのだ。仮名入力をしている僕にとっては、まあ死活問題というほどの重要なことなのだ。そのあたり、ユーザの多様性に対する感受性が低いと思われる同社のデザイナーの姿勢にはいささか憤慨すべきものがある。

でも、買ってしまったのだから、22万円も懐を叩いたのだからと、それを使い続けて半年以上たった。しかし、キーボードというのは食器のような日用品である。長さの違う箸を使うように強制されているようで、とうとう我慢がならなくなった。いくら料理がうまくても長さの違う箸で食わされては堪らないではないか。そこでまともなキーボード、つまり109キーボードを使っているパソコンを購入することにした。

いろいろ選んだ挙げ句、マウスコンピュータのLB-J510Bにした。ドライブを注文すれば本体に入ってくるのかと誤解して追加注文しちゃったので、価格はちょっと高めになり111,672円となった。それでもPanasonicのおよそ半額である。Panasonicの時はWindows 8も一応体験しておこうなどと欲をだしたため、えらい目にあった。そこで今回はWindows 7 Professional 64bitを選んだ。他のすべてのパソコンで僕が使っているものだ。スペックは、Core i5-5200U、メモリは8GB、HDDは500GB (5400rpm)。重要な重量は約1.4Kg。うーん、微妙なところなのだが、まあ我慢できるかな、という重さ。ドライブは内蔵ではないけれど、まあそこも我慢できる。ともかくキーボードは下のようになっていて基本109に対応しているのだ。

図2 LB-J510Bの鍵盤
図2 LB-J510Bの鍵盤

半角/全角キーは左上ではなく、一段下がっているけれど、数字キーの列の横にあるので問題ない。そして問題のCtrlキーはちゃんと左下隅にあるし、「ねるめろ」のキーも(ろのキーがちと大きいが)ちゃんとまともなサイズになっている。それなのにカーソルキーはちゃんと収まっている。見ると、シフトキーが小さくなっている。右シフトキーを多用する人には不便なのかもしれないが、僕の場合は主に左シフトキーを使っているから問題ない。そんなわけで、ちゃんとキーボードの矩形領域に収まっているわけだ。

そんなわけで、CF-MX3をどうしようか悩んでいるところだ。アプリや個人設定やメールのダウンロードなど、半日かかりの仕事をしたマシンなので人にやってしまうのも惜しい気がするが、さりとてこれからずっと使っていくかどうかも悩ましいところである。たかがキーボード、されどキーボード、である。

情報処理系鍵盤配列JIS X 6002:1980から109キーボードへ

キーボードにはJISキーボードと呼ばれるものがあるが、それは下図のJIS X 6002:1980に準拠したものを言う。冒頭にも書いてあるが、この規格は、「鍵盤上のキーの相対的な配置に関する規格であり、キー間隔、鍵盤の傾斜、キートップと間隔バーの形状、寸法のような物理的要因については除外してある」。この規格が制定されたのは1980年、つまり日本においてはPC-8001 (1979)やベーシックマスター(1980)、PC-8800 (1981)など、パソコンが勃興してきた時期である。このJISの制定時には、「ESCなど若干の制御文字を追加すべきであるとの議論もあったが、まだ一般的に使用されていないので規定しないこととした」。したがって、109キーボードにあるようなTabやCtrl、Windows、Alt、変換、無変換、カタカナ/ひらがな、などのキーの位置は規定されていない。しかし、少なくとも文字キーの相対的な位置関係は規定されているということなので、「ねるめろ」がそれぞれ「のりれけ」の斜め右下に位置する、ということはこのJISで規定されていると言えるだろう。

図3 JIS X6002:1980で規定された鍵盤(JISより)
図3 JIS X6002:1980で規定された鍵盤(JISより)

109キーボードがいつ制定されたのかははっきりしないが、およそ1980年代末から1990年あたりにかけてではないかと思われる。デスクトップ用のキーボードはこれ以外のものは見かけないし、店頭でチェックしても、ノートの大半はこれに近いものになっている。これが現在の主流のキーボードとなっている。

図4 106/109キーボード(ウィキペディアより)
図4 106/109キーボード(ウィキペディアより)

このキーボードの問題といえば、デスクトップ用の大型のキーボードのデザインになっているため、設計者にとっては、カーソルキーなどをどのように組み込んで全体として矩形の領域に収めるかという悩ましさが残されている。できることなら、ノートパソコン用にも標準となるキー配置が決められればいいと思う。こうした問題について、JISというものはデフォルトを追認する形になりやすいのだが、そろそろJISとしての改訂作業が行われてもいいのではないかと思っている。

公開:2015年8月10日
著者:黒須教授

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